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COP21「2℃目標」達成の成否。 カーボン価格付けの仕組みをつくる「匠」の技にアリ(藤井良広)

2015-11-29 20:09:07

 COP21が始まる。各国共通の焦点である世界の気温上昇を「2目標」とする合意は、おそらくできるだろう。ただ、その目標を持続可能な形で達成できるかどうか。そのカギは、グローバルな「カーボンの価格付け」システムを築けるかにかかっている。

 

人気テレビ番組に「大改造!!劇的ビフォー・アフター」(テレビ朝日系列)がある。見るからに立て付けの悪い住宅や、猫の額ほどの狭小な家が、「匠」のリフォームの技によって、見違えるような快適ハウスに変身する。その一部始終が見るものを、驚かせ、感心させる。

 

 番組のポイントは、匠のデザイン力だが、同時に、格安で仕上げる経済性も魅力だ。デザインと経済性とのバランス。これがないと持続可能にはならない。温暖化対策も同じである。

 

 温室効果ガスを削減するための対策がいくら見栄えが良くても、その削減効果と経済的魅力がバランスしていないと、持続性はない。CO2排出量の多い産業・企業への規制ほど、そのバランスが求められる。

 

10月、石油、セメント、鉱業などのCO2高排出量産業のグローバル企業14社はCOP21での議論として、グローバルなCO2排出規制の強化、カーボン価格制度の導入などを求める共同声明を発表した。

 

 共同声明に参加したのは、石炭等鉱山開発でグローバル企業のBHP BillitonRio Tintoをはじめ、石油メジャーのRoyal Dutch Shell BP、アルミ製造のAlcoa、世界最大のセメント製造のLarfargeHolcimなどの重厚長大産業と、Hewlett-Packard IntelNational Grid PG&E Siemensなど14社。

 

 6月には、BPのほか、欧州の主要エネルギー企業6社が、国連とエネルギー企業との協議によって、グローバルベースでカーボンに価格をつける仕組みづくりを協議するよう別途、要請している。

 

 これらの企業はいずれも事業の性格からCO2排出量が多く、温暖化規制の影響を最も受けるとみられる。ところが、これらの企業が口をそろえて、規制の強化とカーボン価格付けを求めているわけだ。なぜか。

 nerthelandキャプチャ

 一つは、各国間で排出規制のばらつきが生じると、グローバル企業でもあるこれらの企業にとって、国ごとの対応コストやリスク上昇につながる。また、規制があると、他社より効率的な排出削減技術を開発できた場合、競争上、有利に立てる。さらにカーボンに価格付けする義務的な排出権取引制度があると、自社で削減した余剰分を市場で売却して利益を生み出すことも可能になる。

 

 しかし、排出削減はあくまでも企業の自主的な努力とする日本の経団連のような位置づけだと、企業業績が順調な時は対応可能だが、業績が悪化した際には、排出削減コストを持続するのは容易ではない。操業が低下して、結果としてCO2排出量が減る場合もあり得るが、削減効果と収益性のバランスは不安定になってしまう。

 

 こうしたことから、グローバルなCO2高排出産業・企業がこぞって、排出規制とカーボン価格付けを求めているわけだ。実際にも、欧州連合(EU)は2007年から域内での排出権取引を実施しており、電力、鉄鋼、化学、セメントなどの高排出企業に規制をかけるとともに、市場でのカーボン取引を認め、経済合理的な資源配分ができるようにしている。

 

 米国でも2008年からニューヨーク州など東部9州で電力会社を対象とした排出権取引制度が実施されているほか、カリフォルニア州も2012年から実施している。オバマ大統領が打ち出している石炭火力発電所のCO2排出量30%削減を求めるクリーン・パワー・プラン(CPP)も、排出権取引制度を導入して合理的な削減・移行を進める考えだ。

 

 このほか、中国は現在、7都市・地方で試行的な排出権取引制度を展開しているが、2017年には全国に拡大すると宣言している。そうなると世界最大のカーボン価格付け市場が誕生する。韓国も今年から導入している。

 C&Tキャプチャ

 一方、CO2排出量に応じたカーボン税の導入も各国で広がっている。カーボン課税は対象企業にとってコストだが、効率的な削減技術を導入すると、課税額を確実に削減でき、CO2削減を人件費や原材料費などと同様の「経済的費用」として扱うことができる。

 

 ただ、共同声明を出したCO2高排出量企業が懸念するように、現状は国によって、排出権取引制度もカーボン税もバラバラになっている。世界銀行の調べでは、現在、各国で導入されている税と取引制度の価格動向は、CO2排出量1㌧当たり1㌦以下(メキシコ、ポーランド等のカーボン税)から、同130㌦(スウェーデン)まで、大きな開きがある。

 

 また、同じ価格付けの仕組みでも、市場取引で価格が決まる排出権取引制度に比べ、国が税額を決めるカーボン税は、国ごとの差が大きい。また、税額の変更が容易ではない、といった事情もある。こうした排出権取引制度とカーボン課税を、いかに適正に組み合わせてデザインするかが、温暖化対策の「匠」の腕の見せどころとなる。

 

 ところが残念なことに、わが国では温暖化対策の「匠」が不在のようだ。世界ではCO2高排出企業も含めて、経済合理的な仕組みの共通化を模索している中で、日本では依然、経団連をはじめとして、「排出権取引は統制経済」「環境税使途拡大反対」とのスタンスを変えていない。経団連は全産業対象の低炭素社会実行計画(自主行動計画)で、業界団体ごとの自主的なCO2削減路線を堅持している。

 

 経団連が固執する「業界ごとの自主的行動」という枠組みは、同じ業界内での企業努力の差、技術力の差を十分に考慮しない点で、企業ごとの効果が市場に見えにくく、市場経済の原則との整合性がつかず、経済合理性を欠く、と言わざるを得ない。

 

 このため、COP21後に、各国間でカーボン価格付けの仕組みの共通化が図られていくすると、わが国の業界横並び”的な温暖化対策の「立てつけの悪さ」が、際立つ可能性もある。

 

 米欧や中国などの産業向け規制と価格付けシステムは、全産業を対象とするのではなく、CO2高排出企業を重点対象とする点も見落とされがちだ。CO2排出量の少ない小売、流通業、サービス業などは原則として規制対象外なのだ。日本の経団連ベースでは全産業こぞって自主規制となり、規制効果の低い産業にまで負担を強いることになる。この点でも日本方式は経済合理性を欠く。

 

 前述のCO2高排出量企業の共同声明は、COP21合意の条件として、エネルギー効率化と低炭素社会に向けたグローバル経済の長期的な方向性を示す各国規制や政策の透明性の促進主要経済国は公正な分担に貢献し、カーボンリーケージや競争上の不均衡の改善に取り組む各国政府は国際的なカーボン取引を推進し、費用対効果に優れたカーボン排出量削減の手段として活用すること、などを求めている。                                                        (藤井良広)

 http://www.c2es.org/docUploads/paris-statement-final.pdf