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RIEF論文:「リスク制御に重要なフォワードルッキングの視点:FSBの気候変動関連金融情報開示作業部会への意見具申」(Lord Stern et al.,)

2016-06-15 14:13:23

Sternキャプチャ

 「 スターンレポート」で有名な英経済学者のニコラス・スターン卿は、「The importance of looking forward to manage risks: submission to the Task Force on Climate-Related Financial Disclosures」と題する論文を作成、金融安定理事会(FSB)の下で気候変動情報開示作業グループに意見具申した。

 

 スターン卿は現在、 Climate Change Economics and PolicyとGrantham Research Institute on Climate Change and the Environment のESRC センターを統括している。今回の論文は、Granthamの共同代表であるDimitri Zenghelis氏との共同執筆による。「企業の過去の温暖化データを集めるCDPの活動をなぞるようでは意味がない。将来を見定めた情報開示と、将来の気候変動政策への対応や、実際に気候変動が起きた場合の影響等に備えた戦略を開示させるべきだ」とする内容だ。

 

 論文では、FSBのTask Forceへの勧告として、①将来を見据えた企業の戦略がわかるようなデータや企業の方針などに関する、重要なリスクを事前に明確化して開示すること②情報開示では、政策変更リスクやマクロ経済リスクなどを軽視せず、カーボン高排出ビジネスがそれらに及ぼす影響を示す③最も重要なことは、フォワードルッキングなビジネス評価となっているかがわかるようにし、将来、政府が野心的な気候変動政策を採用する場合や、実際に気候変動の影響が顕在化する場合に対応できるようなビジネスモデルに移行する戦略か、という問いに企業が明確に答えられるようにするーーといった3点を列記している。

 

 これら3つの勧告に共通する「フォワード・ルッキングな視点」は、将来の政策変更や気候変動に対して、企業がどのような対策や戦略をとっているのか、あるいはとろうとしているのかの有無が、投資家や外部のステークホルダーにわかるような情報開示の枠組みにすべき、という点だ。

 

 気候変動が金融機関や金融システムに及ぼす情報については、「利用できる金融データにもはや不足はない。むしろ、あまり重要でない情報を集めすぎる危険すらある」と述べている。ただ、フォワード・ルッキング戦略と言っても、将来の評価を量的に測ることは容易ではない点も認めている。そのうえで、企業が自社の抱える将来の気候変動リスクを簡潔で信頼される形で投資家等に開示することが、より価値ある対応だとしている。

 

 

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Nicholas Herbert Stern(ニコラス・ハーバード・スターン) 英経済学者。ロンドン・スクオル・オブ・エコノミクス(LSE)教授を経て、世界銀行チーフエコノミスト兼上級副総裁、英大蔵省次官等を歴任。2006年に発表した「気候変動の経済学(スターン報告)」で気候変動の経済的影響と対応の可能性を指摘したことで知られる。

 

 

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