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現時点における福島第一原発事故の費用と負担(金森絵里)

2016-12-27 15:02:47

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 現在、経済産業省内に「東京電力改革・1F問題委員会」(以下、東電委員会)(伊藤邦雄委員長=一橋大学大学院特任教授)が設置され、東京電力ホールディングスが2011年に引き起こした福島第一原子力発電所事故の費用と負担が議論されている。2016年10月5日に第1回が開催され、2016年12月20日までに8回を数えるという、ハイペースな議論となっている。

 

 

 東電委員会で示された現時点での福島第一原発事故の費用は、総額で21.5兆円とされる。内訳は、損害賠償7.9兆円、除染4兆円、中間貯蔵1.6兆円、廃炉8兆円である。この金額は、2014年に認定された東京電力の新総合特別計画における金額から倍増している。以下、表1に沿って、これまでの福島第一原発事故費用の見積りの推移を概観する。

 

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 福島第一原発事故後、東京電力が損害を賠償するために必要な資金の交付その他の業務をおこなうための原子力損害賠償支援機構法が成立し、2011年9月に原子力損害賠償支援機構(以下、機構)が設立された。機構は、東京電力と共同して、東京電力による損害賠償の実施その他の事業の運営及び東京電力東京電力に対する資金援助に関する計画(以下、特別事業計画)を作成し、主務大臣の認定を受けなければならないとされている(第45条)。

 

 これに従って作成されたのが2012年の総合特別事業計画であり、5月9日に大臣の認定を受けている。そこでは、当時合理性をもって確実に見込まれる金額として、要賠償額の見通し2兆5,462億7,100万円が示された(27頁)。しかし、廃炉に関しては「現段階では、各工程の具体的な費用の積み上げによる総額の見積は困難である」(24頁)とされ、具体的な金額は示されなかった。

 

 なお、これ以前に、「東京電力に関する経営・財務調査委員会」の報告では、炉心溶融が生じたケースの前例となるスリーマイル島原子力発電所事故における費用支出実績も参考としつつ、廃炉に係る負債総額を1兆1,1510億円と試算したが、この数字は、必ずしも廃止措置費用としての具体的な積上げによる試算ではなく、東電の会計上の引当の要否とは無関係に検討されたものである(24頁)として債務認識されなかった。除染・中間貯蔵に関しては言及されていない。

 

 その後、東京電力は、汚染水・タンク問題により国全体の信用に関わる事態を招き、さらに、賠償・除染・廃炉に関する総費用の先行きが明らかになるにつれ、企業としての先行きに不透明感が高まった。2013年12月には「原子力災害からの福島復興の加速に向けて」という方針が閣議決定され、この問題を東京電力任せにするのではなく、国が前面に立つことが明確化された。

 

 これを受け、2014年1月に新・総合特別事業計画を大臣が認定した。そこでは、「現時点での合理的な見積もりは困難だが、今後、被害者賠償だけで現在の交付国債枠(5兆円)を超える可能性がある」(4頁)として賠償が5兆円以上となることが示された。また、当時の環境省の試算等によれば、除染費用が約2.5兆円程度、中間貯蔵施設の費用が約1.1兆円程度と見込まれていることも示されている(4頁)。

 

 ただし、本試算は、交付国債発行限度額の算定のために環境省が現時点で実施した試算等であり、計数の精査、事業進捗等に応じて随時見直しが行われることとなっていたため、この金額を債務認識することはできない(4頁)と注記された。廃炉については、政府より、「福島第一原子力発電所1~4号機の廃炉措置等に向けた中長期ロードマップ」の終了までに、引当済の約1兆円に加え、不足の事態に備えるため、今後10年で1兆円程度の支出枠の確保が求められたとされる(5頁)。

 

 そして今年、表1にあるとおり、東電委員会において、2014年の新・総合特別事業計画から見積もりが倍増したことが明らかにされた。賠償と除染については、経済産業省において今後必要となる資金の見込みとして算出した金額であるとされた。廃炉に関しては、「有識者ヒアリング結果報告」を引用したものであり、経済産業省として評価したものではないことが注記され、東京電力による債務認識は回避されている。

 

 表2は、東電委員会が上記21.5兆円の負担のあり方を整理したものである。廃炉については、機構と同様の枠組みで東京電力の債務回避と存続のため、費用を外部に積み立てる方式を導入する。

 

 賠償については、本来であれば原子力事業を開始した当時から措置されておくべきだった「過去分」であるため、これまでの消費者はこれを支払わず安い料金を享受してきたことから今後支払うべきであるとして、東京電力のみならず大手電力・新電力の顧客からも託送料金から徴収することとされている。除染については2012年7月に機構が東京電力の株式引受で払い込んだ1兆円を、将来売却することによって得られる金額を充てるとされている。除染には4兆円が見込まれていることから、売却益は5兆円以上が必要となる。中間貯蔵については、国のエネルギー予算を充てるとされる。

 

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 議論すべき論点は無数にあるのだが、東電委員会では上述のとおりハイスペースで議論を重ねており、丁寧な進め方をしているとは言い難いのが現状である。これらの費用負担のあり方に関する無数の問題点を国民の側がひとつひとつ指摘し、議論する余地を残していない。このようなやり方が可能なのは、廃炉積立金制度や託送料金への上乗せ、東電株売却益の予想と使途の決定など、すべて経済産業省内で決定される費用負担方策を利用しているからである。

 

 しかし、例えば同じ国民負担であっても税による負担とするならば、国会での議論が必要になり、より開かれた議論になる。国会での議論というのは、国家予算を含めた法制度として承認するプロセスであり、今回の経産省がやろうとしているのは、行政権限だけによる認可で、国民負担を決めようとしている。国民不在の場で国民負担策を決定する、国会軽視の議論に対する反発は強い。

 

 

 

 金森 絵里(かなもり・えり)  京都大学経済学部、同大学院経済学研究科博士後期課程中退。イギリス・カーディフ大学カーディフ・ビジネス・スクールPhD課程を経て、2008PhD(カーディフ大学)。現在、立命館大学経営学部教授。滋賀県出身。

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