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中国電力の石炭火力発電所建設への「環境相意見」をめぐり、分かれる大手メディアのスタンス(藤井良広)

2018-01-13 23:58:41

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  環境省は、賛成なのか反対なのかーー。中国電力が島根県浜田市で建設計画中の三隅石炭火力発電所2号機に対して環境省が公表した意見をめぐり、報道のスタンスが微妙に分かれている。毎日が「石炭火力認めず」と反対論を明確に打ち出し、朝日、NHKなども「再検討促す」と同省の慎重さを強調。これに対し日経は「火力新設を容認」と書いた。どれが正しいのか。

 

写真は、現在稼働中の三隅石炭火力発電所1号機)

 

 論議になっている中国電力の石炭火力発電所は、1998年から稼働開始した1号機(出力100万kW)に加えて、同規模の石炭火力の2号機を建設する計画だ。ただ、2号機の計画は、管内の電力需要が低調なことから、これまでも2000、2003年、2010年と3度も建設延長されてきたいわくつきの案件だ。

 

 中国電力の温室効果ガス排出係数は0.691kg-CO2/kWh(2016年度実績/2017年12月22日環境省発表)と非常に高く、電力事業者に求められている事業者目標の0.37kg-CO2/kWhを大きく上回っている。2号機が建設されると、年間500万㌧以上のCO2排出量が増加するとみられる。

 

 国際的には日本も署名したパリ協定で、世界の気温上昇を産業革命前から2℃以下へ十分に低く抑制することで合意している。CO2排出量の多い石炭火力発電の新設は、そうした国際的な潮流に逆行することは明らかだ。しかし、他の先進国の多くが石炭火力発電を縮小している中で、日本はむしろ新規建設を増やしている。中国電力の三隅発電所はその一つなのだ。

 

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 100万kWの発電所なので環境影響評価(アセスメント)法の対象となる。そこで、建設の許認可権を持つ経済産業相は環境相の意見を求めるという手順に基づいて、環境省は、中川雅治環境相名で意見書を取りまとめた。その意見の評価で、主要メディアの論調が分かれたわけだ。

 

 同報道についての主要各紙の見出しを比べてみよう(1月12日から13日にかけての各メディアの電子版より)。

 

▼朝日新聞「中国電石炭火力、再検討促す『温暖化対策ないと容認されない』環境相が意見書」

▼NHK「環境相   中国電力の石炭火力発電所の再検討求める方針」

▼毎日新聞「中国電力の石炭火力認めず 環境相が意見書」

▼共同通信「環境省排出削減求める」

▼時事通信「島根の石炭火力増設、再検討を=中川環境相が意見書」

▼読売新聞「石炭火力発電所の増設 環境省が意見書提出へ」

▼日本経済新聞「脱石炭、孤立する日本。環境相、火力新設を容認」

 

 「認めず」と反対姿勢を明確に示した毎日と、「容認」とした日経では、環境省の姿勢が180度異なってみえる。両社の間で、「再検討」「削減求める」などの「修正要請」の立場をとったのが、朝日、共同、NHK、時事など。さらに、明確な判断を示さず「意見書提出」の事実を紹介したのが読売。

 

中川雅治環境相
中川雅治環境相

 

 それほどわかりにくい意見書なのか、と思って目を通すと、そうでもない。日本で増設計画が進む石炭火力のあり方については、① 2015 年度の石炭火力からの CO2排出量等の実績値は、2030 年度に達成が必要な値を既に上回っている②石炭火力の新 設・増設計画が多数存在し、わが国の削減目標達成に深刻な支障を来すこ とが懸念されるーー。問題意識は明確だ。http://www.env.go.jp/press/files/jp/107919.pdf

 

 今回の中国電力の計画についても、「地球温暖化対策での石炭火力を巡る国内外の状況が極めて厳し い中で、CO2排出係数が高い石炭を燃料とする発電設備を新たに設置し、追加的なCO2の排出量は 500 万㌧以上にも及ぶ。環境保全面からは 極めて高い事業リスクを伴う」と警告している。

 

 そのうえで、「計画が容認されるには、所有する低効率の火力発電所の休廃止・稼働抑制及び LNG 火力発電所の設備更新による高効率化など 2030 年度のベンチマーク指標の目標達成に向けた 具体的な道筋の明確化が必要不可欠」と述べている。つまり、スクラップアンドビルドならいいですよ、と認めているように読める。

 

 日経が「火力新設を容認」と打ち出したのは、こうした「落ちどころ」を踏まえたとも読める。ただ、同紙の記事を読むと、もっと興味深い記述がある。

 

世耕弘成経産相
世耕弘成経産相

 

 「環境省はこれまで秋田港など計5の石炭火力の新増設計画に『是認できない』と今回よりも強い表現で意見書を出した。実際に撤回されたのは関西電力などの千葉県市原市の計画だけだ。今では事前に経済産業省と表現を擦り合わせるなど意見書の有名無実化が進む」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180113&ng=DGKKZO25623510S8A110C1EA4000

 

 確かに、これまでも意見書表明段階では、「強い言葉」が環境相意見として公表されてきた。しかし、実際には石炭火力計画はほとんど止まっていないのだ。環境相が発する「是認できない」「容認できない」などの言葉は、環境行政を担当する同省の「立場」を守るため、日経の記事が喝破するように、両省が「事前に表現をすり合わせた」ものなのだ。

 

 環境省・経産省は、環境アセスメントの手続きに基づいて対応しているだけ、と反論するかもしれない。確かにアセス上、環境省は環境行政の視点で意見を表明し、それらを受けて経産省が許認可を判断する役割分担だ。だが、政治家としての環境相が本気で「容認できない」と思うなら、「建設反対」と言えるはずだ。そのための政治任命だろう。

 

 またこれまで、5件の石炭火力の新増設計画に「是認できない」との意見書を出しながら、その意見が1件にしか考慮されず、大半に建設許可が下りた、という経緯は、パリ協定を順守するという国際合意に照らして、現下の環境アセスの手続きが十分に機能していないことを意味する。

 

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 にもかかわらず、環境省は意見書で「石炭火力の新設・増設計画が多数存在し、わが国の削減目標達成に深刻な支障を来すことが懸念される」と、協定との乖離を、他人事のように指摘している。自らが政策責任を負う削減目標の達成に向けた政策の実効性がほとんど上がっていないという事実を積み上げながらだ。

 

 こうした役所間の駆け引き、お互いの「面子」維持のための表現の小細工、「勧進帳」のように言葉だけ勇ましく、本来の役割を果たさない政治家の無責任さ等を見抜き、明らかにし、国民に信を問うのが、メディアの役割だ。記者クラブ詰めの記者は、当該官庁の応援団、という時代は、とっくに過ぎているはずだ。

 

 だが、残念なことに、今回の記事の多くも、「事の本質」を見抜く視点を欠いていると言わざるを得ない。これでは、日本が温暖化対策に真剣に取り組んでいない現状の片棒を、大手メディアも担いでいる、と批判されても仕方ないのではないか。読者の既存メディア離れは、温暖化の進行と同様に、さらに進んでいく――。

http://www.env.go.jp/press/files/jp/107919.pdf