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自然エネルギー100%の電力メニュー、環境負荷や追加性の確認を(石田雅也)

2018-10-03 14:34:58

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 大手の企業を中心に、脱炭素社会に向けて自然エネルギーの電力を利用する動きが広がってきた。そうしたニーズにこたえて、小売電気事業者が自然エネルギー100%あるいはCO2(二酸化炭素)ゼロの電力メニューを相次いで販売開始している。日本では自然エネルギーの電力を購入できる選択肢が欧米ほど多くないものの、新たな手段が増えてきたことは望ましい状況だ。ただし、電力を供給する発電設備の環境負荷に差があるほか、自然エネルギーの拡大につながる追加性の点でも違いがある。電力を購入する企業や自治体は、できる限り環境負荷が小さくて、追加性のあるメニューを選びたい。(石田雅也・自然エネルギー財団)

 

発電設備を特定できない「非化石証書」では環境負荷がわからず

 

 自然エネルギー100%の電力メニューは、大きく2通りに分けることができる。1つは自然エネルギー由来の証書やクレジットを組み合わせて販売するメニューである。自然エネルギーで発電した電力の環境価値(環境負荷が低い、CO2を排出しない、などの効果)を取引できる証書・クレジットが日本には3種類ある(表1)。小売電気事業者は通常の電力に証書・クレジットの環境価値を組み合わせて、自然エネルギー100%の電力として販売できる。

 

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 3種類の証書・クレジットは発行量や価格、認定方法などの点で違いがある。「グリーン電力証書」と「J-クレジット(再エネ由来)」は固定価格買取制度(FIT)の認定を受けていない発電設備が対象になり、一般の企業や自治体でも購入できる。「非化石証書(再エネ指定)」はFITの認定を受けている発電設備の電力(通称、FIT電気)の環境価値を証書化したもので、小売電気事業者しか購入できない。年間の発行量は非化石証書(再エネ指定)が圧倒的に多い。価格はJ-クレジット(再エネ由来)が最も安く、グリーン電力証書が最も高い水準にある。

 

 環境負荷の低い自然エネルギーの電力を増やしたい企業や自治体にとっては、証書・クレジットの元になる発電設備を特定できることが重要な選択条件になる。発電設備を特定できなければ、自然エネルギーの電力として認定されたものであっても、環境負荷が低いとは限らないからだ。例えば農林業に悪影響を及ぼす方法で作られた燃料によるバイオエネルギー発電などは、対象から除外する必要がある。

 

 ところが非化石証書(再エネ指定)には、発電設備の情報が付随していないという欠点がある。グリーン電力証書やJ-クレジット(再エネ由来)は発電設備を選んで購入できるが、非化石証書(再エネ指定)は太陽光や風力などの発電方法さえもわからない状態で取り引きされている。発電方法や発電設備の所在地がわからないと、発電した電力の環境負荷を利用者が確認できない。



 世界中の企業が自然エネルギーの電力を100%利用することを推進する国際イニシアチブの「RE100」では、発電設備を特定できる電力を購入するように推奨している。RE100の運営組織は、発電設備に関する情報を伴わない非化石証書(再エネ指定)を推奨しない方針だ。RE100に加盟する企業は非化石証書(再エネ指定)を利用できない状況にある。グリーン電力証書とJ-クレジットはRE100の推奨条件に合っているため、利用する対象として認められる。


 
 RE100に加盟していない企業や自治体でも、環境負荷を確認できない証書を電力と組み合わせて購入することには消極的にならざるを得ない。自然エネルギーの電力を増やす手段として非化石証書(再エネ指定)を有効に活用するためには、発電設備に関する情報を付加することが不可欠だ。非化石証書の制度設計を担当する資源エネルギー庁は早急に改善策を実施する必要がある。


 
 ただし現状のままで、非化石証書(再エネ指定)を使って発電設備を特定できる方法が1つある。小売電気事業者がFITの認定を受けた特定の発電設備から、相対契約でFIT電気を調達するスキームである。この方法を使って自然エネルギー100%のメニューを販売する小売電気事業者が徐々に増えてきた。企業や自治体は特定の発電設備が供給するFIT電気と非化石証書(再エネ指定)を組み合わせて利用できる(図1)。FIT電気から切り離された環境価値を非化石証書(再エネ指定)で復活させる考え方だ。

 

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 環境負荷の面から、グリーン電力証書やJ-クレジット(再エネ由来)を組み合わせたメニューを購入する場合でも注意すべき問題がある。CO2排出量の多い石炭火力発電を主体にした電力と組み合わせたメニューを購入してしまうと、たとえ自然エネルギーによる環境価値を証書・クレジットで付け加えたとしても、気候変動の観点からは効果を望めない。できるだけCO2排出量の低い電力と組み合わせたメニューを選択する必要がある。非化石証書(再エネ指定)の場合には、FIT電気と組み合わせる方法が最適である。

 

FITを終了した発電設備や水力発電100%のメニューも増える

 

 自然エネルギー100%の電力を提供するメニューには、証書・クレジットを使わないタイプもある。FITの適用を受けていない自然エネルギーの発電設備から電力を供給するもので、証書・クレジットを発行せずに環境価値を保持していれば、CO2排出量をゼロで算定できる。現在のところ、FITの買取期間を終了した発電設備の電力を利用するメニューと、大手の電力会社が自営の水力発電所から供給する水力発電100%のメニューがある(表2)。

 

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 このうちFITの買取期間を終了した発電設備の電力はFIT電気と違って、自然エネルギーの環境価値を証書・クレジットと同様に保持できる利点がある。小売電気事業者のみんな電力はFITの買取期間を終了した青森県の風力発電所3カ所の電力を調達して、2018年9月から小売業の丸井グループに供給を開始した。丸井グループはRE100に加盟しており、発電設備を特定できる自然エネルギーの電力を優先的に購入している。



 住宅用の太陽光発電では2019年11月から、FITの買取期間を終了する設備が大量に出てくる。買取期間が終了した後の電力を小売電気事業者が買い取って、自然エネルギー100%の電力メニューとして販売するケースが増える見通しだ。すでに投資回収を済ませた発電設備の電力は安く調達できる可能性が大きく、安価な料金で提供できる期待がある。ただしFITの買取期間を終了した発電設備の電力を自然エネルギーとして認定する制度が整備されていないため、国か第三者機関が新たな認定制度を設ける必要がある。



 もう一方の水力発電100%のメニューは、東京電力エナジーパートナーと関西電力の2社が企業・自治体向けに販売中だ。対象になる水力発電所の中には、古くから運転を続けている大型の設備が数多く含まれている。大型の水力発電所は建設時の環境負荷が大きいため、海外では自然エネルギーの対象から除外する企業が少なくない。


 
 気候変動の観点から、環境負荷に加えて追加性(Additionality)を考慮することも重要になってきた。自然エネルギーの電力や証書・クレジットを購入することによって、新たな発電設備に対する投資を促す効果がある場合に追加性が認められる。運転を開始して投資回収の途上にある発電設備や、古くても設備を更新すれば運転を続けられる発電設備などに対して、追加性を認めるケースが多い。


 
 そうした点で電力会社が投資を回収済みの古い水力発電所は、設備を更新して出力を増強しなければ追加性を認めにくい。FITの買取期間を終了した発電設備の場合には、運転を継続するために電力の買い取りが必要になるため、追加性があるとみなせる。


 
 企業や自治体が自然エネルギーの電力を購入するにあたって、環境負荷や追加性を確認することが望まれる。日本国内には環境負荷や追加性を判断できる統一の基準がないが、自然エネルギーの電力に求められる要件を分類すると、3~4段階のクラスに分けて判断することが可能だ(表3)。

 

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 最も望ましいのは、環境負荷が小さいことを確認でき、しかも追加性がある電力を購入することである(表3のクラス1に相当)。北米で自然エネルギーの電力を認定するラベルとして標準的に使われている「Green-e」が該当する。アップルをはじめ米国の先進的な企業の多くは、Green-eの要件に合わせて自然エネルギーの電力を選択している。


 
 日本では現在のところ、要件を厳しくするほど、入手できる自然エネルギーの電力が限られてしまう。価格も高くなる場合が多い。こうした状況を改善するためには、発行量が圧倒的に多い非化石証書(再エネ指定)でも発電設備を特定できるように、証書の仕組みを変更することである。そうすればGreen-eと同等の要件を備えた自然エネルギーの電力を大量に増やすことができる。加えて非化石証書の価格(現在は最低価格1.3円/キロワット時)を引き下げて取引量を拡大することが急務だ。


 
 企業や自治体は当面のあいだ選択可能な方法で自然エネルギーの電力を増やしながら、中長期には厳格な要件に適合した自然エネルギーの電力を購入していく姿勢が求められる。最近では海外の投資家や取引先から自然エネルギーの利用拡大を迫られる傾向も強まっている。環境負荷が小さくて追加性のある自然エネルギーの電力を利用する企業や自治体が全国各地で拡大することによって、日本の脱炭素化が着実に進み、気候変動の抑制につながる。



<参考資料>
電力調達ガイドブック 自然エネルギーの電力を増やす企業・自治体向

 

 自然エネルギー財団のサイトから許可を得て転載 https://www.renewable-ei.org/activities/column/20180419.html

 

石田雅也(いしだ・まさや) 日経BP、スマートジャパンを経て、2017年4月から自然エネルギー財団の自然エネルギービジネスグループマネジャー。日経BP時代は、日経コンピュータ編集長や初代ニューヨーク支局長も務める。