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日本の低炭素化政策課題と提案:低炭素社会移行のコストを金融商品化し、日本に「グリーン投資の国際金融センター」を築け(藤井良広)

2015-06-18 16:25:38

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 温暖化対策をめぐる最大の課題は、対策費用にある。経済成長を優先する途上国にとっても、CO2排出量の多い先進国の産業界にとっても、削減のための追加コスト負担が重荷になる。しかし、このコスト負担を合理的、効率的に対応する金融商品に転換できる市場を創設すれば、途上国や排出事業者にとっても、金融商品を取引する投資家・金融機関にとっても、温暖化対策へのファイナンスと新たな長期投資市場の育成という両面の問題解決が可能になる。日本がそのリード役を務めれば、東京市場を「グリーン投資の国際金融センター」とすることも可能だ。(藤井良広)

 

<温暖化対策の費用は”小さい“>

 温暖化対策に必要とされる世界全体の経済的影響の推計はIPCCのAR5では暫定的に、2℃上昇による損失をGDPの0.2%―2.0%のレンジを示した。IEAの従来の推計では、2030年代までに途上国を中心として年間1兆~1兆6000億㌦の対策費用を想定している。COP21の交渉でも途上国で今後、必要とされる対策費用をどう担保するのかが、最大の焦点となる。

 

 年間1兆㌦を超す追加費用は膨大だ。だが、実は金融の世界から眺めると、極めてマイナーな規模でしかない。世界の金融市場(株、債券、融資の合計)の総額は220兆㌦とされる。これら伝統的な3部門の市場以外の商品、不動産、貴金属などを含めるとおカネの市場規模は倍増する。さらにそれらを原資産とするデリバティブ市場まで入れる超膨大で、温暖化の費用は「小さい」のである。

 

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<金融市場の基盤形成に国際合意を>

 ただ、金融のおカネは放っておいては温暖化対策に流れない。金融機関や金融人が、とりわけ地球温暖化対策に熱意を持つわけではない。一定の強制力を持つ温暖化対策の法規制やルールが導入されて初めて、排出削減ビジネスが市場化し、効率的な技術、手法、事業に資金が投じられる。

 

 2013年以降、世界各国で発行が増えているグリーンボンドは、そうした期待からCOP21の合意を先取りし、再エネや省エネ事業への資金を債券発行で調達し、新たな債券市場を育成しようと、欧米の金融機関主導で推進されている。グリーンボンドは、世界銀行などの国際公的金融機関による資金ニーズと、温暖化対策を国内的に推進する一部先進国のニーズ等を背景とした「試行・先行的」な試みである。先進的な日本企業の発行も起きている。

 

 金融機関にとってもグリーンボンド市場の形成は魅力を持つ。欧州金融危機後、債券市場の中心となってきた各国の国債市場で発行体格差が顕在化した。このため、長期投資を主とする年金、生命保険等は、資産・負債マネジメント(ALM)上の潜在的な課題を抱えている。適格な投資市場不足なのだ。またポートフォリオ上も国債との相関性が相対的に低い温暖化対策投資のような長期事業を資産とするグリーンボンドや、グリーン投資株上場市場などの整備が求められるのだ。

 

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<日本が唯一、国際金融センターになれる可能性>

 日本政府はこれまで、東京をニューヨーク、ロンドンに並ぶ国際金融センターにしようと、旗を振ってきた。しかし、国内の金融資産の規模にもかかわらず、内外規制の格差、金融機関のグローバル力の乏しさ、国内のソフト面のインフラ基盤の脆弱性等がネックとなり、シンガポール、香港に先を越されてしまった。しかし、グリーン投資を軸とした新たな金融市場の形成では、日本は「強み」を持つ。

 

 まず、再エネ、省エネの両分野で技術・実践の両面で豊富な経験と蓄積がある。FITなどによる国内の対象市場の成長は目覚しい。隣接するアジア市場は膨大な潜在グリーン投資市場である。グリーンの技術と、日本の金融資産、アジアでの日本の存在感、この3つを生かす政策展開ができれば、日本こそがグリーン投資の国際金融センターにふさわしい。

 

 その可能性を生かすも逸するも、日本の政治・政策面での決意次第である。すでに中国は国内での膨大な潜在グリーン投資需要を市場資金で賄おうと、債券発行制度の改革や、欧米投資家の引き込み等の対策を検討中とされる。COP21の成否を握る中国がAIIB同様、グリーン投資市場形成でも日本よりも先行するとすれば、日本は国際金融センターどころか、低炭素社会形成の次世代市場でも劣後してしまう可能性もある。政治・政策のレジュームチェンジを今こそ、大胆に、一気に、展開すべきだ。

 

 

 (公益財団法人地球環境戦略研究機関『the Climate Edge Vol.23』から転載)

http://pub.iges.or.jp/modules/envirolib/upload/6006/attach/CLIMATE_EDGE23.pdf