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石炭火力と原発への執着:世界の流れに逆行(明日香壽川)

2017-03-30 10:48:33

coalキャプチャ

 

 今、日本全体で45基もの石炭火力発電所が新規に建設されようとしている。筆者が住む仙台でも、関西電力と伊藤忠の子会社である仙台パワーステーションが被災地である仙台港で建設を進めており、さる3月8日、ほぼ工事を終えた段階で初めて住民説明会が開催された。

 

   この発電事業では、電気は首都圏へ送り、東北電力など地元の電力会社との競合も考えれば、地元での雇用拡大などの経済効果は限られている。説明会には、健康被害や環境影響を心配して近隣住民500人あまりが集まり、会場は「土地が安いからといって被災地を食い物にするな!」などの怒号とヤジで騒然となった。

 

 通常、このような健康や環境に影響を与える可能性がある事業は、計画段階で地域住民に説明するのが常識であり、環境影響評価(アセスメント)も行うのが企業の社会的責任である。しかし、仙台パワーステーションは住民説明会も環境アセスもかたくなに拒否してきた。

 

 実は、国の法律で環境アセスメントが必要な発電出力は11.25万kW以上である。このため、今、日本では、この大きさをギリギリ下回る発電出力(11.2万kW)の小型発電所が乱立しようとしている。いわゆるアセス逃れであることは明白であって、企業倫理的にも大きな問題がある。仙台パワーステーションも、この小型であり、宮城県議会での請願書採択や環境相の意見があって、建設がほぼ終了した時期になってようやく開催したのが3月8日の説明会だった。

 

 石炭火力発電は、温暖化ガスの大量排出という意味でも問題だ。ドイツのジャーマンウオッチというシンクタンクは、日本の温暖化対策を、対象とした主要排出国58カ国中、下から二番目の57位と評価した。

 

 原発の多くが稼働していないからというのは理由にならない。なぜなら、ドイツは脱原発を決めていて、かつ日本よりもはるかに厳しい温暖化対策目標を持っている。パリ条約に提出した文書で「温暖化対策として原子力発電の拡大」を明示していたのは、トルコや日本などわずか6カ国だった。多くの国は、温暖化対策に原発は不要としている。

 

 日本での、いわゆる「原子力村」は、実は「(原子力+石炭)村」だ。彼らは、「発電には原発か石炭火力の二者択一しかなく、省エネは無理」という神話を作ることで、原発と石炭火力のどちらかは残るようにし、かつ電力消費などを意図的に増やすことで利益を最大化してきた。

 

 しかし、今、世界では、地域分散型で安全保障にも貢献する自然エネが、原発や石炭発電よりも安くなっている。LED電球の普及など省エネも進行している。日本でさえも、2010年度の原発による発電量の70%が、その後のたった5年間で自然エネと省エネに置き換わった。

 

 このような中で3月14日、四国電力と住友商事が別の石炭火力発電所を仙台港に建てる計画を発表した。開いた口がふさがらない。津波被災地が狙われるのは、地価が安く首都圏に近いため、企業にとって利益が上げやすいからだ。「利益は大阪や四国に、電力は東京に、汚染とリスクは東北に、責任や賠償は次世代に」という構図であり、原発と全く同じである。

 

 福島第1原発事故から、私たちは一体何を学んだのだろうか。メリットよりもデメリットの方がはるかに大きい施設の建設を認めた市や県にも大きな怒りを覚える。

 

 今月の二日と三日に、今度は四国電力らによる説明会が東北福祉大仙台駅東口キャンパスと夢メッセ宮城でそれぞれ午後二時と午後六時から開かれる。ぜひたくさんの方が参加して大きな反対の声をあげていただきたい。

 

 明日香壽川(あすか・じゅせん):東北大学東北アジア研究センター中国研究分野教授兼同大環境科学研究科 環境科学政策論教授、 (財)地球環境戦略研究機関(IGES)気候変動グループ・ディレクター、環境省中央環境審議会地球環境部会排出量取引制度小委員会委員など兼務