HOME |2018年(第4回)サステナブルファイナンス大賞受賞企業インタビュー⑤J-REITで初グリーンボンドの日本リテールファンド投資法人の三菱商事・ユービーエス・リアルティもグリーンボンド賞(RIEF) |

2018年(第4回)サステナブルファイナンス大賞受賞企業インタビュー⑤J-REITで初グリーンボンドの日本リテールファンド投資法人の三菱商事・ユービーエス・リアルティもグリーンボンド賞(RIEF)

2019-03-01 10:06:38

MCUSB1キャプチャ

 

 グリーンボンド賞を受賞したJ-REITの日本リテールファンド投資法人(JRF)は、三菱商事・ユービーエス・リアルティ(MC-UBS)が運用する商業施設特化型のREITで、MC-UBSグループが保有する3つのREITの中で最も規模が大きいファンドです。2018年の国内のグリーンボンド市場の特徴の一つとなったJ-REITによるグリーンボンド発行ラッシュの先がけとなりました。MC-UBSのコーポレート本部の吉見明大財務部長と北岡忠輝企画調査・ESG推進部長のお二人に話を聞きました。

 

 ――日本のJ-REITで最初にグリーンボンドを出されました。各業界の第一号ブームの先導役にもなりました。いつごろから発行を考えられていたのですか。

 

 吉見氏:MC-UBSは2013年から、サステナビリティ活動や、ESG活動に積極的に取り組んできています。そうした活動の積み上げの中で、サステナビリティ活動の対外的な発信、さらにその発信力の強化ということで、3年ほど前から、内々に検討していました。それが「いざやるぞ」となったのは、2017年12月に戸田建設が事業会社としてグリーンボンドを発行されたのをみて、われわれもJ-REIT初のグリーンボンドを出そうと、本格的に動き出したのです。

 

――事業会社がグリーンボンドを出したので、われわれも出せると・・。

 

 吉見氏:そういうことです。

 

コーポレート本部財務部長の吉見明大氏
コーポレート本部財務部長の吉見明大氏

 

――それまでのJRFの資金調達はどうやってきたのですか。

 

 吉見氏:全体の有利子負債は4000億円ほどあります。そのうちの約1割が投資法人債、残りの9割が銀行からの借り入れになっています。

 

――今後の方針としては、資金調達の中でグリーンボンドを増やしていくということになりますか。

 

 吉見氏:グリーンボンド自体は、これからも継続的に発行していきたいですが、マーケット自体がそれほど大きくなく、わが国の投資法人債市場はまだ6000億円ほどしかないのです。その中でわれわれは400億円ほど出しています。投資法人債市場全体が大きくならないと、われわれのシェアをなかなか増やしづらい状況もあります。したがって、グリーンボンドの発行も、もう少し増やしたいと思っていますが、急激に増やすことは、市場全体の問題になってきます。


――投資法人債全体がグリーン化にすればいいのでは。

 

 吉見氏:現時点で、われわれ含めてJ-REITのグリーンボンドは9件出ています。国内のグリーンボンド市場全体も拡大しつつあるし、投資家の認知も広がってきているように思っています。

 

――MC-UBSが保有する他の2つの投資ファンドの資金調達にもグリーボンドを活用できませんか。

 

 吉見氏:そうですね。同じように環境認証を取得しているビルを、我々のファンドは保有していますので、残りの2つのファンドでもグリーンボンドを広げていきたいと考えています。

 

――会社としてのESG対応と、ファンドのESG対応は別々になりますか。

 

コーポレート本部企画調査・CSR推進部長の北岡忠輝氏
コーポレート本部企画調査・CSR推進部長の北岡忠輝氏

 

 北岡氏:3つのファンドが別々にESG対応をやるということだと、バラバラの行動になりかねないので、グループとして統一した方針を持ってやっていこうということで、MC-UBSにサステナビリティ・コミッティという会議体を設置し、四半期に一回の割合で会議を開いています。コミッティの議長は社長で、以下、各ファンドの本部長や運用担当者、IR、財務担当者らが一堂に会して、ESGにどう取り組んでいくかということを毎回、検討・議論しています。そういう形でグループ全体の方針を決めた後、各ファンドがその方針の下で、自分たちは何をやろうかと決めていく仕組みにしています。

 

 私は運用会社にいますが、各ファンドは不動産を保有する「ハコ」というか、物件を持ちつつ、有利子負債の調達と、エクイティの調達を行っています。全体に共通する運用方針等に絡む責任投資原則(PRI)への署名等の活動は、運用会社のほうで担当し、一方で、今回のようなグリーンボンドや、ファンドとしての評価を得るGRESB等の認証はファンドごとに行っています。

 

――投資ファンドをもっと増やす方針はありますか。

 

 北岡氏:今のところは、それはありません。JRFが商業施設、産業ファンド投資法人が産業用不動産特化型ファンドで、物流倉庫や工場・研究開発、そしてインフラ施設等を保有しています。MCUBS Midcityはオフィス重点型REITです。今のところ、レジデンスやマンションなどの住居系はやっていません。

 

――グリーン化することと、不動産のキャッシュフローがより良くなるかという点は必ずしも一致しないと思いますが。

 

 北岡氏:GRESBの評価の一つに、建物の認証なり、グリーン化をポートフォリオの中で何パーセント進めているかという点があります。我々としても、なるべく増やしていこうとしています。そうはいっても当然ながら投資家から預かった資金でやっていますので、利回りを度外視してはできません。その辺りのバランスをとりながらやっています。

 

――グリーンボンド発行額にも上限がありますね。これを引き上げようという目標はありますか。物件保有の結果として、現在の目標になっているということですか。

 

 MCUSB5キャプチャ

 

 北岡氏:そうですね。よほど築年数が古いものを取り入れれば別ですが、基本的にREITで投資物件を取得する時には相当、細かく調べますので、基本的には環境認証がある程度取得できるような物件が結果的に集まることになりますね。

 

――環境以外のソーシャルボンドもあります。今後、不動産物件のソーシャルな価値も求められる可能性もあります。その点の見通しは。

 

 北岡氏:これは新しいテーマですね。確かに最近では、単に個別物件の環境性能だけを良しとするのではなく、ESGのSはソーシャルだけではなく、「ステークホルダー」だとの捉え方もあります。要するに、関係者すべてにとって大事な影響と、解釈されることも多い。そのステークホルダーには、オフィスで働く従業員やテナント、地域の住民であったりします。こうしたステークホルダーにもプラスの影響を与える運用を目指しています。

 

――たとえばどんな活動をされていますか。

 

 北岡氏:現在やっているのは、どちらかというと、イベント的なものが多いですね。ただ、例えば、栃木県小山市で元々、遊園地だった施設を大規模商業施設に転じた物件の場合、対象施設の真ん中にあった駐車場が、人々の動きを悪くしてしまいかねないと判断して、リニューアルに際して、駐車場の場所を、子どもの遊び場に変えて、その下に雨水を貯める設備を作りました。子供を中心にした家族連れが集まり易くなったほか、洪水で床上浸水が起きそうな時には、その地下に大量の余剰水を誘導できるので、地域の環境保全・安全確保にも寄与できます。さらに移転した駐車場への導線を良くしたことで交通渋滞がなくなり、自動車の排気ガス削減にもつながりました。こんなケースもあります。

 

――町づくりにまでコミットする不動産、ということですね。

 

 MCUSB8キャプチャ

 

 北岡氏:産業ファンド投資法人のほうで、ポジティブインパクト投資を東京・大田区でやりました。対象物件を取得することで、そこに入居する大田区内の中小企業・工場やスタートアップ企業等を支えることになり、地域産業の活性化、雇用の創出にもつながります。投資物件の取得が、こうしたプラスのインパクトにつながるのではないかということで投資を決めました。

 

――大田区のケースは街づくりですね。先ほどのようにグリーンビルディングは、新規のビルはほとんどグリーン化していますので、「グリーン」が標準化してきているようにも思えます。そう考えると、今後は、ソーシャルなインパクトのほうに意味が出てくるかもしれませんね。

 

 北岡氏:日本の建物は基本的に、それぞれそれなりに性能がいいです。環境対策も、どちらかというと、すでに乾いたぞうきんのようになっていて、これ以上エコ対応をやろうとしても、それほど出てこない、というのが特性としてあるように思えます。そうだとすると、今後は、Sの社会のほうにシフトしていこうとなってくる。これは社会的な傾向だと思います。

 

 我々は不動産という切り口で、基本的に物事を考えていきます。その中で、不動産の特性として、EもSもできるということだと思います。

 

――グリーンボンドの発行は条件的にどうでしたか。

 

 吉見氏:今回、5年債で利回りは0.21%でした。たとえば、1年前の2017年5月に同じ5年物の普通社債を50億円出しています。その時の利回りは0.22%。市場全体の金利自体はこの間にそんなに大きく変わっていなかったので、金利水準として0.01%の改善はグリーンのお蔭といえます。さらに募集額80億円に対して、2倍の応募があったのも、グリーンボンドだったからだと思います。多くの投資家から関心を示していただいたことも大きかったです。従来から、投資法人債を買ってもらっている信託銀行や投信に加えて、大手の生保も新たに投資に加わってくれて、裾野を拡大できたと考えています。

 

MCUSB7キャプチャ

 

――今後も毎年発行していかれますか

 

 吉見氏:市場環境とJRFの資金調達ニーズが合えば、われわれとしてはできるだけ、継続発行していきたいと考えています。毎年発行にどこまでコミットできるかですが。われわれのJRFによるグリーンボンド発行をきっかけとして、9投資法人がグリーンボンドを相次いで発行したことで、国内のグリーンボンド市場も残高6000億円台に増えてきました。われわれとしては、その市場の開拓に貢献したということを今後もアピールしていきたい、と考えています。

                  (聞き手は 藤井良広)