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2018年(第4回)サステナブルファイナンス大賞受賞企業インタビュー① 大賞は、日本生命の「石炭火力事業への新規投融資原則禁止等の積極的なESG取り組み」(RIEF)

2019-02-21 15:10:11

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 第4回(2018年)サステナブルファイナンス大賞は、日本生命保険が受賞しました。日本生命は、日本の機関投資家として初めて、石炭火力発電事業への新規投融資の原則禁止を明言するなど、投融資にネガティブスクリーニングの導入を決めたほか、グリーンボンドなどのESG債等への投資にも積極的に取り組んでいます。民間最大規模の機関投資家としてのリーダーシップを評価しました。同社財務企画部長の秋山直紀氏に話を聞きました。

写真は、表彰式で大賞の表彰を受けた秋山氏(真ん中)。右は池尾和人審査委員長、左は藤井良広環境金融研究機構代表理事)

  

――大賞おめでとうございます。まず、昨年は石炭火力発電事業への新規投融資の原則禁止を含むネガティブスクリーニングの導入を決定されました。審査委員会はこの点を高く評価しました。石炭火力発電事業への新規投融資の原則禁止については、いつごろから実施しようと考えていたのですか。

 

 秋山氏:検討を開始したのは、2018年度に入ってからです。ネガティブスクリーニングは、それまで明文化したものはありませんでしたので、導入するのであれば、機関決定をすべきだろうということで、役員会議にも付議しています。社外へのご説明という意味では、2018年4月下旬の運用方針説明会で初めて、検討することを外部に伝え、社内で明文化をめぐる議論を行い、10月頃に、ホームページでも開示しました。

 

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――ネガティブスクリーニングの対象は他にもありますか。たとえばタバコなどは。

 

 秋山氏:当社で導入しているネガティブスクリーニングは、新規の石炭火力発電事業以外では、クラスター弾や対人地雷、生物兵器、化学兵器などの武器製造企業を対象としたものです。タバコは、様々な意見、議論があることは承知していますが、タバコ以外の事業を行っていることもあり、対象外としています。

 なお、当社の基本的な考え方としては、ネガティブスクリーニングで投資禁止対象を広げていくというよりも、例えば、エンゲージメントで投融資先に働きかけることで、世の中を変えていくという方法を取りたいと考えています。

 

――ESG債等への投融資目標は7,000億円ですね。いつからこの数値目標を設けていますか。

 

 秋山氏:2017年度からの中期経営計画(2017~20年)で7,000億円の目標を設定しています。なお、2017年度の当初の目標は2,000億円でしたが、1年間で達成したことを受け、今年度目標を7,000億円に引き上げました。2017年12月末時点で、4,000億円超の投融資実績となっており、引き上げた目標に対しても、2年弱で過半を超え、順調なペースで投融資が行えている状況です。

 

――今後の日本生命のESG投融資戦略としての重点は、ESG型の投資を増やすことですか、あるいはエンゲージメントを増やすことにありますか。どちらでしょうか。

 

 秋山氏:ESG債等への投融資はいくつかあるESG投融資の手法の中でもESGテーマ投融資に当たるわけですが、契約者様などのステークホルダーにとって分かり易く、ESGに取り組むに当たっては、グリーンボンドなどは非常にいい投資対象だと思います。資金使途が環境関連事業に限定されているので、ESGテーマ投融資に該当することが明確であり、それらの債券等に投資することで自分たちも勉強しながら実績も積み上げていこうと、やってきました。ただ、そうした取り組みは、いわば第一段階だと考えています。

 

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 その次の段階として、株式や債券、融資等の投融資プロセスにおいて、企業のESG等の非財務情報も考慮するインテグレーションや投融資先企業にESG要因も含めた対話を行うエンゲージメントといった取り組みの推進を通じて、ESG投融資手法の高度化に努めていきたいと考えています。テーマ投融資だけがESG投融資ではありませんし、我々は、エンゲージメントやインテグレーションが、機関投資家としての責任を果たすという意味で大きいと思っています。

 

 ただ、言うは易しですが、ESG投融資は非常に奥が深く、やり方も様々ありますし、(ESG投融資の)レベル感もあります。今後は、そこの点を徐々に高度化をしていきたいと思っています。

 

――日本のグリーンボンドは去年1年だけで、33本が発行されました。テーマ投融資もやり易くなってきた感じもありますか。

 

 秋山氏: そうですね。そういう感じはします。ただし、当社としては、収益を犠牲にしてまではやらないということを基本的な考え方としています。これだけ金利が低いと、投資の目線に合うかという問題があります。特に円建てのグリーンボンドでは利回りが低くて、投資できないケースも多々あります。グリーンボンドも普通のシニア債と同様、金融商品ですので。

 

――2018年はグローバルなグリーンボンド市場も伸び悩んだ格好でした。逆に言うと、グリーンボンドも、他の金融商品と同じように、市場環境の変化に応じてマーケットベースで反応するようになってきているということですね。

 

 秋山氏:そうですね。そういうことだと思います。

 

――投融資先企業の非財務情報開示を求める一方で、日本生命自体の非財務情報の開示も求められます。

 秋山氏:2018年末に気候関連財務情報タスクフォース(TCFD)の提言への賛同を表明しました。来年度に向けては、当社自身も非財務情報の開示をこれまで以上に行っていく必要はあると認識しています。

 

――TCFDは温暖化対策です。金融機関の場合、CO2排出量を含め、環境負荷は基本的にあまり多くなく、むしろ社会的な側面などとのバランスが大事ではないでしょうか。社内的に情報開示をどう評価していますか。

 

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 秋山氏:一例をあげれば、当社は株式会社でも上場会社でもない(相互会社)ですが、東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードは、当社のコーポレートガバナンスに関する基本的な考え方に合致すると考えているため、コーポレートガバナンス体制の構築およびその継続的な発展に努めるにあたり、相互会社の特性等を考慮しつつ当コードの趣旨を尊重しながら取り組んできています。また、その実施状況については、コーポレートガバナンス報告書として開示しています。

 

 また、社会的な側面という意味では、サステナビリティ経営を推進しており、国連の持続可能な開発目標(SDGs)などを踏まえながら、サステナビリティ経営に生かしています。

 

――非財務分野の情報開示では、米国のサステナブル会計基準機構(SASB)が産業・業種別の規格を決めました。業種別分類の中には、「保険」という分野もあります。開示の仕方としては、業種別のほうが分かり易い気がします。

 

 秋山氏:SASBの内容は精査しきれていませんが、詳細に区分がされており、参考にできる部分は多くあるのではないかと思っています。

 

――TCFD提言への賛同は表明されましたが、こちらのほうには、投融資でどう取り組んでいくつもりですか。

 

 秋山氏:時間軸は非常に長いものだと認識していますので、まずは投資先企業との対話、コミュニケーションの中で情報開示をお願いしていくことだと思っています。投資先企業が気候変動のリスクや機会についてどのように考え、対応しているのかといった点については、我々が直接把握することは不可能です。そのため、まずは投資先企業に対し、ESG課題への取組の一つとして、TCFD提言に沿った開示や気候変動に対する考え方等の開示をお願いしていくことだと思います。

 

――日本生命は総資産66.4兆円(2018年3月)という規模で、投資家としては他の海外の主要な保険会社にも匹敵する規模です。またESG課題の開示は、各生保に共通するテーマですので、保険各社が一緒になって企業に開示を求める行動が考えられます。

 

 秋山氏:実は日本生命も参加する生命保険協会では、2017年度から集団的エンゲージメントに取り組んでいます。元々の経緯としては、2017年5月に改訂された日本版スチュワードシップ・コードにおいて、集団的エンゲージメントが有益な場合もあり得るとの内容が盛り込まれたことを受け、それを生保協会でやってみようとして、スチュワードシップ活動ワーキンググループに参加する10社が連名で投資先企業に、情報開示の促進等を求める内容の書簡を送付しました。

 

 送付先は100社ほど。今年度も「ESG情報の開示充実」と「株主還元の充実」をテーマに、100社程度に対し、課題意識を伝える書簡を送付しています。なお、対象企業との対話等を通じて、課題意識を具体的に説明することで集団エンゲージメントの更なる実効性の向上を図りたいと考えています。

 

右は財務企画部の笠作響さん
右は財務企画部担当課長の高石裕介氏

 

――そうした業界全体の対応の中でTCFDも取り組むということですか。

 

 秋山氏:大きくはTCFDも含んでいるとは考えています。ただ、TCFDについては、当社は支持表明を行っておりますが、集団的エンゲージメントの10社がすべて賛同しているわけでもありません。

 

――新規の石炭火力発電への投融資の原則禁止について、方針を出したことへのリアクションはどうでしたか。

 

 秋山氏:反響はかなり大きかったですね。政府が、いわゆる「ベースロード電源」に位置付けている石炭火力を否定するかのような方針には、日本生命のような規模の大きな投資家は、もっと慎重にすべきだとの意見も実際に頂戴しました。しかし、たとえば電力会社の株や債券を全部売ってしまうわけではありません。電気がなければ国民生活に影響が出るので、石炭火力を即座に廃止すべきとは思っていません。一方で、気候変動抑制の目標の達成に向けては、環境省が指摘している通り、今ある石炭火力の稼働率を相当程度落とさないと、国としてのCO2削減目標に届かないということも現実です。そういったことを総合的に考え、気候変動への影響の大きい石炭火力発電事業への投融資には、国内外問わず原則として取り組まない方針としました。

 

――石炭はCCSを取り込まないと将来、「座礁資産」に転じるリスクはあります。投資家の視点で日本生命が、これらを見直すきっかけを作ったのは大きいと思います。そこでさらに日本生命として、太陽光発電等の実物投資をする考えはないですか。

 

 秋山氏:プロジェクトファイナンスを通じて、太陽光発電や風力発電を含む再生可能エネルギー関連プロジェクトへの資金提供は既に行っています。エクイティ(実物投資)は直接投資では行っておらず、ファンド形式で外部に委託して投資を行っています。エクイティについては、デットとは投資に当たって評価すべき点が異なる認識ですし、デット投資やファンド投資を通じ、ノウハウを積み上げる中で、将来的には、エクイティも検討していきたいと考えています。

                                          (聞き手は 藤井良広)

 

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