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2℃上昇する前に、石炭火力発電から「ダイベスト」しよう(古野真)

2018-04-21 16:21:35

3503キャプチャ

 

  「パリ協定」、「2度目標」、「脱炭素」。これらの言葉は、もはや気候変動の専門用語ではなくビジネスの常識になりつつある。

 

  4月の半ばに東京都内で、環境、社会やガバナンスに配慮した投資「ESG」の最前線を探るいくつかの国際会議が行われた。それらの会議で重要課題として取り上げられたのが、気候変動問題に対して日本企業がどのように向き合うべきか、という問いであった。

 

 私も、東京証券取引所で開催された「Responsible Investor(責任投資家)アジア・ジャパン 2018」、そして世界の投資家グループと国連責任投資原則(PRI)が企業の気候変動対策を促す「Climate Action 100+」の日本ローンチイベントに参加した。

 

 その中で世界の投資家、年金ファンド、アナリストや保険会社の責任者が繰り返し取り上げたキーワードが「パリ協定」「2度目標」「脱炭素化」の言葉だった。

 

グローバル・マネーが気候変動問題に注目するわけ

 

 根本的な出発点はかなりシンプルなものである。大量の温室効果ガスを排出する燃料源である石炭、石油や天然ガスの化石燃料に依存してきた経済活動がこのまま進めば、地球温暖化が加速し、気候変動に伴う壊滅的なリスク(海面上昇、異常気象、猛暑日の増加、干ばつ、洪水など)が世界経済に重大なダメージを与えることが予測されている。

 

 2015年12月に196ヵ国が合意した「パリ協定」で国際社会が決断したのは、 気候変動による悪影響が危険なレベルを越えないために、産業革命以降の世界の気温上昇を1.5~2℃未満に抑えるためだった。この「2℃目標」に向けて、できる限り早く化石燃料依存から脱却し、自然エネルギーを急速に拡大させ、経済の「脱炭素化」を目指す、と世界の国々が宣言したのである。

 

 気候変動に伴うリスク低減、そして 「パリ協定」の目標達成に向けて、世界の多くの政府機関、金融機関、自治体、企業や一般市民が、ビジネスの常識や価値観を変え始めている。世界の投資家も、新しい未来の実現を「経済的機会」として受け取っていることが今回の会議でより一層明らかになった。

 

 気候変動が「企業価値」 に与える影響

 

 「Responsible Investorアジア」と「Climate Action 100+」のパネルで、複数の投資家が「企業価値」を測る際の基準として、気候変動に配慮した事業戦略を立てているのか?温室効果ガスの削減目標を掲げているのか?気候変動に伴うリスクに対する適応策を考えているのか?などの問いに、投資対象の企業が答えられるかどうかを、考慮していると語った。

 

東京で開いたRIAsiaの会議の模様
東京で開いたRIAsiaの会議の模様

 

 これらの問いに答えられる企業は、社会的責任を果たし、将来のリスクと機会を把握したうえで事業運営を行っている、として評価されるという。逆に、回答できない企業は投資対象から除外されるか、あるいは企業の信用状態に関する評価を行う格付け会社に低く評価されるおそれがある、との指摘があった。

 

 このように、世界の投資家、年金ファンド、保険会社、そして一般投資家が、投資先・取引先企業の選択規準を「気候変動への配慮」の観点から見直していることは、世界のビジネスへの社会的要請に変化が生じていることを示している。

 

 そもそも2℃目標達成に何が必要?

 

 最新の科学的知見によると、世界の平均気温の上昇を1.5−2℃に抑える目標を達成する上で許容されるCO2の排出総量は、全世界(2017年時点)でおよそ150~1050Gtと推計されている。現在の年間排出量(約41Gt)で計算すれば、1.5℃のレベルを満たすまでに3年、2℃のレベルだと25年ほどで、許容CO2排出量を使い尽くし、ゼロになってしまう。

 

 つまり、気温の上昇を1.5-2℃未満にとどめる場合、人間が利用しているエネルギーで最もCO2排出量の多い石炭、石油、天然ガスを含む化石燃料の大半は、もはや使用できなくなるわけだ。

 

 「石炭火力発電ゼロへ」

 

 国連環境計画(UNEP)が2017年10月に公表した報告書は、2℃目標達成の鍵となるのは、天然ガスに比べ約2倍のCO2排出量を出す石炭火力発電所を新たに増やさないことだ、と明らかにしている。加えて、既存の石炭火力発電所についても早期閉鎖が適切だと指摘している。こうした「脱石炭」の方向性が明確になる中、イギリス、カナダやフランスを含む世界26ヵ国は「脱石炭連盟」を立ち上げ、「石炭火力発電所の段階的廃止」を目指す方針を掲げている。

 

 さらに、科学的知見に基づき、世界の投資家・年金基金・保険会社や銀行は、石炭関連企業から投資撤退する「ダイベストメント」を次々と発表している。保険業では世界最大手の一つフランスのAXAをはじめ 、スイスのチューリッヒ、イギリスのLloyd’s などの15の大手保険会社は石炭関連企業からの投資撤退で声をそろえている。

 

 銀行業ではオランダのINGやフランスのBNPパリバなどの大手銀行が、気候変動防止に向けて、新たな石炭火力発電事業や採掘事業への投融資を禁止を表明している。両行だけでなく、 石炭への投融資を制限している銀行は世界に30社ほどある。

 

 

 石炭にとどまらず、石油と天然ガス会社から資金を引き揚げる動きも加速している。2018年に入ってからでも、ニューヨーク市当局とデンマークの年金基金PKAが、それぞれ化石燃料関連企業への投資資金を引き揚げるダイベストメントを発表した。

 

 石炭をはじめとする「時代遅れのエネルギー」へのお金の流れを止め 、持続可能な未来を構築する自然エネルギーへの投融資を優先する動きが、金融業界では世界的な潮流の一つになりつつある。世界では「脱炭素化」への道筋が具体化しているのだ。

 

 日本における「2℃目標」達成に向けて

 

 こうした世界レベルでの変化の流れに後押しされて、日本企業の気候変動対策も近年大きく進展している。事業活動において使用する電力を100%再生可能エネルギーにすることを宣言する企業イニシアティブの「RE100」には、現在、日本企業6社が参加している(リコー、アスクル、積水ハウス、大和ハウス工業、イオン、ワタミ)。

 

 Science Based Targets(SBT)(科学と整合した目標設定)という、2℃目標に整合した自社の目標を設定する企業イニシアティブは、メーカーを中心に広がり、日本企業では14社において「企業版2℃目標」が認定されている(40社以上が目標審査中)。

 

 こうした最前線の取り組みを進める日本企業の数が増えている一方で、電力会社と銀行部門は、依然、世界の流れに逆行した形のままだ。

 

 石炭にしがみつく電力会社と銀行

 

 国内では、既存電力会社が中心となって、新たな石炭火力発電所の建設計画が40基以上が進行している。こうした動きは、世界の流れに完全に逆行しており、「パリ協定」に反する業務を行なっていることになる。

 

 しかし、そうした世界と逆行する動きを支えるように、日本の3メガバンクなどは、国内外で石炭火力発電事業を進める日本企業向けに、巨額の事業資金を融資している。3メガバンクは明らかに気候変動問題解決に消極的で、グローバルな金融業界の脱炭素化の波に乗り遅れていると言わざるを得ない。

 

 

 ドイツのNGOウルゲバルト(Urgewald)などがまとめた最新の報告書「銀行vs.パリ協定」によると、2014年1月~2017年9月の間、新たに石炭火力発電所の建設計画を進めている大手企業120社への融資額では、みずほフィナンシャルグループが世界で1位(115.25億米㌦・約1兆2千億円)、三菱UFJフィナンシャル・グループ(101.89億米㌦・約1兆1千億円)は2位、三井住友フィナンシャルグループ(35.37億米㌦・約3750億円)は5位と、そろって上位を占めた。

 

 また、レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)による世界主要銀行の気候変動対応を評価した報告書『化石燃料ファイナンス成績表2018』では、3メガバンクは石炭火力および採掘事業に対する方針において、ほぼ最下位の評価を受けている。つまり「落第生」なのだ。

 

 世界の主要企業や大手金融機関が「脱炭素化」へ経営姿勢を切り替える中、日本の大手銀行が、 気候変動を最も加速させる石炭火力発電に、積極的に巨額の融資を行っていることは、世界的にも批判されるようになっている。地球の平均気温を2℃未満に抑えるうえで、邦銀は世界中に対して、大きな責任を負っている。

 

 3メガバンクが海外で積極的に融資を続けている石炭火力発電事業計画には、土地接収などの人権侵害が報告されているインドネシアのバタン石炭火力発電所のほか、同じ問題を抱えるチレボン石炭火力発電所、すでに地域産業へ大きな被害を与えているベトナムのビンタンやブンアン石炭火力発電所など、温暖化問題だけでなく、社会的な問題が顕在化している案件が多い。

 

 こうした日本の大手銀行による、内外の将来世代の生活を犠牲にする石炭火力発電や採掘事業への融資は、早急に中止させねばならない。問題のある融資を中止にさせ、その資金を、より良い未来の構築に貢献する方向に向かわせるためには、銀行に資金を提供する預金者であるわれわれが声を出す必要がある。そうした思いで、350.org Japanは今、10,000人の署名活動を始めている。

 

 銀行にあなたの声を

 

 銀行にとっての資金の出し手である預金者が一丸となって署名を届けることで、銀行の行動を変えることができる!はずだ。あなたはどう思うか?

 

 きれいな青空を守るために、穏やかな社会を維持するために、3メガバンク(三菱UFJ、三井住友、みずほ)に対して、社会や環境に配慮した行動をとるよう要請する「10,000人の署名アクション」にご協力ください。

署名はこちらから

 

(350.orgのサイトから転載、一部修正)http://world.350.org/ja/divest_from_coal/

古野 真(ふるの・しん) 環境NGOの350.org日本事務所代表。オーストラリアのクイーンズランド大、国立オーストラリア大修士などを経て、同国政府の気候変動省(当時)に勤務。2015年4月、350.orgの日本事務所立ち上げ。千葉県生まれ。