HOME |「2016年サステナブルファイナンス大賞」受賞企業インタビュー④ 優秀賞の格付投資情報センター(R&I)。「グリーンボンドアセスメント手法の開発」(RIEF) |

「2016年サステナブルファイナンス大賞」受賞企業インタビュー④ 優秀賞の格付投資情報センター(R&I)。「グリーンボンドアセスメント手法の開発」(RIEF)

2017-02-20 14:52:54

R&I4キャプチャ

 

   格付投資情報センター(R&I)はグリーンボンドを対象としたグリーンボンドアセスメント制度を開発、サステナブルファイナンス大賞の優秀賞に選ばれた。それ以前からも、メガソーラーなどのグリーン・プロジェクト・ボンドの信用格付手法などを開発し、事業者、発行体、投資家をつなぐ役割を果たしている。ストラクチャードファイナンス本部グループリーダーの森丘敬氏と、同本部アナリストの齋藤恭子氏に聞いた。

 

―グリーンボンドを評価する格付手法によるアセスメント制度を実施しようとしたきっかけは何だったのですか。

 

森丘:われわれは、数年前からグリーンボンド市場には関心を持って研究をしていました。グリーンボンド評価の以前に、2014年4月にまず、ゴールドマンサックス証券がアレンジしたJAG国際エナジー社開発のメガソーラー事業の信託受益権に信用格付を付けました。さらに、昨年7月には日本政策投資銀行が融資した風力発電の案件についても信用格付(予備)を付与しています。こうした評価の延長線上に、グリーンボンドアセスメントがあります。

 

  本格的にグリーンボンドに格付を付けるアセスメント手法の検討を始めたのは、去年の1月の初めでした。日本の発行体も国外でグリーンボンドを発行する事例も出てきていました。欧米市場では盛んにグリーンボンドの発行と投資が進んできていたので、日本でもいずれ、国内で発行する事例が増えてくるのではないかと考えて、検討に入りました。そうしたらしばらくして、米国の格付会社のムーディーズも、同様にグリーンボンドの評価手法の開発を検討し始めたという情報が入り、びっくりしました。

 

――個別のグリーンボンドの評価をする作業の中で、信用格付のようにランクをつけたほうがいいという感じはあったのか、セカンド・オピニオン的にするか、レーティングを付けるかという意識は最初からあったのか。

 

森丘:外部評価をしていこうというところから始めたので、セカンド・オピニオンを付けるという選択肢もあり得ました。しかしわれわれは、格付会社として長年、債券の信用格付にかかわってきています。そこで、信用格付の手法を踏まえ、わかりやすい符号を用いて格付評価する方法を選びました。この手法だと、複数のボンドを格付した場合に、投資家が各ボンドのグリーン度を比較評価できます。この「比較可能性」を持つ形での外部評価が望ましいと考えました。

 

優秀賞の表彰状を掲げる田中英隆取締役専務執行役員(左)
優秀賞の表彰状を掲げる田中英隆取締役専務執行役員(左)

 

――信用格付で培ってきた格付評価のノウハウを生かしたわけですね。

 

森丘:そういうことです。単に外部評価を与えるだけではなく、グリーンボンドに投資する投資家に必要なボンドの比較可能性を示したわけです。

 

――セカンド・オピニオンを付ける業者の中でも最大手のノルウェーのCICERO(キケロ)はグリーンの事業評価を3段階で分けて評価しています。それらも参考になりましたか。

 

齋藤:確かに、各機関の方法論はスタディーしました。キケロの場合、グリーンボンドの対象となる事業と選定基準についてのグリーン度合いを、グリーンの色分けで示す手法です。「ダークグリーン」「ミディアム・グリーン」「ライト・グリーン」ですね。これに対して、われわれは、国際基準であるグリーンボンド原則(GBP)の4つのコア・コンポーネントに加えて、発行体の環境活動も評価するという独自の視点を加え、全体で5つの評価基準でみています。

 

 われわれのアセスメント評価は、「グリーンボンドの調達資金が、環境問題の解決に資する事業に投資される程度」を軸として分類しています。まず、もっとも評価の高いGA1は「(環境問題の解決に資する事業に投資される程度が)「非常に高い」となります。次いで、GA2は「高い」。GA3は「十分である」などと5段階になっています。

 

 R&I6キャプチャ

 

森丘: GBPのコア・コンポーネントと、「発行体の環境活動」の評価の、計5つの評価基準を総合的に評価して、段階的符号をつけているわけです。資金使途の項目では、GBPの9事業に該当するかに加えて、事業の内容を評価します。環境に良い影響を及ぼす度合が大きい事業のほうが、いい評価を得られます。評価は、5つの評価基準ごとに5段階に評価します。その評価のレベルは「葉っぱ」の数で表しています。たとえば、昨年9月の、本邦第1号案件となった野村総合研究所が発行するグリーンボンドへのアセスメントの場合は、評価のレベルを示す「葉っぱ」の数は、5つの項目毎にに4枚のものもあれば、5枚のものもあります。いずれも評価は公開しています。

 

――そこにR&Iとしてのオリジナリティがあると。

 

森丘:グリーンの評価について、一定の水準以上であれば評価を与える第三者評価会社もあるかと思います。われわれはそこを段階的な評価をつけて、違いを明瞭に表して、投資家に示していこうとしています。

 

――セカンド・オピニオン業者の中には、発行体へコンサルティングをしながら、一方で、その企業が発行するグリーンボンドの第三者評価をするといったケースもあるようです。こうした場合は、利益相反が起きるのではとの懸念もあります。また、セカンド・オピニオンも、発行体に厳しい機関は避け、緩やかなところにシフトする傾向もあるように聞きます。

 

森丘:セカンド・オピニオンについては欧米のグリーンボンド発行事例等を相当研究しました。評価の軸は評価会社によって様々であり、中には非常に専門性の高いところもあります。最終的には評価力が問われると思います。

 

――実際に野村総研のグリーンボンドを評価されましたが、信用格付とは異なった難しさ等はありましたか。

 

齋藤: 野村総研様の場合、資金使途がグリーンビルディングの購入ということで、事業が一つという意味では分かりやすかったといえます。また、それ以外のところもちゃんと事前にGBPに基づいて枠組みをきちんと立てておられました。ポイントは、資金使途であるビルの省エネ性能等の評価でした。LEEDの認証は取得予定で、CASBEE(建築環境総合性能評価システム)のSクラスを取得していましたので、CASBEEで省エネ性能の評価内容をみました。国の省エネ基準を満たしているかどうか、省エネ基準で定められる項目で平均的な一般の新築ビルに比べてどれくらい上回っているか、主にこの2点を確認しました。

 

 R&I3キャプチャ

 

森丘:われわれにとっても最初の案件でしたので、CASBEEなどにヒアリングして、評価手法等についても確認しながら進めました。日本のビルの環境性能を評価するうえでは、開示内容についてより詳細を詳らかにしてくれるCASBEEの方がLEEDよりも使いやすいといえるでしょう。

 

――再エネ関連のグリーンボンドの評価の可能性はどうですか。

 

森丘:問い合わせはいろいろあります。今のところすぐに2件目、3件目という状況にはなっていませんが、基本になる手法を開発できたので、早く次の案件を手掛けられればいいと思っています。再エネ関連のボンドやシンジケートローンなども日本でもどんどん出てきていますので、そういうものを評価できればと考えています。

 

――外国のグリーンボンドなどの評価をやる考えはどうですか。発行体は日本だが、資金使途の案件は海外のものというケースも今後、増えると思えます。

 

森丘:できますね。やれればいいなと思います。野村総研の案件についても英語版を作成して開示しています。英語の案件でも評価できる体制にはなっています。グリーン・プロジェクト・ボンドの信用格付も、引き続きやっていくつもりです。グリーン評価を一つのビジネスに育てていきたいと考えています。日本の環境金融市場の発展に貢献したいですね。    https://www.r-i.co.jp/jpn/ancil/gba/

                                      (聞き手は藤井良広)