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第6回サステナブルファイナンス大賞インタビュー⑬初のサステナブル・イノベーション賞に、野村證券と日本エアーテック社の新株予約権型ファイナンス活用の「サステナブルFITs」(RIEF)

2021-03-16 12:09:44

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 今回初めて設定したサステナブル・イノベーション賞には、野村證券が日本エアーテック社の資金調達で実行した新株予約権型ファイナンス(FITs)を活用した「サステナブルFITs」を選びました。日本エアーテックの代表取締役副社長の渡辺直樹氏と、野村證券のエクイティ・プロダクト・ソリューション部部長の中曽根叙夫氏に、お聞きしました。

 

写真は㊧から日本エアーテックの渡辺直樹副社長、同、平沢真也社長、野村證券コーポレート・ファイナンス二部の濱中氏)

 

 ――今回、野村證券による新株予約権型ファイナンス(FITs)のサステナブル版FITsの第一号として日本エアーテックの取り組みが評価されました。仕組みをご説明ください。

 

 中曽根氏:FITsは社内呼称(Flexible Issuer’s Transactionsの略)です。この手法自体は2013年のアベノミクス元年のころ、当時、日経平均が1万円を下回るという脆弱な環境下でしたが、今後企業の資金調達が増えると思って開発したものです。マーケット環境が不安定で脆弱な中で、新株を市場に一度に供給すると株価が下がり易くなります。そこで、小刻みに公募増資をするイメージをコンセプトとして、発行会社が少しでも安定的に資金調達ができるよう開発した経緯です。

 

 それから月日が経ち、日本エアーテック社が2020年1~3月の新型コロナウイルス感染拡大の真っただ中で資金調達をされるという話になりました。そこで、FITsという手法を作った当時を思い出したのです。世界中の株価が暴落する中でエクイティファイナンスを敢行するにあたっては、FITsの様な手法が良いだろうと考えました。また、さらに一工夫加えることで少しでも投資家や、マーケット参加者にご理解頂くことを考え、サステナビリティの要素を加えました。

 

中曾根氏(インタビューはオンラインで行いました)
中曾根氏(インタビューはオンラインで行いました)

 

 当時、誰もやっていないことでしたので、駆けずり回り、発行会社様の資金調達が成功するように考えて開発しました。仕組みとしては、発行会社が発行する新株予約権を当社に割り当てて頂き、当社が予約権を行使し株式を交付頂く都度、対価をお支払いし、発行会社が資金調達を行う手法です。調達した資金の使途について第三者評価を得ることで、投資家への透明性を高める工夫を行っております。

 

 資金使途については、日本エアーテック社自体が、半導体や電子工業分野等向けのクリーンエアシステムの開発を主体とし、環境負荷削減につながる業務であるほか、省エネ型の工場設備導入や新工場建築等に充当することから、日本総合研究所から第三者評価を得て、ESG/SDGsに貢献する適格性があることを認めてもらいました。エクイティのサステナブル評価の基準はないので、グリーンボンド原則等を準用してもらいました。

 

 ――基本的なFITs自体のファイナンス実績はそれまでにもあったわけですね。

 

 中曽根氏:そうです。2013年から実際に始めましたので、実績としては40社以上近くの企業にFITsでの資金調達をしていただいております。

 

――日本エアーテックは、野村證券からのFITs提案に基づいた資金調達をしようと考えた理由はどうでしたか。

 

 渡辺氏:野村證券から話を伺ったのはちょうど1年前になります。当社は、長年増資を考えていました。その中で公募増資も検討していましたが、FITsの話を聞いた時、少しずつ新株発行が進むことで、株価に与える影響を軽減しつつ、株主の理解も得られる中で増資につながるという点が大きな魅力でした。加えてSDGs、ソーシャルへの配慮ということも、世界に通用するクリーンエアーシステム技術を確立して世界に貢献するという、当社の社是に通じるものです。

 

渡辺氏(インタビューはオンラインで行いました)
渡辺氏(インタビューはオンラインで行いました)

 

 当社の中心事業であるクリーンエアシステムの供給を通じて、社会に貢献し、ESG/SDGsにも貢献していることに関し、第三者意見ももらうことで、これならば、しっかりと自信を持って進めていけるという思いで、サステナブルFITsに取り組みました。第三者意見を出してもらった日本総研とも何度もやり取りをして、対象事業の省エネ化等にもいち早く取り組んできた実績を振り返り、確信を深めながら進めることができました。

 

――新型コロナウイルス感染拡大の環境下で、クリーンエアーシステムへの需要もどんどん高まったと思います。そうした資金調達拡大の緊急性もあったのですか。

 

 渡辺氏:資金調達面では、緊急性ということは考えていませんでした。長年、増資を考えていたので、そこで市場環境を踏まえたサステナブルFITsの提案を、野村證券からいただいたので、そのタイミングでやってみようとなったのです。確かにタイミングとしては、コロナ感染拡大と連動した形になりました。ただ、FITsを採用する前から、埼玉・越谷の新工場を立てるとか、本社にショールームの設置等の計画はありました。

 

――エアーテック社は、自社製品のクリーンエアーシステムを他社に提供することで、他社のESG度を高めることにつながると思います。したがってサステナブルFITsによる資金調達は、まさに御社の業務にふさわしいと思います。将来は、グリーンボンド等の債券発行等も検討対象になるでしょうか。

 

 渡辺氏:そうですね。私どもも、ESG分野での視野が広がったと思います。

 

――証券会社として、顧客の資金調達を提案する際、エクイティファイナンスのサステナブルFITsと、グリーンボンドのようなESG債での調達を、どう使い分けることになりますか。

 

 中曽根氏:「使い分け」というよりも、発行会社のニーズに寄り添って、提案をさせて頂くというのが基本路線です。ただ、ボンド等のフィックスドインカム手段での調達の場合は、負債調達なので、将来の弁済が必要になります。一方で、エクイティでの調達、特に新株発行では、株主からの調達なので、将来の返済の必要はありません。ただ、既存株主の希薄化の議論はあります。

 

 そこを出発点としつつ、発行会社がどの様な投資をされるのか、今回の日本エアーテック社は事業拡大の成長投資でしたが、その投資による事業リスクに見合った調達方法としては、今回はエクイティが適していたわけです。一方で、企業それぞれの成長ステージとか、財務内容によって、発行会社に対する提案内容は、当然、変わってくることになります。

 

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――そうすると、場合によれば、ボンド発行を担うデットのチームと一緒になって資金調達の案分をするようなことも考えられますか。

 

  中曽根氏:そうですね。組織的には、デットの部署とエクイティの部署は分かれていますが、いずれも、インベストメントバンキング部門の傘下で全体の商品を取り扱っています。それぞれの部長は別々ですが、その上の担当役員は一緒です。また、各発行会社様を担当するリレーションシップマネージメントの担当者もいます。そうした担当部店は必然的に、多様な顧客のニーズを踏まえて、社内でコーディネートをする役目を担います。


――サステナブルFITsは、日本エアーテックの後も増えているようです。今後ESGファイナンスで、FITsが広がると期待していいですか。

 

 中曽根氏:当社の取り組みというより、世界的に最優先課題となっており、発行会社や投資家の視点では、注目度、重要性がすでに高まっているとみています。実際に資本市場、調達市場には、発行会社と投資家がおり、当社にとってその両方が大事な顧客です。発行会社と投資家の間に立って、仲介者として、両者をつないでいます。それが我々の本業です。

 

 今、資本市場では、一部に、エクイティファイナンスは悪、自己株取得等の株主還元は正しいという風潮が若干あります。これは株主の立場からすれば当然かもしれませんが、市場のステークホルダーには、発行会社も、投資家も、我々のような仲介業者も、デットを提供する銀行も、従業員もいるわけです。企業は、そうした中で上場している以上、エクイティファイナンスは必要性があれば胸を張ってやるということだと思います。それを実施するに際しては、投資家の理解を少しでも促し、深めて、(発行会社を)サポートしていただくことが重要だと考えております。我々仲介業者がなすべきことは、投資家サイドのクオリティを向上させ、投資家を育てていく、そして発行会社と投資家の橋渡しをお手伝いする、そういう取り組みだと考えております。

 

――ESGの要素が入っていると、投資家につなぎやすくなるということですね。エアーテックの海外拠点は主にアジアのようですが、御社の製品への需要はアジアと欧米で違いはありますか。

 

 渡辺氏:若干の違いはあります。クリーンルームの規模とか清浄度、ランニングコストを比較すると、アジアは規模が大きく、清浄度はあまり高くなく、コストは安価という特徴があります。アジアのクリーンエアーシステムは技術面、コスト面で、欧米に比べて低いといえます。当社はそんな中で、アジア等では、現地の提携会社に対して技術指導を行い、オペレーション機能は現地企業でと、それぞれの市場環境に合った製品づくりをサポートしています。欧米では製薬や半導体等で質的には安定しているところが中心なので、国内の製造会社を通じて当社の製品を提供する形になっています。

 

――クリーンエアーシステムの市場では新型コロナウイルスの影響は相当ありますか。

 

 渡辺氏:そうですね。昨年の初めから中国、台湾、韓国での製品の据え付けが一切停滞しました。今、渡航制限とか隔離措置が講じられる中で、少しずつ現地での事業を進めていますが、製品に比べて据え付け等のコストが高くなるなど、いろんな影響が出ています。

 

 しかし、クリーンエアーシステムそのものは、非常に産業として裾野が広がっています。従来なら、たとえば、ガソリンエンジンの自動車などでは、それほど清浄度はいりませんでしたが、脱炭素化の進展で、電気自動車や燃料電池車などの製造を増やすとなると、部品の管理段階から、清浄度の管理が非常に重要視されてきます。完成品の工場だけでなく、部品を提供するメーカーでもクリーンエアーシステムの需要が高まっています。

                                                                                                                              (聞き手は 藤井良広)