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資料:「炭素金融」(Carbon Finance)の日本における可能性ー国内排出量取引を巡る相克とJCMを中心にー(日本総合研究所)

2016-12-26 20:49:35

adachiキャプチャ

 

 日本総合研究所(JRI)がパリ協定実施を見据えて、各国で広がりを見せている温室効果ガス排出権取引についての新たな視点を提示している。同総研創発戦略センター理事の足達英一郎氏の論文だ。排出権取引の歴史的、国際的展開を概括しながら、日本が京都議定書第一約束期間後に打ち出した二国間クレジット制度(JCM)を評価、展望している。

 

 JCMは、日本の技術を活用して途上国の温室効果ガス排出削減・吸収源プロジェクトを推進し、そのプロジェクトから生じる削減量の一部を日本と相手国がそれぞれの削減分としてカウントする仕組みだ。日本政府は、JCMによって、民間ベースの事業による貢献分とは別に、2030年度までの累積で5000万㌧から1億㌧(CO2換算)の削減・吸収量を見込んでいる。

 

 ただ、国内での排出量取引は産業界の根強い反対で実施されていない。排出クレジットの持つ意義が国内と海外で切り離されている構図だ。同論文はこうした構図を「わが国の特徴的な姿勢」と指摘する。と同時に、パリ協定の下で、途上国が自国の削減目標達成を目指そうとすると、JCMによる排出クレジットの日本への移転の増加は、途上国にとって自国内の経済活動を抑制する圧力と理解される可能性がある点に注意を向ける。

 

 JCMが小さな影響のレベルにとどまっているうちは、途上国にも日本にも、「国際協力」と「温暖化貢献」の心地よい活動であり続ける。だが、規模が大きくなって本来、必要な「成果(排出クレジット)」が膨らんでくると、日本と途上国の両方にとって、「政治的に難しい問題を惹起する可能性もある」わけだ。

 

 論文は「そこで、JCMも積極推進しながら、国内排出量取引の導入も実現するという政策修正の代替案が生まれる余地がある」と、慎重な言い回しながら、日本国内の変革を求める視点を示している。世界を見渡すと、韓国が今年から排出量取引を導入、中国は2017年に全土での導入を公約している。トランプ次期大統領が就任する米国でも、連邦の排出量取引は実現していないが、州レベルではニューヨーク、カリフォルニアなどで着実に広がっている。

 

 単に排出量取引導入の是非論ではなく、合理的、効率的な温暖化対策を政策の柱に据えるかどうか、という選択の問題でもある。政策に合理性を欠くと、対象となる産業、企業は必要以上の負担を負うことになりかねない。ひいては国際競争力を低下させることにつながる。

 

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