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第6回サステナブルファイナンス大賞インタビュー⑨三菱UFJフィナンシャル・グループ・コロナ対策で2度のサステナビリティボンドを発行し、初の「サステナビリティボンド賞」(RIEF)

2021-02-15 16:54:44

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  三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は2020年中に2度にわたって新型コロナウイルス感染症対策関連の融資を資金使途に含むサステナビリティボンドを発行しました。海外の機関投資家向けユーロ建て発行に加えて、国内の個人投資家向けの円建て発行も実施し、金融取引を通じてコロナ禍のなかで社会貢献に積極的な投資家のニーズを受けた対応ともいえました。同社の対応に対して初のサステナビリティボンド賞を贈りました。財務企画部 CFO室長の高木真(たかぎ・まこと)氏に聞きました。

 

写真は、高木氏㊨とCFO室の小林亮祐氏㊧)

 

――最初に、コロナ禍でサステナビリティボンドでの資金調達を実施された理由をお聞かせください。

 

 高木氏:MUFGは、サステナビリティボンドの発行の前に、グリーンボンドの発行に早い段階から取り組んできたという経緯があります。遡ると、2016年9月にグリーンボンドを最初のESG債として発行しています。その後、2019年12月にはソーシャルボンドを出し、そして昨年の2度にわたるサステナビリティボンドの発行へと、ESG債のフレームワークを拡大していったという経緯があります。

 

 それぞれのESG債の資金使途も、最初は適格グリーンプロジェクトとして再生可能エネルギー事業へのファイナンスという形で始めました。その後、グリーンビルディングやソーシャル分野へと使途の範囲を拡大、ソーシャル分野でも、コロナ禍に対応したヘルスケアや雇用維持へのファイナンスと、少しずつ資金使途も拡大していきました。こうした資金使途の拡充は第三者評価機関の開示基準の目線に合ったうえでの拡充になります。こういう形でノウハウを3~4年越しで積み重ねてきた点が一つのポイントだと思います。

 

 今回のコロナ対応型のサステナビリティボンドは、コロナ禍という社会課題解決に対応するための資金使途の拡充の一環でした。コロナ禍で機関投資家だけではなく、個人投資家の間でも、社会貢献への意識が高まっている中でしたので、5月に同ボンドのためにフレームワークを拡充し、6月にユーロ建て債、9月には個人向けの円建ての個人向け債と、立て続けに発行しました。これまでもESG債に積極的に取り組んできましたので、そのノウハウを生かす形で、フレームワーク、資金使途の拡充がスムーズにできたと考えています。

 

――個人投資家向け債の発行は今回が初めてですか。

 

 高木氏:ESG債でわれわれが個人向けに発行するのは初めてです。6月にユーロ建て債で機関投資家向けのサステナビリティボンドを発行した際、グループ証券会社の三菱UFJモルガン・スタンレー証券から、個人の顧客からもコロナの様な社会課題に貢献できる投資をしたいという声が大きい、との情報を事前に得ていました。特に、6月の海外の機関投資家向けサステナビリティボンドが「コロナ債」としてメディアに取り上げられたことも個人の投資家の関心を高めたと思います。

 

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 ただ、当社サイドもコロナ禍で、多くのメンバーがリモートで仕事をしていました。個人向け債を販売するにしても、個人顧客とどれだけ対面が可能かという課題もあり、すべてが手探りでした。日本の社債の発行市場は、欧米市場に比べると、まだまだ裾野が小さいという部分があります。そのような中、個人の投資家の方々から「投資で社会貢献」の言葉をいただき、迅速に個人向けのサステナビリティボンドを発行できたのは良かったと思っています。

 

――実際に発行した後の投資家からの手応えはどうでしたか。機関投資家、個人投資家の両方で違いはありましたか。

 

 高木氏:グリーンボンドやサステナビリティボンドの市場では、まずは機関投資家、かつ欧州の機関投資家が、意識が高く、投資需要も非常に大きいです。したがって、ニーズが強いのは機関投資家でかつ欧州だと思っています。ただ今回は、事前に需要をいただいたこともあり、発行直前のマーケティングの段階でもそうでしたが、コロナ禍での社会貢献への問題認識を持った国内の個人投資家から非常に強い需要をいただいたということを、より強く感じました。

 

――コロナ禍は早く収まってもらいたいですが、今後どうなるかわかりません。MUFGの今年のESG債への取り組みの展望はどうですか。

 

 高木氏:今回の国内の個人向け債がそうでしたが、これまでの資金調達の中でグリーンボンドやサステナビリティボンドの枠組みを加えていくことで市場の反響が非常に大きく得られてきました。私どもにとっても、投資家の裾野を広げるメリットもあります。したがって、社債発行の中でESG債を有効に活用していくということは引き続き重要だと思っています。

 

 一方で、社債発行そのものは、国際金融規制である自己資本比率規制やTLAC(総損失吸収力)規制への対応が最も重要な目的ですので、調達額は、グループ全体の規制比率の状況をみながら決定していくことになります。その中で、今まではグリーンボンド等のESG債は欧州の機関投資家が中心というイメージが比較的強くありましたが、今回の様に、円建てで個人投資家の強い需要をいただいたことも踏まえ、欧州のみならず米国や日本でESG債の市場が拡大しつつあると見ております。社債発行全体の中でESGの要素を加えていくとともに、欧米、国内それぞれの地域の需要や調達コストを見ながら発行を検討していきたいと考えています。

 

――日本政府も「2050年ネットゼロ」を宣言し、今年はそれに沿った形でのエネルギー基本計画の改定もあります。そうした中で、MUFGもグリーン事業への取り組みを強化していくと思いますが、今後、再生エネルギー関係のファイナンスを(特定の分野に)絞り込んでいくことになるのか、あるいはグリーン事業を全般的にみていくのか。MUFGとしてのグリーンファイナンス戦略はどうなりますか。

 

 高木氏:政府の宣言は非常に重要なもので、日本の産業界全体に非常に大きな影響を与える規模の話と強く認識しています。MUFGグループの傘下で最大組織である銀行では、従来から再エネのプロジェクトファイナンスの組成に強く取り組んでいます。対象分野としては、太陽光発電を中心にした環境融資案件が拡大おり、再生エネルギー向けプロジェクトファイナンスの規模は、過去5年間で年率160%の高い伸び率を続けているなど、すでに積極的に取り組んでおります。

 

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 今回の政府の取り組みは、菅政権の強い決意によるものなので、今後、更に裾野が広がっていくと思います。太陽光発電にとどまらず、風力発電等の再生エネルギー中心に取り組んでいくことになると思いますが、事業者の動きに合わせる形で、たとえば新たな動きとしては、すでに洋上風力発電事業の案件が出てきています。こういった新しい分野にも、積極的に取り組んでいきたいと考えています。

 

――確かに、洋上風力、特に浮体式洋上風力への期待は高くあります。ただ、同分野には技術的なリスクも高いと思います。そうした技術の課題克服のリーダーシップをどこが取るのかという関心もあります。それには民間から政府に向けて声を出す必要があると思います。産業界全体を引っ張っていく金融機関に期待がかかります。

 

 高木氏:顧客企業等に訪問すると、脱炭素、温暖化対策がかなり話題になると感じています。特に、脱炭素といっても、たとえば水素エネルギーは代替エネルギーとしてメディアにも取り上げられますが、エネルギー効率等を考えると、今までのLPGに比べ圧倒的に劣りますし、かつ輸送コストは、水素は気体なので、多大な輸送ボリュームになってしまいます。そうしたコストも考えたうえでの実現性について、あくまでも私の推測になってしまいますが、ようやく、本格的な検討が始まった段階ではないかと思っています。当然、われわれとしてもどういった形で金融機関がこれらの分野に貢献できるのかということを、顧客と対応しながら、ひとつのビジネスとして取り組んでいく必要性を感じています。

 

――TCFDの気候リスク情報開示では、昨年、物理リスクと移行リスクについてのシナリオ分析を開示されました。今後、グループとして同分野の情報開示にどう取り組んでいきますか。

 

 高木氏:サステナビリティに関する取り組みの中で、当然、TCFD開示の拡充は進めていますし、引き続き拡充していくところです。具体的には、リスク管理の強化を目的に、TCFDの提言に基づき、気候変動による与信ポートフォリオへの影響を試算して開示を始めています。具体的には、物理リスク、移行リスクともに定量的な影響の試算、および開示を始めています。昨年10月には、MUFGとして初めて、サステナビリティレポートを発行しました。これもTCFD提言を踏まえた情報発信の充実の一環です。

 

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――TCFDの開示の基本は、金融機関の投融資先の企業が気候リスク情報開示をすることがまず必要です。金融機関はそうした開示の内容を評価する側ですよね。しかし、金融機関のTCFD対応が本気だと企業側が理解すると、企業側も資金調達の面で真剣になると思います。取引先の企業等のTCFD対応はどうみておられますか。

 

 高木氏:TCFD開示を踏まえた反響は、欧州を中心とした欧米の機関投資家の、決算発表後の面談での関心の高さという点では、まずは決算そのもの、次にコロナ影響、その次にESG関連が続きます。環境対応への質問に対して、定性的な回答だけではなかなかご理解いただけない点もあり、可能な限り定量的な情報で出して説明しております。与信ポートフォリオの開示もその一つで、あらゆる形で定量的な情報の開示の幅を広げていくように、取り組んでいくことが引き続き肝要と考えています。

 

――欧米の投資家は、欧米の金融機関に比べて、日本の金融機関の気候関連の情報開示を、どう評価しているとみていますか。メディアでは、よく日本勢の開示は遅れていると書かれますが。プロの機関投資家の感触はどうですか。

 

 高木氏:社債の話に戻りますが、ESG債の発行で採用している海外の第三者評価機関の評価基準がよりハードルの高い基準だと認識しており、そういったグローバルスタンダードな評価基準に対応して開示しているということで、欧米の投資家にも好意的に受け止めていただいていると思っています。また開示する実際の数値目標の水準も当然、重要ですが、それに加えて、継続的な開示に耐え得るような枠組みがあるかということも投資家は重要視していると考えています。

                    (聞き手 藤井良広)