HOME |東京都・豊洲市場 土壌汚染問題。汚染地を売却した東京ガスの責任はどうなのか?(藤井良広) |

東京都・豊洲市場 土壌汚染問題。汚染地を売却した東京ガスの責任はどうなのか?(藤井良広)

2016-09-18 16:56:56

Toyosuキャプチャ

 

 東京都・豊洲市場の土壌汚染対策の妥当性が問われる中で、そもそもの汚染の原因を作り出した同地の元持ち主である東京ガスの対応はどうだったのか、という基本的な問いが改めて浮上している。

 

 東京都が豊洲地区への移転を決めたのは、2001年。同年4月に東京都中央卸売市場審議会から豊洲を移転候補地とする答申を受けた後、同年7月に東京ガスと基本合意。同年12月に移転を正式決定した。

 

 都が移転を決めた土地は東京ガスの豊洲ガス埠頭跡地。1950年代から70年代にかけた20年間、東京にガスを供給する基地となってきた。一日当たり200万㎥のガスを生み出したガス工場跡地だ。

 

1950年代から70年代にかけてフル稼働してガスを生産していた
1950年代から70年代にかけてフル稼働してガスを生産していた(豊洲ガス埠頭)

 

 しかし、電気との競合で1976年に操業を停止して以来、「無用の長物」となっていた。創業時のガス製造過程で排出されたベンジンや重金属などは、工場の地中に放棄され、そのまま封じ込められていた。

 

 それが、都の築地市場対策が現地での改修から移転へ計画がシフトするなかで、「豊洲再活用」として脚光を浴びるようになった。2001年の都の移転決定の動きに先行する形で東ガスは跡地の汚染調査を実施、同年1月には、その結果を発表している。

 

 同社の調査でも汚染は明確だった。ベンゼンが環境基準の1500倍だったほか、ヒ素49倍、水銀24倍、六価クロム14.54倍、鉛9倍などの重金属汚染も確認している。

 

 この調査結果を受け、東ガスは都と契約を結ぶ前の同年2月に「豊洲用地の対策工事」を始めている。基本は地区全体の汚染土壌を掘削除去し、新しい汚染されていない土壌に入れ替える手法を採用したことになっている。

 

 除去した土壌は汚染物質ごとに浄化処理を行った。①ベンゼンや油分は場内でバイオ処理等②ヒ素など重金属は場外で洗浄処理等③シアンや油分は場外での加熱処理ーーなど。対策は2007年3月に完了したはずだった。http://www.tokyo-gas.co.jp/csr/report_j/5_environment/pdf_management/E-4-2-1_h130125.pdf

 

 しかし2007年4月の東京都知事選挙で、豊洲の土壌汚染対策の不十分さが指摘され、再選された石原慎太郎都知事(当時)が再調査を指示した。その結果は、東ガスによって汚染土壌の除去・浄化は終わっていたはずなのに、環境基準の43000倍のベンゼン、同860倍のシアン化合物が検出された。

 

 東ガスの対策では、膨大な汚染を浄化しきれていなかったことが都自身の調査で判明したわけだ。しかし、都は2011年に東ガスと正式に売買契約を結ぶ。土地代金1859億円が払われた。東ガスは汚染対策費100億円と、追加の78億円を負担したが、それでは収まらず、都は追加で849億円を投じたという。http://blogos.com/article/190226/

 

 汚染対策費用は今回の問題の再発覚で、地下水から微量のヒ素などが漏洩し、地下空間の溜り水にまじっていることが確認されたことで、新たな対策費用が必要になるとみられている。

 

 東ガスは、2001年から実施した土壌汚染対策費用は負担した。だが、上述のように追加対策分は2割弱しか負担していない。環境問題の基本は汚染者負担原則である。土壌汚染対策の基本も、浄化対策が不十分ならば、汚染者が責任を負うのが基本だ。

 

 土地取引契約に買い手(都)が追加費用を負担するといった条項があるとすると、都自体が都民に対する責任が問われる。だが、これまでも、都議会では取引に対する追及は再三あったが、汚染責任と浄化責任の在り方はあいまいにされてきた。

 

 豊洲地区の土地売買については、築地卸売市場の仲卸業者らが都を相手取り、売買取引の妥当性を問う訴訟を東京地裁に起こし、現在進行中だ。同裁判で被告の都は、「東ガスは行うべき行為をすべて行っており、都が法令を上回る土壌汚染対策計画を策定した際の費用の一部の負担にも応じた経緯などから、土壌汚染を考慮しない価格で買い受けた行為は何ら違法ではなく、裁量の範囲」などと、東ガス擁護の主張を展開しているという。http://bylines.news.yahoo.co.jp/masakiikegami/20160730-00060535/

 

 長年にわたって土壌汚染を積み重ねてきたのが東ガスであることは否定できない事実である。少なくとも企業の社会的責任(CSR)の観点からの対応責任は今も、東ガスにもあるとみるべきだろう。しかし、東ガス自体は、今回の問題再燃に対して、“臆病な”ほど発言を控えているようにみえる。

 

 土壌汚染問題では、汚染地を掘削除去して完全に浄化を取り除いた場合でも、当該土地の価格が低迷する事態が発生しがちだ。これをスティグマ(Stigma)と呼ぶ。「過去の傷跡」といった意味だ。スティグマを払しょくするには、浄化対策の完全性と、浄化後の土地利用の適正さを徹底して情報開示することが必要だ。

 

 豊洲の土地を巡っては、もう一つ別の“スティグマ”の存在も指摘される。都と東ガスの不適切な関係として指摘されるのが、豊洲地区への移転、汚染問題の対応の渦中に、都庁の本局長から東ガスの執行役員に転身した人がいた点だ。にわかに信じがたいような人事だが、ご本人は現在、区長に収まっている。http://www.city.nerima.tokyo.jp/kucho/profile.html

 

 仮に「政治的なスティグマ」があるようだと、人々の不信感はまず、払しょくできない。

               (藤井良広)