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東芝の不適切会計問題 浮き上がる「3つの疑問」--委員会設置会社、監査法人、内部通報制度は、なぜ機能しなかったか(藤井良広)

2015-06-08 00:53:35

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東芝の不適切会計問題は、第三者委員会の解明に焦点が移っている。同委は今月25日の株主総会で中間的な報告をする見通しだ。東芝の会計処理の適切性の当否は重要だが、同時にこの問題が提起する「3つの疑問」について明快な説明ができるかがポイントだ。

 

 「3つの疑問」の一つ目は、しっかりと整備されているはずの同社のリスク管理体制がなぜ、長期間にわたる問題を把握できなかったのか、という点だ。

 

 <信頼されない社内内部通報制度>

 今回の問題の発覚は、証券取引監視委員会に届いた内部通報がきっかけとされる。東芝は2000年に内部通報制度を設けている。また2006年には、物品の調達、工事発注などの取引に関する従業員のコンプライアンス違反を防止するため、取引先からの通報も受ける制度を導入した。問題に気づけば従業員も取引先も、情報発信するように奨励する制度を一早く取り入れてきた。

 

 同社の通報体制は社内での受付のほか、匿名による弁護士受付も可能だ。2013年の実績をみると、社内受付57件(匿名32件)、弁護士受付4件(同3件)となっている。またコンプライアンス強化のため全従業員を対象としたe-ラーニング(2013年度)では、贈収賄、不正取引、不適正支出などを重点とした教育プログラムを組み、「法令遵守の徹底に取り組んでいる」としてきた。

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 今回の問題を内部チェックする体制整備と、社員のマインド向上に取り組んできたはずだった。

 

 

 しかし、肝心のところで、これらの部制度は機能しなかった。当局への内部通報者の真意は推し測る以外にはないが、こうした社内の制度を素通りしたのは、「企業の社会的責任」として大掛かりに築き上げられた社内のリスク・コンプライアンス体制自体が、不正を隠す一種の”アリバイ工作“に使われているという不信感があったかもしれない。

 

 つまり、仮に「不正」が社内での了解のもとに行われているとすると、社内の通報制度を使うと、その通報者自体が一種の”業務違反”の扱いを受ける。社内の組織だった不正意識はなくとも、「慣習的な対応」の問題点を指摘することで、通報者自体が非難を受けるリスクもある。

 

 他の企業では、内部通報者がその後、人事等で不利益を被った事例も少なからず指摘され、訴訟になったケースも少なくない。東芝の企業風土にそうしたあいまいさはなかったのか。

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<監査法人は新日本有限責任監査法人>

 第二の疑問は、仮に組織的な不正会計ではなく、会計処理の不徹底等が原因だとした場合でも、そうした“会計的あいまいさ”が長期間に及んだことを監査法人はチェックできなかったのか、という点だ。

 

 同社の監査法人は新日本有限責任監査法人。東芝の2013年度決算の有価証券報告書では、監査を行った公認会計士は、同監査法人の濵尾宏、石川達仁、吉田靖、谷渕将人の4氏で、会計監査業務に係る補助者は、公認会計士66名、その他53名と記載されている。

 

 新日本監査法人の監査意見をみると、財務監査、内部統制監査とも、「すべての重要な点において適正に表示されている」としている。ただし、なお書きで、「財務報告に係る内部統制により財務報告の虚偽の記載を完全には防止または発見することができない可能性がある」との文言がある。いずれも上場企業の監査報告書での一般的な記載表現であり、事前に、問題点を把握して、「なお書き」を加えたものではない。

 

 ただ、今回の問題が監査法人の会計監査をも騙して行った不正会計なのか、あるいは東芝が慣例的に行っていた会計処理を監査法人も了承していたのか、という点は、これまでのところ明確ではない。仮に東芝が監査法人を欺いたとすれば、明確な有価証券虚偽記載の刑事罰になる。

 

 あるいは、会計上不適切にもかかわらず、新日本が東芝の会計処理を是として承認を与えていたとすれば、その監査責任が問われる。新日本監査法人は監査を引き受けていたオリンパスの損失隠し問題でも、金融庁から処分を受けた経緯がある。

 

<機能しない(?)委員会設置会社のガバナンス>

 最後の疑問は、東芝が委員会設置会社である点だ。日本企業の不透明なガバナンス体制の改革が政府の旗振りで進んでいる。コーポレートガバナンス・コード、スチュワードシップ・コードの採用、社外取締役の複数体制、そして委員会設置会社への移行などが、メニューにあがっている。その中で、もっともガバナンス強化に効果的かのように取り上げられるのが、委員会設置会社である。

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 企業トップの交代を社内の年功序列ではなく、経営力評価とするための指名委員会、経営者の報酬を業績連動とする報酬委員会、経営体制をチェックする監査委員会の3つが代表的な委員会。東芝は2000年に任意の形で指名、報酬委員会を設置した後、2003年には正式に3委員会設置会社に移行している。社外取締役も2001年にはすでに3人体制とし、現在は取締役18人中、4人が社外取締役となっている。

 

 また取締役会長、取締役副会長、社内出身の監査委員2人は執行役を兼務しない取締役で、社外取締役4人を合わせた8人が非執行役で、「執行と監督の適切なバランスを取るとともに、執行役を兼務しない取締役の半数を社外取締役とすることにより多様な知見に基づく監督機能を発揮させている」と説明している。

 

 各委員会の委員長も、指名委員会では外務省出身の谷野作太郎氏(元中国大使)、報酬委員会は同じく元外務省の島内憲氏(元スペイン、ブラジル大使)、監査委員会はジェイボンド東短証券社長の斎藤聖美氏と、いずれも社外取締役がそれぞれ務めている。

 

 今回の問題では、これら3委員会のうち、一義的に監査委員会が責任を負うとみられるが、現在までに同委員会が具体的な社内指示や社外の第三者委員会と何らかの対応をしている、などの情報は得られていない。また社外取締役には、著名な経営学者の伊丹敬之氏(東京理科大教授)も含まれる。同教授からも経営論に立脚した情報発信はない。

 

 東芝は内部監査担当の経営監査部に44人を配置し、監査委員会とは毎月2回の連絡会を開催し、緊密な連携をとって、業務執行の正当性、結果責任および法令順守の観点から、社内及びグループ会社等の監査を実施しているという。

 

 社外取締役主導の委員会設置会社も機能せず、実態は、第一の疑問で浮き上がった内部通報制度と同様に「アリバイ工作」の道具建てに陥っている可能性があるのだろうか。仮にそうだとすると、単に株価が下がるだけでは事は済まない。すでに海外の投資家などでは、集団訴訟の動きも出ているようだ。

 

 訴訟が提起されると、対象は企業としての東芝とともに、経営執行を担う取締役、監督責任を負う各委員会ということになるだろう。3つの疑問への明快な回答を得るには、最終的には訴訟まで見通さなければならないかもしれない(藤井良広)