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CPLCの「カーボン価格化ハイレベル委員会」 パリ協定の目標達成のためのカーボン価格、トン当たり「2020年に40~80㌦、2030年に50~100㌦」を提示(RIEF)

2017-05-29 21:47:08

carbonprice1キャプチャ

 

 各国政府など官民で構成する「Carbon Pricing Leadership Coalition(CPLC)」によるカーボン価格化のハイレベル委員会の報告書がまとまった。パリ協定で合意した「2℃目標」を達成するには、2020年までにCO2換算で1㌧当たり40~80㌦、2030年に同50~100㌦のカーボン価格が、もっとも費用対効果が高いとしている。日本でもカーボン価格化の議論が始まったが、目指す価格水準をめぐる議論が高まりそうだ。

 

 CPLCのハイレベル委員会は、ノーベル経済学賞受賞のジョセフ・ステグリッツ米教授と、英国のニコラス・スターン卿(元IMFチーフエコノミスト)の2人を議長として、先進国、途上国9カ国の主要なエコノミスト13人で構成した。日本の学者は加わっていない。同委員会は、2016年にモロッコのマラケシュで開催したCOP22の際、世界銀行とフランス政府の主導で設置が決まった。

 

 29日に公表された報告書は、グローバル規模でパリ協定の目標を達成し、さらに国連の持続可能な開発目標(SDGs)に盛り込んだ温暖化対策目標を実現するには、インフラや技術、手段等への投資を加速する必要があると指摘。そのためには、カーボンへの明確な価格付けの選択肢と、価格水準を示す必要がある、と位置づけている。

 

 明確で予測可能なカーボン価格は、企業や個人にとって、低炭素社会に向かう強いシグナルを送ることになる、としている。そうした認識に基づき、パリ協定の目標と整合性のある2020年と2030年のカーボン価格を幅で示した。分析の対象となったのは、カーボン価格付けに関する主要文献と、カーボン政策に取り組んでいる各国の政策評価等が中心。


  パリ協定の目標達成のためには、低炭素経済社会に向けた大規模な社会転換が必要となる。エネルギーシステムの変換だけではなく、産業生産プロセスの省エネ化、空調システム、輸送・公共交通システム、都市のあり方、土地利用(森林、草原,農地などの使用)、生活のあり方等、広範囲に及ぶ。

 

 しかし、報告書は、低炭素経済社会への移行を、よりよくデザインできれば、経済成長と開発、貧困削減等と、整合性を保つことは可能としている。むしろ、低炭素経済社会への移行は、社会の強靭性の向上、より革新的で、活気溢れる都市化、堅牢な農業、強固な生態系システム等が進むことから、強力かつ魅力的で、かつ持続可能な成長につながると想定している。

 

 カーボンの価格付け政策は、そうしたCO2削減を効率的に推進するための戦略において、不可欠の構成部分を形成するという位置づけだ。価格付けによって、将来の削減コストを引き下げることのできる生産や消費、技術進歩などにつながる投資に経済的インセンティブがつくことになるからだ。

 

 価格付けの方法には、カーボン税の賦課のほか、排出権取引(C&T)や、京都議定書やパリ協定の6条で位置づけたClean Development Mechanism (CDM)などのプロジェクトごとのクレジット化も考えられる。同時に、これまでの化石燃料への補助金を削減することも、カーボン価格付けを効果的にするうえでの重要なステップ、としている。化石燃料補助金は、カーボン価格付けの視点では、「ネガティブ排出価格」となるためだ。

 

 どのような価格付け手法をデザインして政策に取り入れるかは、各国と各地域の個別事情によって多様に想定される。また国ベースだけでなく、国際的な協力支援や金融支援によっても多様化するとしている。報告書は想定する価格水準を示す一方で、価格付け政策については各国の個別判断を尊重する形をとっている。

 

 価格付けによって得られた収入は、衡平ある方法で成長分野や移行期の貧困対策、家計へのリターン、低炭素インフラへの投資、技術革新の促進等に投じられるべき、としている。

 

 収入中立化の観点から、カーボン税の場合は他の税を削減したり、移管する措置をとることも、政策の選択肢としている。また価格付けだけでは、パリ協定に合致する経済社会の変化を実現するには十分ではないとして、他の経済社会政策との連動性を図る必要がある点も強調している。たとえば都市計画や公共輸送システムの整備などがその連動化の典型だ。

 

 これらの多様で多方面の観点を合わせ考慮したうえで、報告書は、政策変更を効率的かつスムーズに図るための望ましい価格水準を提示したわけだ。2020年までの40~80㌦、2030年までの50~100㌦の水準は、ともに「少なくとも」という条件が付く。 一方で低所得国では、提示した水準以下の価格になる可能性も認めている。

 

 カーボン価格付けは温暖化対策を促進するためだが、同時に「コベネフィット」も生じる。価格付けで得る収入を他の経済社会用途に資するほか、CO2以外の大気汚染物質の削減、新交通システムによる交通渋滞の解消、生態系の健全化、新たなエネルギー源の開発などだ。

 

 現在、カーボンか格付け政策を取り入れている国や地域は、EUや米国の東部諸州、カリフォルニア州、欧州諸国等、かなり増えてきている。しかし、グローバルなCO2排出量の85%はまだ対象外である。さらに価格付け政策を導入している国々でも、多くが㌧当たり10㌦以下と、報告書提案水準を大きく下回っている。報告書の水準と現行とのギャップをどう克服するかは、各国がパリ協定の目標達成に本気で取り組むかどうかにかかっている。

ttps://www.carbonpricingleadership.org/news/2017/5/25/leading-economists-a-strong-carbon-price-needed-to-drive-large-scale-climate-action