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「提言から取り組みへ」。OECDグリーンファイナンス・投資フォーラムの展開について(高田英樹)

2017-11-14 21:32:32

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 2017年10月24日・25日の2日間にわたり、パリのOECD本部で、「OECDグリーンファイナンス・投資フォーラム」(OECD Forum on Green Finance and Investment)を開催した。本フォーラムは、OECDにおけるグリーン・ファイナンスをテーマとしたイベントとしては最大のもので、2014年から毎年開催しており、今回で4回目となる。昨年は初めてこのイベントをパリの外で、しかも東京で開催した。その東京での会議において、OECDグリーンファイナンス・投資センター(OECD Centre on Green Finance and Investment)の立ち上げが発表され、今回は、このセンターの下で行う初めてのフォーラムとなる。

 

 2日間の会議は、グリーン・ファイナンスの主要論点をほぼ網羅し、世界中の官民から参集したキー・プレイヤー達による密度の高い議論が行われた。冒頭のキーノート・スピーチを行ったのは、フランスのブリュヌ・ポワルソン国務大臣(日本でいえば環境副大臣に相当。なお、直前まで、スピーチはニコラ・ユロ環境大臣が行う予定であったが、急遽交代となった。)及び、小池百合子東京都知事である。

 

 ポワルソン大臣からは、世界における気候変動対策投資の拡大の必要性と、それに向けて12月にパリで気候サミットを開催するフランスの決意を訴えた。小池知事からは、2020年のオリンピック開催へ向け「金融」と「環境」のリーダーを目指す東京の取組みが紹介された。このような国際会議において東京がクローズアップされるのは、日本人としては嬉しいことである。また、パリは、東京に続き、2024年にオリンピックを開催することが決定している。東京からのメッセージは、当地パリに参集した人々にもより身近に感じられたのではないだろうか。

 

 これらのスピーチに続いて、アル・ゴア元米国副大統領のビデオ・メッセージが上映された。ゴア氏は、本フォーラムの第1回目、第2回目にも出席しており、今回は日程が合わなかったものの、特別にビデオ・メッセージを収録してくれたのである。ゴア氏は、Do we really have to change? Can we change? Will we change?の3つの問いを投げかけ、答えはいずれもyesであることを力強く述べた。

 

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   これに続くハイレベル・パネルでは、地球環境ファシリティの石井菜穂子事務局長や、ADB(アジア開発銀行)やEIB(欧州投資銀行)の副総裁など、錚々たるパネリスト達が、グリーン投資を加速するための国際機関の役割について議論した。

 

 初日のセッションで特に秀逸だったのは、グリーン・ボンドに関するパネルである。Climate Bond Initiativeのショーン・キドニー氏がモデレータを務め、現在は年間発行額1000億ドル前後であるグリーン・ボンド市場の規模を、1兆ドルまで拡大させるための具体的な方策について、聴衆に直接尋ね、会場は大いに盛り上がった。

 

  フォーラムの2日目も大変充実していた。「持続可能な投資へ向けた金融システム」に関するセッションでは、保険会社アクサに所属し、EU HLEG(High Level Expert Group on Sustainable Finance:持続可能な金融に関するハイレベル専門家グループ)議長、TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures:気候関連財務情報開示タスクフォース)副議長を務めるクリスティアン・ティーマン氏が、金融システム全体に持続可能性への配慮を組み込む必要性を説いた。

 

 これに続くセッションでは、機関投資家(アセット・オウナー、アセット・マネジャー)がESG要素や気候情報開示をどのように意思決定に反映させるかについて、掘り下げた議論がなされた。この分野における、日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の動きは世界から注目されている。GPIFの理事・CIOである水野弘道氏は、機関投資家が受益者の長期的な便益を追求する観点から、ESGに関して高いレベルの取組みを行い、それを規範化させていくべきと述べた。

 

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 以上は、2日間にわたる、10のセッションと80名以上のハイレベルなスピーカー、そして600人以上の参加者による議論のごく一部の紹介に留まる。OECDのホームページからフォーラム全体のアジェンダ等を参照し、フォーラムの模様をウェブキャストで視聴することもできるので、是非ご覧いただきたい。

 

  2016年10月、東京で開催したフォーラムは、規模的には今回より小さかったが、100名を超える一線級のプレイヤーが世界から東京に集まり、日本からも、関係省庁や代表的な金融機関が一同に会した。これは、グリーン・ファイナンスを主要テーマとして日本で開催された大規模な国際的イベントとしてはおそらく初めてのものであり、その後、類似のテーマに関する国際的イベントがしばしば国内でも行われるようになった。その意味で前回のフォーラムは、日本におけるグリーン・ファイナンスの機運を高める契機となったものと自負している。

 

  そして、今年はまた舞台をパリに戻し、新たなグリーンファイナンス・投資センターの下、世界的なレベルでグリーン・ファイナンスの加速を促すための議論がなされた。この2つのイベントの間に起こった様々な出来事・進展を、今年のフォーラムは反映していたように思われる。

 

 1つはネガティブな要因として、米国がパリ協定からの脱退を表明したことだ。これが、気候変動対策に向けた国際的協調の観点から望ましくないことは言うまでもない。だがそれは逆に、都市・地方自治体や、民間企業といった、非政府主体の役割をクローズアップすることともなった。今回のフォーラムでは、民間資金の動員という従来からの主要テーマに加え、グリーン・ファイナンスの推進に関する都市の役割に焦点を当てたセッションが用意され、マイケル・ブルームバーグ氏のアドバイザーを務めるカール・ポープ氏もスピーチを行った。前述のように、日本から小池都知事がキーノート・スピーカーとして参加したことも象徴的である。

 

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 第2に、ポジティブな動きとして、TCFDによる最終提言の取りまとめや、EU HLEGによる中間提言の公表など、先進的なグループによる国際的な議論・取組みがさらに進展している。今回のフォーラムは、こうした成果を土台とし、さらに議論を深めるものとなった。既に様々な場でグリーン・ファイナンスの意義を語りつくしている専門家達が数多く集まったこともあり、課題の提示の段階を越え、より具体的に変化を起こすためのアクションに重点が置かれたことも印象的である。

 

  グリーン・ファイナンスへの政策支援としては、いかにして市場を過度に歪めずに、グリーン・プロジェクトへの投資や融資を促進するかが重要だが、前述のショーン・キドニー氏は、「Distort the market!」(市場を歪めよ)と挑戦的に叫んだ。そのぐらいのことをしなければ、気候変動対策に十分な規模までグリーン・ファイナンスを拡大することはできないとの意図であろう。もっとも、こうした会場の熱気が、会場の外、一般的な経済界や政府関係者にまで広く共有されているわけではない。その溝を越え、いかにしてより多くの人々に理解を広げていけるかが、グリーン・ファイナンス関係者の今後の課題であろう。

 

(OECD環境局上級政策分析官、財務省より出向中:文中、意見にわたる部分は個人としての見解である)

 

高田英樹(たかだ・ひでき) 1995年大蔵省(現財務省)入省。2003~06年、英国財務省に出向。主計局、主税局、内閣官房国家戦略室、広報室長等を歴任。15年7月からOECD勤務。ケンブリッジ大学法律学修士、ロンドン大学経営学修士。