HOME出版・論文・資料 |Discussion Paper:「ESGに係るリアルオプション価値の統合報告ー開示インセンティブの制度補完も視野にー」越智信仁(尚美学園大学教授) |

Discussion Paper:「ESGに係るリアルオプション価値の統合報告ー開示インセンティブの制度補完も視野にー」越智信仁(尚美学園大学教授)

2017-06-29 13:04:35

ochiキャプチャ

 

 本稿の目的は、シグナリング理論が正当性理論を包摂して拡張するための開示インセンティブ付与方策の考察であり、まず、ステークホルダーの外部性改善に向けたESG戦略が、事業機会として企業価値創造につながるリアルオプション価値を生むことを論じている。リアルオプション思考を経営者の戦略的意思決定に役立てるとともに、オプション性が投資家から見ても納得できるよう、「機会」の可視化に向け、統合報告による非財務情報開示を構造化していく必要がある。

 

 次いで、企業が外部性まで視野に入れた統合経営を自律的に行う条件が整わない段階では、財務報告制度の非財務情報開示において、同業他社との差別化シグナルを発するインセンティブ補完が求められることを論じている。他方で、財務報告の重要性はビジネスにとってのリスクと機会が中心となるため、重要な社会的価値として消費や投資という投票行動に付すべき事象については、そのために開示規制が別途必要となる。当初は財務に関係なかった事象も、評判による「負のインタジンブルズ」が負の所有権として作用することで、企業にリスクマネジメント対応のインセンティブを生み、完全なアカウンタビリティの履行を誘因両立的に実現し得ると考えられる。

 

【目次】

1.はじめに

2.開示における誘因両立均衡の拡張

 2.1 統合報告と資本アプローチの接合

 2.2 CSVの拡張による外部性改善

3.ESGに係るリアルオプション価値の統合報告

 3.1 リアルオプション思考のESG戦略

 3.2 リアルオプション価値の統合報告

4.シグナル開示インセンティブの制度補完

 4.1 誘因両立均衡の拡張条件と制度補完

 4.2 シグナリング行動を促す制度開示設計

  4.2.1  法定財務報告内での開示規制

  4.2.2  人間の視点からの開示規制

5.おわりに

 

Ochiab1964d7f89ba58b1472c791a3ee14945-e1475648991683

越智信仁(おち のぶひと) 日本銀行を経て2015年から尚美学園大学総合政策学部教授。京都大学博士(経済学)、筑波大学博士(法学)。書籍・論文にて、日本会計研究学会太田・黒澤賞、日本公認会計士協会学術賞、日本内部監査協会青木賞、国際会計研究学会賞、日本NPO学会賞を受賞。  http://www.shobi-u-ochi.jp/