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第6回サステナブルファイナンス大賞のインタビュー⑧気候ネットワーク・みずほフィナンシャルグループへの気候変動対応を求める株主提案の実施で「NGO/NPO賞」(RIEF)

2021-02-12 20:47:34

KIKO0022キャプチャ

 

 環境NGOの気候ネットワーク(KIKO)は、気候変動問題への取り組みを進める中で、CO2の最大排出源である石炭火力発電への融資額がグローバルベースで最大と指摘された「みずほフィナンシャルグループ(FG)」に対し、昨年3月、パリ協定と整合的な経営戦略の開示を求める株主提案を行いました。日本で気候変動問題での株主提案は初めてでした。提案は否決されましたが、34.5%の支持を内外の投資家から得ました。NGOの新たな活動として、NPO/NGO賞に選定されました。KIKO理事の平田仁子氏にお聞きしました。

 

――みずほに対して、株主提案をするきっかけはどういう経緯でしたか。

 

 平田氏:2015年のパリ会議のころから、欧米では投資家や金融機関の動きが目覚ましくなってきたのをみていました。CO2排出量の多い企業等への投資を引き揚げるダイベストメント等も学びました。我々の活動は、国内では石炭火力発電所の新規建設を止めるということに注力していましたので、それほど金融機関に焦点を当てて活動してきたわけではありませんでした。

 

 その後、株主提案というツールのインパクトと、金融機関が石炭火力の新設に関わる役割の大きさから、石炭火力建設を止めるうえでも、金融機関にアプローチする必要性を考え始めました。2019年の初めころでした。その後、株主提案等について欧米の団体の動き等を学んだり、弁護士から会社法等の勉強を深めたうえで、実際にみずほFGの株を買ったのが同年の8月でした。

 

――みずほFGを対象としたのは石炭火力への融資額が一番大きかったためですか。

 

 平田氏:当時、ドイツのウルゲバルドという市民団体の発表で、みずほがグローバルベースで、石炭火力事業への貸付額が一番多かったというのが最大の理由です。同時に、当時の日本の3メガバンクの石炭火力に関する方針では、一番前向きではなかったと感じました。一番後ろを走っているところをターゲットにしたという感じです。

 

平田仁子氏
平田仁子氏

 

――株主提案の前にみずほ側と交渉もしたのですか。

 

 平田氏:はい。もちろん、提案ありきではありませんでした。銀行は株主総会前の3月くらいに融資ポリシーの改定をするので、そのポリシーが十分なものであれば、提案する必要はないということで、銀行の担当の方と、2度ほど直接会って、ポリシー改定についての説明を受け、意見交換をさせていただきました。

 

 ただ、ポリシーの改定前には、ほとんど情報が得られませんでした。そこで、株主提案で要求する以外になさそうだと考えたことと、もう一つは担当の方は、パリ協定を踏まえて一生懸命に取り組んでいることを説明され、海外の金融機関の動きもよく勉強されているのですが、担当の方との交渉に限界も感じました。やはりトップの経営陣が動かないと組織は変わらないので、マネジメントレベルでパリ協定に向き合ってもらうことが早いし、重要だと思い、株主提案にコマを進めたということです。

 

――株はいくら保有しましたか。

 

 平田氏:株主提案をするには、3万株を保有していないといけないので、3万1000株を取得しました。われわれの活動としては、すごく大きい金額なので、決意をして取り組みました。

 

――提案は否決されましたが、賛成票は34.5%と3割を超えましたね。通常、否決されても3割以上の賛成票(経営陣からすれば反対票)が投じられると、経営陣は経営方針の変更を迫られるとも言われます。

 

 平田氏:正直、ここまで増えるとは思っていませんでした。10数%の賛成があれば相当のインパクトだと思っていたので、びっくりしました。「意思を持って」賛成してくれた国内の資産運用会社も複数ありました。特に、海外の大手議決権行使会社のISSとグラスルイスの2社が、株主に対して我々の提案に賛成するようアドバイスをしたことが、海外の機関投資家等の株主の賛成比率を高めたと思っています。

 

 両社とは、全く接点はなく、両社が株主に提案する内容も通常は公表されないので、われわれは事前にどうなっているのかを知る由もありませんでした。ISSからは、一度、電話をいただいて質問を受けましたが、基本的な質問が中心でした。グラスルイスからのアプローチは全くありませんでした。私の感触としては、両社とも、ESG投資を促進するといった意思をもって、われわれの提案を支持することにしたのではないかと思っています。


――今年はどこかの金融機関に株主提案をしますか。

 

 平田氏:今まだ決定していません。ただ、みずほFGの場合、今年から、株式併合を行い、株主提案をするには単元株で3万株必要というように改定したので、昨年の数百万円から、一ケタ多い数千万円が必要になります。昨年の保有株は、活動費が必要なのでもう売却してしまいました。ですので、ちょっと独自資金では難しい状況です。

 

 しかし、株主提案のツールのインパクトはわれわれの想像以上でした。株主総会後、みずほの方と話をしましたが、担当の方がマネジメントレベルと話をしていることは伝わってきます。まだ十分ではないですが、だいぶ内部で変革が起きているという手応えはあります。株主提案は、株主の権利を法的に行使する方法で、気候変動課題を前に進めていくうえで有効なツールです。ただ、現状はハードルが高いです。

 

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――最近では英HSBCに対して、欧米の機関投資家が化石燃料関連の融資を減らすことを求める株主提案を発表しました。こうした機関投資家とNGOが組めればいいですね。

 

 平田氏:そう思います。ただ、海外でも、NGOと機関投資家が一緒に行動するというのはあまり成功していないようです。意欲的な機関投資家は海外に多いですが、連携はそう簡単ではないようです。機関投資家側も前もって行動を情報開示することができないところもあるようです。今回、私たちも投資家に支持してもらいたかったので、すべての情報を英語にして発信したり、投資家向けブリーフィング資料も公表しました。また海外のNGOが様々に情報を発信してくれました。

 

 そうする中で、3月に株主提案をした後に、4月くらいにメディアの報道で北欧の3つの機関投資家が私たちの提案に賛成することがわかりました。それらの投資家とは全く接点を持っていなかったのですが、その後、他の投資家にも動きが広がり、私たちの提案が急にKIKOのものから、投資家のものとなっていったという感じでした。

 

 振り返ってみると、今回の取り組みの強みは、海外に気候変動対応を積極的に推進する厚い層がすでにあり、そのうねりを作ってきた人たちがいて、それを後押しする投資家がたくさんいたということですね。私たちがそこにポンと小石を投げたら、それを当然のように拾い上げてくれる国際潮流が存在したことにあったと思っています。そこに拾ってもらって大きくしてもらい、結果、国際潮流を日本の中に取り入れることができたかなと思います。

 

――日本でも菅義偉政権が「2050年ネットゼロ」を宣言しました。方向感は出ました。今後の各論への期待はどうですか。

 

 平田氏:ゴールを決めたというのは大きいと思います。(ネットゼロ目標は)化石燃料産業擁護を続けてきた経済産業省が、実質的な行動をとることから目をそらす手段をどんどん狭めていくだろうと思っています。まじめに考える企業は、あてにもならないイノベーションをやっていていいのかと思うだろうし、ネットゼロに向かう世界でどうやって収益をあげ、生き延びていくのかと考えた時に、企業は一番効果的で効率的な方法を見出すと思います。その道は、原発回帰や経産省が唱えるような実現可能性が見えない目くらましのイノベーションとは合致しないと思っています。

 

 楽観はしていませんが、旧来型の経産省の選択肢は狭められてきていると思います。だけど、それでも経産省は、2030年以降に実用化するようなイノベーションを進めるべく、様々な場を作って、エネルギー多消費産業を中心に、補助金を出し、研究開発を進め、彼らの雇用を守り、ビジネスを残すということに焦点を当てていくと思います。これを、次世代に向けた産業を起こし、そこへ移行することにどう切り替えていくかが重要です。

 

 そのためにも、お金の流れを180℃変えなければならない。2050年まで30年しかなく、地球の気温上昇を1.5℃にとどめるには、2030年までに排出量を半分にしなければならないのです。そうした中で、「2030年以降のイノベーション」と言っていていいのか。今必要なのは現実を直視し、エネルギー多消費産業のビジネスは、これから新しいクリーンな産業に代わらなければいけないということを明確にすることです。そのうえで、AからBに産業が移る時に、雇用の移行ためのトランジションにお金を使うべきです。あるいは、エネルギー多消費産業を抱えていた地域で新しい産業を興し、労働者の失業補償や、職業訓練、再就職支援等に使うべきです。

 

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――環境金融研究機構(RIEF)も昨年、研究会でトランジションファイナンスの基準作りをしました。ただ、経産省もトランジションを掲げています。同じトランジションでも目指すところが正反対の様な気がしました。

 

 平田氏:みずほを含めて3メガバンクの石炭火力へのファイナンスは、原則やらないことになりました。私どもの株主提案が一つの後押し材料になったかどうかはわかりませんが、問題意識をもって前に進んだ部分はあると思います。その一方で、昨年末にベトナムのブンアン2石炭火力発電所の案件への日本の官民の支援が決まりました。結局、足元ではまだ行動変容が起きておらず、方針は一歩前に進んだに過ぎないという状況です。

 

 また、石炭火力発電の新規建設は、この先ほとんどないであろうと考えられますが、次世代技術、あるいはイノベーションといって、CCUSや水素、アンモニア事業等を含めて、火力発電と絡む技術については進めていく方針を示しています。プロジェクトファイナンスにはなお危うさがあります。また、問題なのはプロジェクトファイナンスだけでなく、企業向けの一般的なコーポレートファイナンス全体のあり方が、パリ協定に整合しているのかというと疑問です。

 

――TCFDに基づく情報開示をするようになると、金融機関は投資ポートフォリオ全体に含まれるCO2排出量を把握しなければなりません。そうなると、変わらざるを得ないと思いますが。

 

 平田氏:みずほが出した最初のTCFDレポートみると、リスクの評価も、情報開示もまだまだ不十分です。みずほの場合、炭素資産は与信全体の7.3%としていますが、その内訳が十分に示されていません。石炭火力向けの与信残高を2040年までにゼロにするとしていますが、それが7.3%のうちのどれくらいの割合なのかもわかりません。レポートでは実態がつかめないのです。銀行のTCFDレポートの開示は、一歩前進ですが、これが義務化され、かつ標準化されると、開示の水準も質も高まってくると思いますが、現時点ではレポートを出し、リスクの検討を始めました、というレベルにとどまっていると言わざるを得ません。これからのさらなる取り組みを求めていかなければならないと感じています。

                            (聞き手 藤井良広)