HOME10.電力・エネルギー |ビットコイン、消費電力が地球の環境にとって脅威に(江川由紀雄) |

ビットコイン、消費電力が地球の環境にとって脅威に(江川由紀雄)

2018-01-22 15:23:48

BIt1キャプチャ

 

 ビットコインが地球の環境にとって脅威になっている。ビットコインは2008年10月にインターネット上で公表された文書を基に、2009年にはそれを実装するソフトウェアが公開され、いくつかの取引所が事業を開始した。最初の取引が行われたのは2009年1月4日であったので、今月でちょうど9年になる。

 

   Newsweek米国版は2017年12月11日付の記事で Digiconomist によるビットコインによる電力消費量インデックスを引用しながら、既に年間の電力消費が33テラワット時と、デンマーク1国の電力消費に並んでいることを指摘した。また、直近のように毎月25%のペースでビットコインによる電力消費が増加すると、2020年にはビットコインだけで全世界の全ての電力を消費することになるとも述べた。http://www.newsweek.com/bitcoin-mining-track-consume-worlds-energy-2020-744036

 

 資源エネルギー庁による調査統計では、平成28年度(2016年度)の日本の需要電力量は8.997億キロワット時(899.7テラワット時)、電気事業者の販売電力量が8,505億キロワット時(850.7テラワット時)であった。(1テラワット時は、1兆ワット時、10億キロワット時、100万メガワット時、千ギガワット時)

 

 年間33テラワット時(直近の推計では42テラワット時)は、日本の電力消費量と比較し、およそ4%に相当する。ブロックチェーン技術の応用事例のひとつの事例(ビットコイン)だけで、大量に電力が消費されている。

 

ビットコインは莫大な量の電力を消費する

 

 ビットコインおよびビットコインから2017年8月に分裂し発生したビットコインキャッシュのDigiconomist による電力消費量を推計値は、42.1テラワット時(2017年1月16日までの1年間)とされている。ビットコインの1取引あたり消費された電力は346キロワット時と推計されている。Digiconomistによる電力消費の推計方法は、ビットコインのマイニングによる収益を出発点に、マイニングを行う者がどれだけ経費(電気代を含む)を掛けているかを推計するといったものであり、雑なものと言わざるを得ない。

 

 Bit2キャプチャ

 

 ビットコインのマイニングは世界中のどこにいようと、インターネットに接続できるコンピュータがあれば誰でもすぐに始められ、撤退も自由なので、全世界でどのような仕様のコンピュータが何台稼働しているのか、そうしたコンピュータとそれを稼働させるための温度管理や通信設備がどれだけ電力を消費しているかを積み上げながら推計することは不可能に近いだろう。ビットコインによる電力消費量を把握したければ、大雑把な推計によるしかないというのが現実だろう。前述の Newsweek の記事には、この Digiconomistによる推計が1.5倍から3.6倍の規模で電力消費を過大推計しているのではとの投資家の指摘が言及されている。https://digiconomist.net/bitcoin-energy-consumption

 

 複数の専門家が登場してNewsweekの報道に関して見解を述べたCNBCのTV番組では、ある大学教員は、Digiconomist によるビットコインの電力消費量推計(2017年11月までの1年間で36テラワット時)について推計手法の欠点を指摘しつつも、ビットコインのマイニングが高速なコンピュータだけを使って行われているとしたら、「13テラワット時ないし14テラワット時の電力を消費」する筈だと述べ、稼働しているコンピュータがそういう高性能なものばかりではないことを踏まえると、”plausible” (妥当な)推計だろうと述べている。https://www.cnbc.com/2017/12/21/no-bitcoin-is-likely-not-going-to-consume-all-the-worlds-energy-in-2020.html

 

 おそらくは、 Digiconomist によるビットコインの電力消費推計はやや過大なのだろう。したがって、この推計値の値を額面通りには受け止めないでおく。しかし、それでも、ビットコインが常識的な想像を絶する水準の大量の電力を消費し続けているという現実は否定しようがない。

 

なぜビットコインは大量に電力を消費するのか

 

 ビットコインは、中央集権的にデータを一元管理する者が存在しない中で、多くの参加者がネットワークに接続したコンピュータを稼働させ、「ブロックチェーン」と呼ばれる取引履歴データを共有し、「プルーフ・オブ・ワーク」を計算することで、取引承認を行い、偽造を防ぐ。ビットコインの「プルーフ・オブ・ワーク」は、10分間の取引データの「ブロック」について、「ナンス」と呼ばれる値を探し出すための総当り的な計算処理であり、最初に正しいナンスを出した人(1ブロックを採掘した人)に対して、ビットコインの設計上の上限に達するまでの間は、ビットコインで報酬が支払われる。

 

 現在(2018年1月)は、その報酬は12.5ビットコインとなっている。報酬は21万ブロックが採掘されるたびに、半減する。ビットコインは、その設計上、約10分間隔で1ブロックが追加されるペースに調整されるため、約4年毎に「ナンス」を最初に探し出した人に対する報酬が半減することになる。

 

 bitcoin2キャプチャ

 

膨大な量の計算の報酬として獲得できる新たなビットコイン

 

 「プルーフ・オブ・ワーク」に参加し、最初に「ナンス」を探し出して得られる報酬は、新たに発行されるビットコインなので、こういう作業を鉱山における貴金属の採掘になぞらえて、「マイニング」または「採掘」と呼ぶ。

 

 地球の地殻に存在する貴金属が有限であり、ひとつの鉱山から採掘できる貴金属の量に上限があるように、ビットコインの発行数にも上限がある。ビットコイン発行数の設計上の上限は2100万ビットコインである。うち1680万ビットコインが既に発行済(2018年1月13日現在)であり、2141年頃に発行数が上限に達すると予想する向きが多い。

 

 「ナンス」を探し出すことは容易ではない。膨大な量の総当り的な計算が必要になる。ハッシュ関数と同じで、作る(探し出す)ことは難しいが、正しいかどうかの答え合わせは簡単だというものである。「ナンス」を探し出す計算の難易度(最初の何ケタをゼロにせねばならないといった制約を用いた難易度調整)は、過去2週間の実績を参照しながら、概ね10分間に1回の頻度で正解が出る水準に自動的に調整される。したがって、世界各地で高性能で高速なコンピュータが大量に投入されれば、計算の難易度は上昇し、「プルーフ・オブ・ワーク」に参加するコンピュータの台数が大幅減少すると、難易度は低下することになる。

 

 <多数のコンピュータを常時稼働させる大規模な「工場」で「採掘」が行われる

 

 ビットコインの「マイニング」は、個人が自宅のパソコンで趣味を兼ねて行うという事例もあろうが、中国などの電気代が安価な場所で組織的に大規模に行われている事例が主流となっている。近年では中国のシェアが高くなっていたことが知られている。

 

 「ビットコイン、採掘、工場」、「bitcoin mining farms」などのキーワードでネット検索すれば、世界各地のビットコイン採掘を行う現場の画像や報道記事を多く見つけることができる。体育館のような建物に数千台のコンピュータと換気設備を設置し、工場のように組織的に運営されている様子を確認できよう。世界各地にあるおびただしい数のコンピュータが、インターネットを介して、P2P方式でブロックチェーンのデータを共有し、「プルーフ・オブ・ワーク」に参加しており、いち早く「ナンス」を探し出すべく、常に総当り的な計算による試行錯誤を延々と続けているのである。ビットコインの背後にあるブロックチェーン技術の現実は、膨大な数のコンピュータと膨大な量の総当り的な計算の塊なのである。

 

中国で「採掘」が盛ん
中国で「採掘」が盛ん

 

 ブルームバーグは、中国の内モンゴル自治区、新疆ウイグル自治区、四川省など、石炭火力発電への依存度が高い地域に大規模なビットコインのマイニングを行う工場が多く立地していることを指摘した。石炭火力発電は、天然ガスに比べて、同一量の発電を行う際の二酸化炭素の排出量が約2倍になる。また、十分に排煙を処理しない場合に、石炭火力発電は、ばい煙・すす、硫黄酸化物、窒素酸化物等も大気中に放出してしまうことになる。https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-12-18/P14ZXI6TTDS101

 

 <ブロックチェーン技術の応用としての暗号通貨は有益なのか?

 

 ビットコインを始めいくつかのブロックチェーン技術を用いた枠組みは暗号通貨と呼ばれることが多い。たしかに、ビットコインを支払いや決済手段として用いることは可能であろう。しかし、果たして登場から10年余りを経て、ビットコインは、社会的に「通貨」として利用されているのであろうか。

 

 通貨のひとつの役割は決済手段である。我々の生活との関連では、日常的な小口の買い物のような少額の決済と、商業ベースの取引や不動産売買取引などに見られる大口の決済とが考えられる。

 

 ビットコインはその設計上の制約から、その取引決済には約10分間の時間が必要となる。ネットワークが混雑し、あるいは、「プルーフ・オブ・ワーク」の作業が滞っていると、更に時間がかかる場合がある。この点、我々が日常的に買い物に使っているVISAなどのブランドによるクレジットカードやデビットカード(「カード」といっても、iPhoneの Apple Payなど、スマホ上で作動するアプリを含む)での支払いは、小売店の店頭であれ、ネット上であれ、せいぜい数秒で完了する。

 

 大口の決済に暗号通貨は必要だろうか。多くの国々で、マネーローンダリング対策が強化されており、銀行などの金融機関が介在する送金であれ、資金移動業者などが取り合扱う送金であれ、一定額以上のやりとりには厳格な本人確認が求められる時代である。既存の送金手段を用いた送金が安全であり、犯罪取引の決裁などに悪用される可能性が小さいのではないだろうか。

 

 bit4キャプチャ

 

 こうしたことを踏まえると、既存の通貨と送金手段があれば、特に不便はないと考えられないだろうか。おまけに、VISAなどが介在する取引では、不正取引が行われた場合の利用者の損失負担が限定的である。事故に伴う損失のほとんどは保険でカバーされる。ブロックチェーンでは、送金を取り消したり、不正に搾取されたといって搾取された価値を回復する仕組みは何も用意されていない。匿名性が高い分散ネットワークの中で犯人を捜し出すことは容易ではない。

 

 では、価値保存手段としてはどうだろうか。ビットコインの価格が乱高下する現状を踏まえると、価格変動を収益機会と考える投機家にとっては歓迎するべきものなのかもしれないが、急激・大幅な変動がなく、価値が安定していた方が好ましい「通貨」的な価値保存手段としては好ましくないとしか言いようがない。

 

 ブロックチェーン技術による暗号通貨は、P2Pネットワーク方式で、「分散台帳型」の管理運営がなされることになるが、どこにもデータが集約されないという半面で、参加するあらゆるコンピュータが相互にブロックチェーンを収集し複製し保存することになる訳である。同じデータが世界中のあちこちに大量に重複して保存されることになるのだが、これは、限られた資源の利用の観点で、我々にとって、果たして効率的なシステムであろうか。

 

 ブロックチェーン技術には暗号通貨以外の用途で、それほど情報通信機器や電力を消費しない分野での応用を考えた方がよいのではないか。

 

 ビットコインの誕生(2008年)からほぼ10年を経て、主な使い道が投機と違法取引(たとえば、特定の国の外国為替規制をかいくぐって送金するための手段など)と揶揄されていることにも留意したい。https://chibicode.com/jp/blockchain/

 

 

 江川 由紀雄 (えがわ ゆきお) 新生証券調査部長 チーフストラテジスト、一般社団法人流動化・証券化協議会顧問、埼玉学園大学大学院客員教授。1990年代より、オリジネーター、アレンジャー、格付けアナリスト、セルサイド(証券会社)アナリストなどを歴任、一貫して証券化市場に携わっている。1962年福岡県生まれ。yukio.egawa@gmail.com