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日本企業のSDGs取り組みを加速させる情報メカニズムの構築(熊沢拓)

2017-12-06 16:42:57

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1.日本企業のSDGs取り組みの遅れ

 

 日本企業のSDGsの取り組みの遅れが目立ってきている。現在、日本政府、各省庁は日本企業の先進的なSDGsの取り組み(ベストプラクティス事例)の公表と表彰で、日本企業のSDGsを促進しようとしているが、まだまだ不十分である。このままでは、日本の国際的プレゼンスの低下を招くし、世界の社会的課題、環境課題の解決の遅れ、持続的な社会の実現が遅れる。

 

 SDGsを推進する上では、お金の流れを変えることがレバレッジになるになると考えられるが、日本の投資家はSDGsを投資テーマとして積極的に取り組んでいるとは言えない。現在のところ、SDGsは投資家にとっての投資の情報シグナル、インセンテイブを有しているとは言えない。

 

  1. SDGsインパクト評価プラットフォーム構想

 

 このような現状を少しでも変えるために、SIR社はシステム開発会社と投資家がSDGsを投資判断に活用できるAI(人工知能)を活用した企業SDGsインパクト評価プラットフォームの開発している。

 

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  このプラットフォームでは、ビッグデータ、AIを活用し、企業の有効な財務データと非財務データを識別して、組み合わせる自動モデリングで、将来の企業のSDGsインパクトと財務パフォーマンスを予想する。

 

主な特徴は、

  • AI(人工知能)を活用することで、従来のモデルよりも、本当のインパクトの評価、予測できる
  • 人間では見つけづらかったリスク要因も把握し、潜在的なリスク量の定量評価ができる
  • SDGs各開発目標と財務パフォーマンスとのトレードオフ、トレードオン(両立性)を予想できる
  • また、投資家も、投資家の嗜好、リスク選好度を反映 した、カスタムメイドのポートフォリオインデックスを瞬時に作成できる。

 

  ここ数年間、環境省は、環境情報開示基盤整備事業「ESG対話プラットフォーム」を推進しているが、投資家が投資に実際に活用できるものにはなっていない。

 

   問題点は、環境課題への取り組みなどの一元的な情報の集約だけで、環境への取り組みと財務パフォーマンスの両立性(トレードオン/トレードオフ)の情報を判断できる枠組みになっていない点である。投資家からすると、環境への取り組み、SDGsの取り組みが企業価値とトレードオンなのか、トレードオフなのかという情報は投資判断する上で極めて重要な情報だからである。

 

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  これに対してSDGsインパクト評価プラットフォームは、

 

  • 日本の上場企業でどの企業がSDGsの取り組みが進んでいるのか?
  • それぞれの開発目標で、どの日本企業が進んでいるのか?
  • 本当のインパクトを生み出している企業はどこなのか?
  • SDGsの取り組みと財務パフォーマンスが両立(トレードオン)している企業はどこか?
  • SDGsの取り組みが企業価値、株価の上昇につながっている企業はどこか?
  • SDGsの取り組みと企業価値向上と両立している産業、セクターはどこか?

 

などをダッシュボード形式で瞬時にわかる形になっている。

 

 3.従来のESG指数の課題と問題点

 

 今年6月に、GPIF(年金積立管理運用独立行政法人)はESG指数の3指数(MSCI、FTSE開発)を選定した。しかしながら、GPIFが採用した後も、ESG指数に含まれる採用企業の中から、不祥事が続出している(神戸製鋼、日産自動車、三菱マテリアル、三菱自動車、東レなど)。残念ながら、今後もこの傾向は続くであろう。

 

 神戸製鋼所による製品の品質データ改ざんは株価の急落を招いただけでなく、株式市場全体を震撼させた。神鋼は資産運用業界に「企業統治の優良企業、ESGの優等生」と持ち上げられていただけに、投資家の失望は一段と大きく、5000億円近くあった時価総額のうち約2000億円が吹き飛んだ。

 

  指数開発会社(MSCI、FTSE)は、規範的なアプローチを採用し、企業側が自主的に開示する過去データ、過去のKPIに大きく依存している。また、企業側が隠している事象を探り当てるだけのAIロジックが実装されているわけでもない。

 

 したがって、このようなESG指数で投資している限り、投資家側はインパクト・リスクを抱えたままであり、ESG投資は投資家の自己満足で終わったり、予期せぬ事実が事後的に公表されて、予期せぬ株価下落で不意打ちを食らうことになる。

 

4. 今後のあるべきアプローチ

 

 これに対して、当社のアプローチは、AIを活用したデータドリブンな実験的アプローチを採用し、従来の将来のインパクト予測力が高い。また、今年ノーベル経済賞を受賞した、セイラーの選択アーキテクチャー理論、ナッジを活用するという相違点がある。

 

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  今後、インパクトの評価を、上場企業以外にも、NPO、ソーシャルベンチャー、未公開企業等へ対象先を広げていく予定であり、休眠預金によってインパクト評価が必要になるが、それにも対応していく構想である。

 

  熊沢拓(くまざわ・たく) (株)ソーシャルインパクト・リサーチ代表パートナー。 日本合同ファイナンス(株式会社ジャフコ)、ソフトバンク・インターネットファンド、HSBC証券、三菱UFJキャピタルなどを経て、2010年、同リサーチを立ち上げる。<takukumazawa@gmail.com>