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木質バイオマス発電の「盲点」 輸入パームヤシ殻依存で、環境・社会リスクを無視(藤井良広)

2015-09-11 15:35:34

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 木質バイオマス発電が各地で広がっている。固定価格買取制度(FIT)においても、地熱と並んで優遇価格での買取り対象となっている。発電だけでなく、間伐材の有効活用のメリットや地域での雇用増も期待できる。だが、大型案件は環境・社会リスクを抱えていることが忘れられているようだ。

 最近の一例を紹介する。新潟市は、地元の新潟東港に併設する工業団地に大規模な木質バイオマス発電所を誘致、2016年6月の運転開始を目指している。発電事業者は、福島県で林業を運営するノーリンのグループ会社「バイオパワーステーション新潟」。設備は住友重機械工業のものを使用する。

 

 発電能力は5.75MW(メガワット)で、年間の発電量は4000万kWh(キロワット時)、一般家庭の使用量(年間3600kWh)に換算して1万1000世帯分に相当する。売電収入は年約13億円を見込む。

 

新潟に建設されるのと同型の木質バイオマス発電所
新潟に建設されるのと同型の木質バイオマス発電所

 

 燃料は緑が豊富な県内の森林で発生する間伐材などの未利用木材に加えて、製材後の端材や建築廃材を利用する。県内各地域で大量に残る間伐材の処理を迅速に進めつつ、売電収入も得る一石二鳥の期待がある。

 

 バイオマス発電は、太陽光や風力と違って、発電能力が気象等に影響されず、1日24時間の連続運転で年間に340日、稼働できる点がメリットだ。ただ、実はこの“フル稼働”を維持するには、県内の木質バイオマスだけでは足りない。そこで、同発電所では東南アジアからパームヤシ殻(PKS)を輸入して燃料に加えるという。パームヤシは成長時にCO2を吸収して育つため、燃やしてもCO2を排出したと見なされない。

 

 ただ、パームヤシ殻の輸入には、船舶で日本まで持ってくる輸送期間中のCO2排出量がカウントされていない。またアジアでのパームヤシ農場が熱帯雨林を伐採して拡大され、現地では生物多様性問題や、地元農民が生活変更を余儀なくされるという社会的問題も指摘されている。

 

 すべてのパームヤシ農園が自然破壊、社会破壊につながっているわけではないだろう。だが、熱帯林を「再生可能」ではない形に改変し、伝統的な生活習慣を維持してきた地元の農民を、パームヤシ農園のプランテーション労働者に変貌させることの社会的コストをどう評価するか、という点への回答は必要だろう。

 

 新潟のプロジェクトだけでなく、すでに各地でこうした海外燃料輸入を前提とした大型の木質バイオマス発電所の建設、開発が進行している。それはパームヤシ殻の輸入動向にも如実に表れている。 PKSを含むパームヤシ残渣の輸入量は、2011年は3万㌧弱。それが年々増えて、昨年は8倍の24万㌧になっている。特に昨年は前年に比べて約8割増と、FIT制度による優遇価格の設定の影響が伺える。将来は100万㌧という数字も業界では語られているようだ。

今年は1~5月分
今年は1~5月分

 

 その分、価格も上昇し、日本着価格は2011年はトン当たり9000円弱だったのが、昨年は3割アップの1万2000円になっている。今のところ、多少の輸入価格上昇でも採算に合うのだろうが、こうした環境・社会コストを加味していけば、将来はどうか。最大の課題は、マレーシアやインドネシアで住民団体や環境NGOが展開している生態系破壊に対する反対運動の影響だ。

 

 反対運動等で、パームヤシの生産が滞ると、ヤシ殻も十分に輸出量を確保できなくなる可能性がある。そうなると、日本国内に建設された大型の木質バイオマス発電所は原料不足に陥り、フル稼働が出来なくなる。こうしたリスクを抱え、地域で燃料を調達できない大型の木質バイオマス発電を、果たして「グリーン電力」と呼べるのだろうか。

 

 石炭、石油、天然ガスなどの海外産の化石燃料発電もいずれも、輸入原料に頼っている。そのため、鉱山での開発、輸送、精製、燃焼という全プロセスでのCO2排出量がカーボン・フットプリントとして問われている。再生可能エネルギー発電も、発電に伴うカーボン・フットプリントを、より正確に評価する必要があるということである。パームヤシ殻の場合、カーボン・フットプリントに加えて、生物多様性・社会リスクのフットプリントを無視できなくなってくると思われる。

 

 新潟の発電所の総事業費は33億円。福島県の東邦銀行が22億円、新潟県の第四銀行が10億円を融資する協調融資が決まっているという。金融機関は発電原料の抱えるカーボン・リスク、生態系リスク、社会的リスクを、信用リスク評価において審査する必要がある。この2金融機関は、その点も踏まえて融資を決めたということだと思うが、どうか。

 

  「再生可能エネルギー」という視点に立てば、原料の発電時のCO2排出量だけでなく、原料調達に際しての地域での再生可能性も、考慮する必要がある。要は持続可能かどうかである。                                 (藤井良広)