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第6回サステナブルファイナンス大賞インタビュー④中国銀行・新型コロナウイルス感染対策で、国内地銀初のコロナ債(ソーシャルボンド)発行。地元企業の資金繰り支援で地域金融賞(RIEF)

2021-02-05 14:18:10

Chugoku006キャプチャ

 

 中国銀行は昨年10月、新型コロナウイルス感染対策での顧客向け融資を資金使途としたソーシャルボンド(通称、コロナ債)を国内の地方銀行として初めて発行しました。地域金融機関として社会インフラ機能の維持とともに、コロナ禍の影響を受けている地元企業の資金繰り支援を積極的に展開する試みを評価して、地域金融賞に選定しました。同行の執行役員総合企画部長の山縣正和氏にお聞きしました。

 

写真は、表彰状を受け取る中国銀行東京事務所長の三好隆弘氏㊧、授与者は環境金融研究機構の藤井良広代表理事)

 

――コロナ対策資金をソーシャルボンド発行により調達することとなった経緯をお聞かせください。

 

 山縣氏:当行グループでは、感染拡大の初期から地域のお客さま支援の取組みを実施してまいりました。その中で、ソーシャルボンドの発行により「地域金融機関として地域の経済活動と雇用の維持をしっかり支援していく」というメッセージを内外に伝えることができると考えたのが最大の理由です。

 

 感染拡大の初期から、各支店等にはお客さま向けの相談窓口、本部内には対策センターを設置し、中国銀行グループを挙げてお客さまの資金繰り支援を実施してまいりました。ソーシャルボンドの取組みはそうした支援活動の一環と位置付けています。さらに、タイミングよく国際資本市場協会(ICMA)のソーシャルボンド原則(SBP)において「コロナ融資によって地域経済や雇用を守る」ということが資金使途の対象に加わったことも、大きく背中を押してくれました。ソーシャルボンド、いわゆる「コロナ債」として発行することで、地域のお客さまに安心していただけるメッセージを発信できたと考えています。

 

執行役員総合企画部長の山縣正和氏
執行役員総合企画部長の山縣正和氏

 

 また、タイムリーにスピード感をもって発行できた背景として、コロナ禍以前から自己資本の充実や資本効率の向上という観点で劣後調達を一つのツールとして議論してきていたこともあります。それらの要因が合わさって、迅速な対応につながったと思っています。

 

――確かに、発行されたソーシャルボンドは劣後特約付のハイブリッド債ですね。自己資本強化にもプラスになったことになります。御行営業エリア内の企業、顧客等でのコロナ感染について特別な特徴はありますか。

 

 山縣氏:岡山県の産業別の特徴としては、製造業の占めるウエイトが大きい点があります。コロナ感染拡大の第一波、第二波の際には、感染状況自体は比較的落ち着いていましたが、企業の経済活動、特にサプライチェーンの部分等では相応の影響がありました。個人も消費マインドの低下が非常に大きく、たとえば銀行のカードローンやクレジット利用額は減少しました。また全国どこも同様とは思いますが、やはり、宿泊・飲食、小売り等の観光関連の産業が受けた打撃は大きかったと思います。第三波では感染者数も相当増えていますので、これまで以上に様々な産業に影響が出ることを危惧しています。資金繰り支援に留まらず、お客さまの本業支援をしっかりやっていかなければならないと考えています。

 

――ソーシャルボンド発行についての取引先や消費者の反応はどうでしたか。

 

 山縣氏:思っていた以上のポジティブな反響があり、正直、非常に驚いたというのが実感です。発表の直後から、当行営業店のほか、発行する証券会社等に、個人の方も含めて多くのお問い合わせがありました。今回は機関投資家向けの発行でしたが、個人(リテール)のお客さまも含めて「趣旨に賛同できるので、ぜひ購入して中国銀行の取組みを応援したい」という声を多数いただきました。

 

 結果として、最終的な販売額に占める地方の法人や公的組織の割合は、7割を超えました。普段は積極的に金融商品取引をされていなかったようなお客さまにも購入していただいたと聞いています。ありがたく思うと同時に、地元の方々への「ソーシャルボンド」の理解促進と、SDGs(国連の持続可能な開発目標)やESG意識の醸成にも貢献できたのではないかと思っています。

 

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――地域のお客さまを育てることが「地銀の最大の至上命題」と指摘されています。今回のコロナ禍で、個人、法人を含めた顧客とのつながり、あるいは距離感、支え合いといった面での手応えはどうでしたか。

 

 山縣氏:手応えは確実にありました。それ以前は、資金余剰という状況の中で、我々地域金融機関による資金供給や資金仲介の機能については、お客さまにその意義を十分に感じていただけていなかったという側面があったように思います。しかし、今回は、資金を必要とされているお客さまに適切に資金を供給することを最優先で行い、銀行本来の役割を十分果たせたのではないかと感じています。

 

 資金余剰という金融環境の中で、特に若い行員は、これまでお客さまが本当に必要としている融資を提供できているかどうか、実感がなかなか得にくい状況でもありました。しかし、今回は、本当に資金を必要とされているお客さまに融資をできるという、銀行本来の役割を果たすことができ、行員自身も充実感、やりがいを感じるきっかけになったとも考えています。結果として、お客さまとのリレーションもしっかり強化できたと思います。

 

――まだコロナ禍は終わっておらず、引き続き大変な状態が続きますが、この間に得られたお客さまとのつながりを踏まえ、地域経済社会の核、軸になる金融機関としての役割を今後どう展開していかれますか。

 

 山縣氏:当然、資金繰り支援は引き続き重要事項として取組んでいくつもりです。またコロナ禍でお客さまの側にも新たな経営課題やニーズが出ていると思います。その課題やニーズに対していかにお客さまに寄り添ったソリューションを提供できるかが重要となります。それは、金融分野に限ったものではないし、金融のみならず非金融の分野でもどれだけお客さまのお役に立てるか、我々地方銀行の真価が今、問われているのだと思います。

 

――中国銀行はこれまで社債発行はありましたか。

 

 山縣氏:30年ほど前に一度、発行経験があるくらいで、今回は異例の債券発行でした。今回は、コロナ禍を受けてのソーシャルボンドという形をとりましたが、今回の発行で債券発行のノウハウや知見を得ることができました。

 

 当行は昨年(2020年)4月から始まった中期経営計画の中で、「地方創生・SDGsの取組み強化」を第一の柱に掲げています。今後も、たとえばグリーンボンドの発行などいわゆるSDGs債全般について前向きに検討していきたいと思っています。資本効率の向上、自己資本の充実という点は引き続き課題と認識しており、その課題に対応していくためにも、有用であると考えています。

 

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――昨年、政府が「2050年ネットゼロ」を宣言したことで、市場はすでに先取りして再生可能エネルギー分野等のビジネス展開が急速に動いているようです。中国銀行としてのサステナビリティ戦略の大枠はどういうものでしょうか。

 

 山縣氏:当行の環境面での取組みとしては、太陽光発電やバイオマス発電等の再エネ関連事業へのファイナンスなどを以前より積極的に行っており、これからも積極的に取組んでまいります。また社内の取組みとしても、環境負荷の低減に向けて、たとえばペーパーレス化の推進や、「グリーン購入に関する指針」の制定など、身近にできることから実践しています。

 

 「2050年ネットゼロ」に限らず、ESGの観点はより重要性が増していくと考えていますので、銀行としても、同分野のリスクとビジネスチャンスの両方にしっかり対応していかないといけない。ただ、まだまだ全社的な推進体制としては不十分な面もあります。TCFDへの賛同や、銀行としての投融資方針の策定等も、当行はまだ検討段階であり、今後加速していかなければならないと考えています。

 

――TCFDに沿った気候リスク情報開示では、銀行にとっては、顧客企業の情報開示が重要になります。

 

 山縣氏:お客さまにとっても、気候リスクへの対応をしっかりしないと、今の事業の柱を失ったりするリスクがある。またその一方で、このリスクにしっかり対応することは、自社の業績を向上させるチャンスでもあります。このようにお客さまにとってもリスクとチャンスが当然あると思いますので、たとえば事業構造の転換やそのための投資資金のお手伝いをするといったことにも、地域金融機関としてしっかりと取組んでいきたいと考えています。

                     (聞き手は 藤井良広)