HOME4.市場・運用 |GPIFがESG指数で投資する「本当のリスク」は何か?(熊沢拓) |

GPIFがESG指数で投資する「本当のリスク」は何か?(熊沢拓)

2017-07-10 22:53:50

gpif3キャプチャ

 

  7 月3日、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)はESG 指数の選定結果を公表した。選ばれたESG 指数は、ESG 全般を考慮に入れた「総合型」の2 指数として、①FTSE Blossom Japan Index、②MSCI ジャパンESG セレクト・リーダーズ指数、社会(S)のうち女性活躍に着目した「テーマ型」指数として、③MSCI 日本株女性活躍指数の3 指数である。運用規模は当初、国内株全体の3%程度(約1 兆円)で開始した。このGPIFのESG指数がどういう運命をたどるのか?このESG指数の本当のリスクは何か?を考えてみたい。

 

今後のESG指数の宿命は?

 

  これまでも、JPX日経インデックス400に加えて、MSCI「日本株人材設備投資指数」、JPX/S&P設備・人材投資指数、野村企業価値分配指数など、様々な株価指数が市場に投入されている。

 

 そもそも、株価指数はそこに含まれるテーマの大きな流れを把握するベンチマーク機能がまず求められる。本来、その株価指数がTOPIXなどの一般的なベンチマークを下回ることは特に大きな問題ではない。しかしながら、株価指数の設定の副次的な目的は、そのテーマ設定による株価指数を設定し、そこに含まれる企業群の株式売買やETF設定、市場全体を活性化したいという思惑がある。

 

GPIF2キャプチャ

 

 また、GPIFは国民の年金を運用しているので、常に国民の目にさらされており、四半期ベースで投資運用パフォーマンスをあげるプレッシャーにさらされている。GPIFのESG指数もTOPIXを上回るパフォーマンスを暗黙に期待さている。http://rief-jp.org/ct4/71023?ctid=69

 

 ESGリスクは事前に予測するのは難しく、顕在化した場合に一気に株価が調整されるケースが多い。例えば、最近でも、PCデボやDENA、タカタなど、ESGに関する様々な不祥事が発覚後、市場で急激な株価下落に見舞われた。仮に、これらの企業がESG指数に入っていた場合、銘柄を入れ替えていく必要が生じるのである。

 

 JPX日経400も、定期銘柄入れ替えで、全体の5%の入れ替えをおこなうことで、この要求に応える形になっている。したがって、ESG指数に関しても、指数の連続性は犠牲にしつつ、銘柄の入れ替えをおこなっていくことが予想される。

 

 ただ、本来の企業のESG活動は短期的な成果というよりも、中長期的な成果を生む活動として位置付けられるものであり、ESG投資も中長期的にみるべきものであり、この点で短期的な市場パフォーマンスとの間に矛盾が生じることになる。

 

 

GPIF5キャプチャ

 

ESG指数生成上の課題

 

 ESG指数生成上の課題もある。ESG指数の中で、それぞれの構成要素となるKPI(重要業績評価指標)は、企業が公開した非財務情報データがベースとなっている。Gに関しては企業の情報公開は充実し、かつ情報開示スピードは早いのに対して、Sはそもそもの情報開示KPIが少なく、かつ情報開示スピードが遅い、Eの場合、情報開示されたKPIは企業ごとに開示のばらつきが大きく、かつ情報開示スピードが遅い。非財務情報はほとんどが1年に1回の開示・更新になっており、情報開示のスピードが遅いのである。

 

 情報開示スピードが遅いことは何が問題となるのだろうか? 情報開示スピードが遅いと、開示された情報によって評価基準で選定しても、目の前の実態との乖離がすでに大きく生じていることを意味している。いわば、バックミラーで車を運転しているようなものであり、突然の出来事に早急に対応できない。例えば、収益力をもとにした指数を考える場合に3年前のROE水準で選択したとすると、当然だが、すでに現在との収益力との間に乖離が生じている。株価パフォーマンスに本当に重要なのは、将来の収益力の評価である。

 

 この懸念が、今回のGPIFのESG指数に関しても成り立つのである。つまり、市場の急激な変化には対応できない可能性が高い。市場に大きな変化が起こった場合には、大きなトラッキングエラーが生じる可能性が高いのである。

 

ESG指数の本当のリスクは?

 

 そもそも、ESG指数の本来の目的は、ESGに優れた企業に投資すること、ESGにお金を回すことで、世の中や環境がより良くなる、ことを目的としている。

 

 しかしながら、たとえこのESG指数が活況化し、投資家がお金を回したとしても、世の中や環境が全く良くならなかったらどうだろうか? このESG指数で投資する意味はあるのだろうか?

 

 インパクト投資の世界ではこのリスクを「インパクト・リスク」と呼ぶ。ESG指数の、より根本的なリスクはこのインパクト・リスクの方である。

 

 インパクト・リスクは、ESG指数が「真のインパクト」と乖離していることから生じる。現在のESG指数は企業開示、アンケートによって集計された過去データによって、KPIを選定し、指数開発会社が恣意的に決めた加重比率によってESG指数を策定する。したがって、必然的に大きなインパクト・リスクを生んでしまうのである。事実、今回採用されたFTSE社とMSCI社の共通するユニバース銘柄にはゆるい相関しかない。つまり、指数開発会社によって、どの企業がESGに優れているかどうかの評価はばらばらでしかないのである。

 

 投資家は今回のGPIFのESG指数によるESG投資に、このようなリスクを孕んでいることをよく把握した上で投資する方が賢明だろう。

 

熊沢拓(くまざわ・たく) (株)ソーシャルインパクト・リサーチ代表パートナー。 日本合同ファイナンス(株式会社ジャフコ)、ソフトバンク・インターネットファンド、HSBC証券、三菱UFJキャピタルなどを経て、2010年、同リサーチを立ち上げる。<takukumazawa@gmail.com>