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みずほフィナンシャルグループへの株主提案。欧米の機関投資家が本気で日本の銀行の気候リスク改善に踏み込みへ(藤井良広)

2020-06-27 23:10:00

Mizuho001キャプチャ

 

 25日のみずほフィナンシャルグループの株主総会で、わが国で初めて気候変動対策を定款で明確化することを求める株主提案が提出され、3分の1強の賛同を得た。賛成票を投じた投資家の中には、事前に投票姿勢を示していた北欧系の機関投資家に加え、米ニューヨーク市、カリフォルニア州教職員退職年金基金(CalSTRS)などの米大手も名を連ねた。欧米の機関投資家がそろって、日本の銀行の気候行動を問いただす一歩を踏み出した形だ。来年の株主総会では3メガバンク全体がターゲットになりそうだ。

 

 環境NGOの気候ネットワーク(KIKO)の株主提案には、34.5%の賛成票が集まった。過半数には達しなかったが、経営側が事前に否決した株主提案に対して、3分の1強の賛成票が投じられたことは、経営陣にとって無視できない結果である。http://rief-jp.org/ct1/103994

 

 KIKOの提案は「当会社(みずほFG)がパリ協定及び気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)に賛同していることに留意し、パリ協定の目標に沿った投資を行うための指標および目標を含む経営戦略を記載した計画を年次報告書にて開示する」という条項を定款に規定する、という内容だった。https://www.kikonet.org/wp/wp-content/uploads/2020/03/Shareholder-proposal_Kiko-Network_jp.pdf

 

KIKoによる株主提案(第五号議案)
KIKOによる株主提案(第五号議案)

 

 この提案には、多くのみずほの株主である欧米の機関投資家が賛同を表明した。気候変動問題を重視するスウェーデンの公的年金のAP7のほか、デンマークのPKA、MP Pensions、ノルウェーのNordea Asset Management、Storebrand ASA、Kommunal Landspensjonskasse等の北欧系機関投資家のほか、米ニューヨーク市(The Office of New York City Comptroller)、CalSTRS、英資産運用機関のLegal & General Investment Management (LGIM)等も加わった。まさにグローバル投資家が、「小さなKIKO」の提案を支える格好となった。

 

 ニューヨーク市は傘下に5つの公的年金を抱えており、その投資判断としてKIKOの提案を支持した。CalPERSは全米第二の公的年金。両機関を含めた米国の機関投資家が動いたのは、議決権行使助言会社のグラスルイス(Glass Lewis)とインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)が加わったことが大きいとみられる。https://comptroller.nyc.gov/services/financial-matters/pension/corporate-governance/proxy-voting-dashboard/

 

 英資産運用機関のLGIMも賛成した。LGIMの日本のESG担当者のAina Fukuda氏は「みずほへの株主提案は否決されたが、34.5%という賛成率は非常に重要。みずほの経営陣と日本の企業全体に、気候変動への対応、パリ協定の目標達成への貢献が重要で緊急に必要だという明確なメッセージを送ったことになる。われわれは長期投資家として、引き続きみずほと他の日本企業にエンゲージメント活動を続けていく」と英メディアに語っている。

 

 LGIMは、紛争兵器、企業腐敗、石炭関連企業を、投資対象から除外するリストを公表している。その中には、日本の東京電力ホールディングス、東芝、三菱自動車も列挙されている。いずれも企業不祥事が要因だ。今後、石炭関連で日本の3メガバンクが名を連ねる可能性もあるかもしれない。

 

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 KIKOの株主提案を支持したNordea Asset Managementの責任投資責任者のEric Pedersen氏は「みずほは、石炭火力発電事業へのこれまでの自らのコミットメントと規模を踏まえると、株主と社会のために、それらを変更し、カーボン社会からの移行を加速する役割を担っている。しかし、そうせずに、これまでのように石炭関連事業への投融資を続けるとすれば、みずほにとっても、グローバルな気候にとっても、重要なリスクだ」と指摘している。

 

 PKAのDewi Dylander氏も「今回の株主提案は、多くの企業が自らのビジネスモデルが、将来にわたって、金融面と気候関連面の両面で持続可能性に貢献できるものかどうかを問う重要な機会になった」と強調する。みずほへの提案はその「始まり」であり、今後、日本の他の金融機関、企業もその気候対応の是非を、グローバルな投資家から、正面きって、求められる時代に入ったとの評価だ。

 

 長期投資を前提とする欧米の機関投資家が投資先企業の気候変動対応を重視するのは、温暖化を防ぐというESG的観点だけではない。自らの投資ポートフォリオの将来リスクを早期に是正するという投資効率上の理由も背景にある。年金加入者の資産を預かる受託者責任(フィデシャリーデューティー)を果たす上で当然の対応でもある。

 

 そのうえで、彼ら欧米の機関投資家が、今回のみずほのような金融機関の行動を重視するのは、金融機関が気候変動対応をその投融資行動に反映させると、投融資先の企業・事業の気候対応を変化させる大きな波及効果を期待できるためだ。金融機関自身が投融資を通じた気候関連リスクを自らの投融資リスクとして評価・対応することは、TCFD提言が求めていることでもある。「TCFD、パリ協定に賛同を表明しているみずほが、それに対応した経営戦略を開示せよ」というKIKOの株主提案は、欧米の投資家にとって、至極当然ということになる。

 

環境NGOの報告書「化石燃料ファイナンス成績表2020(Banking on Climate Change 2020)」より
環境NGOの報告書「化石燃料ファイナンス成績表2020(Banking on Climate Change 2020)」より

 

 日本の企業・金融機関はTCFD提言への賛同数では他の国を上回る数を誇る。石炭事業を所管する経済産業省は賛同企業を集めた「TCFDコンソーシアム」なる組織を立ち上げ、「身を寄せ合うような格好」の宣伝活動を展開している。だが、TCFDが問うているのは、「現状」を身を合わせて守ることではなく、個々の企業が自らのリスクマネジメントとして、気候関連リスクを経営に取り込み、気候リスクを減少させ、さらに将来のリスクの顕在化へ備える体制を整備する、という点だ。

 

 もう少し言えば、石炭事業を所管する経産省、石炭事業を投融資先に抱える金融機関を監督する金融庁、環境を守るはずの環境省。これらの政策当局も、気候リスクを本気で取り込んだ政策展開をしているのか、という問いかけでもある。

 

 金融機関は、投融資先企業のそうしたリスク対応を評価してファイナンスの可否を決めるのが本来の役目であり、自らのリスクマネジメントでもある。それが、毎年のように、みずほを筆頭に、世界の石炭火力関連企業向け銀行ランキングで上位にランクされ続けている。さらに昨年来、自らの環境・社会ポリシーの改定で、新規石炭火力建設事業へのファイナンスを原則停止するとしつつ、「例外」規定として、内外での石炭火力事業へのファイナンス継続の可能性を残し、平然としている。その姿勢こそが「リスク」であることに気づいていないようだ。

 

 米系機関投資家の今回の動きは、グラスルイスとISSの推奨が大きい。ただ、その中で、世界最大の資産運用機関である米BlackRockは動かなかったとみられる。しかしそのBlackRockも今年初めには、温室効果ガス排出量の多いグローバル企業に、世界の機関投資家が共同して排出削減を求める「Climate Action 100+」活動に署名している。BlackRock自体、「動かない」ことがリスクを高めることを承知しているはずだ。

 

 今回の「みずほ案件」の「第一歩」の反響を踏まえ、来年の株主総会で欧米の機関投資家が本格的に踏み込んでくる可能性は、確実に高まったとみるべきだろう。これは単に、株主総会での票数を争う「攻防」だけではない。日本企業・金融機関が、気候危機の中で、どう生き残れるかという「存亡」の問題でもある。その決着は、この1年で着くだろう。国内の年金等の機関投資家も、受け身で傍観している立場ではない。

 

藤井 良広 (ふじい・よしひろ) 日本経済新聞元編集委員、元上智大学地球環境学研究科教授。一般社団法人環境金融研究機構代表理事。神戸市出身。