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RIEF論文:社会的銀行における特殊な運営方法~GLS銀行を参考に~(林公則・都留文科大学非常勤講師)

2016-01-04 16:04:11

RIEFhayashi2キャプチャ

 GLS(Gemeinschaft für Leihen und Schenken:貸すことと贈ることのための共同体)銀行は、1961年に設立されたGLS信託財団(Treuhand)を基盤としながら、1974年にドイツで創設され、現代的な社会的銀行のはしりだとされている銀行である。その後、現代的な社会的銀行は1980~90年代にかけて欧州各地で新設されていくことになるが、GLS銀行は、オランダのトリオドス(Triodos)銀行をはじめとするそれらの現代的な社会的銀行に、多かれ少なかれ一定の影響を与えてきた。そして、2008年9月のリーマン・ショックを契機に発生した世界金融危機以後、投資銀行を中心に従前の銀行に対する不信感が広がるなかでGLS銀行を含む社会的銀行はますます存在感を高めている。たとえば、2014年末現在におけるGLS銀行の顧客の預金総額は31億3800万ユーロであるが、そのうち19億1900万ユーロが貸し出されており(預貸率は約61%)(GLS Bank 2015a)、約2万2000あまりのプロジェクトや企業を資金的に支援している(GLS銀行のHP)。

 林(2015)で示したように、現代的な社会的銀行の最大の課題は、利潤最大化ではなく、経済活動に社会的理念や倫理を取り戻すことである。社会的銀行は多様であり重点的に取り組んでいる事項などで違いがあるが、従前の銀行と比べて、①倫理的・社会的な活動にだけ融資する(社会性)、②融資先を最大限公開する(透明性)という特徴を備えている点では共通しており、本稿で取り上げるGLS銀行をはじめとするルドルフ・シュタイナー(人智学)の影響を受けた社会的銀行に関しては、③精神生活に関わる分野(教育や芸術)や採算をとるのが困難な社会的分野への贈与を重視している(贈与性)という点が加わる[1]

 さて、社会的銀行の多くは、借入金利と貸出金利との利ザヤが利益の中心となっており、伝統的なやり方で銀行業を営んでいる。この点で従前の商業銀行と社会的銀行との業務内容にそれほど違いがないことから、融資の一部ではあるが、CSRの一環などとして、商業銀行のなかにも積極的に倫理的・社会的な活動への融資(たとえばNPOなどに対する融資)を始める動きが出てきている。

[1] シュタイナーは1861年から1925年まで生きた人物で、人智学(アントロポゾフィー)を樹立した。また人智学を基礎としながら哲学、教育学のほか、芸術学、医学、農業の分野で独自の業績を残した。人智学とは自然科学の方法で精神世界を探求する学問である。人智学の内容は、人間の分析、精神世界諸領域の探求、死生観、宇宙進化論、修行論からなる(西川 2008)。

 一方で、近年の銀行業界における環境の変化(きわめて低い利子率、IT化、規制の強化)によって、伝統的な銀行業及びGLS銀行が長年にわたって続けてきた運営方法を持続していくことが困難になっている(GLS Bank 2015b pp.10-14)。投資銀行だけでなく商業銀行の多くも、利子率の低下に起因する利ザヤの縮小に対応するために、集められた預金を企業などに(実体経済で)貸し出すのではなく、金融市場で運用することによって利益を維持・増大させようとした。その結果、金融市場に資金が大量に流れ込み、バブルを生じさせ、リーマン・ショックの一因となった。GLS銀行は社会的銀行としてこのような対応をとらなかったのであるが、それではGLS銀行は銀行業界における環境の変化にどのように対応していこうと考えているのだろうか。

以上を踏まえたうえで、本稿では、現代的な社会的銀行のはしりであるGLS銀行がどのような理念を重視しながら銀行業を行おうとしてきたのかをみたうえで、過去及び現在の実際の運営方法を検討する。以上を通じて、CSRの一環としてだけでは整理しきれない重要な理念がGLS銀行の運営方法に含まれていることを明らかにする。また、従前の商業銀行が担いえない独自の役割を社会的銀行がもっており、それを今後も持ち続けていこうとしていることを示す。

本稿の執筆にあたって、GLS銀行やGLS信託財団のHP・資料やGLS銀行関係者の諸著作を利用したほか、情報収集や不明な点の確認などのために、二度にわたってGLS銀行とGLS信託財団を訪れた(2014年3月と2015年5月)。

 

 林公則(はやし・きみのり)1979年生まれ。一橋大学大学院博士課程(経済学研究科)修了。主要著作に『軍事環境問題の政治経済学』(経済理論学会、環境経済・政策学会、日本平和学会で奨励賞)、「定常経済における社会的金融機関の役割」(幸せ経済社会研究所の懸賞論文で優秀論文)など。