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福島原発事故で更迭・辞任の経産省、東電幹部らは今。引責のはずが天下りで悠々自適。融資元の銀行にも天下り(東京)

2014-03-16 18:58:46

勝俣恒久東電元会長
勝俣恒久東電元会長
勝俣恒久東電元会長


福島原発事故から3年。原発政策を推進し、事故当時に経済産業省や東京電力の幹部だった面々は、その後、大手企業などに天下りや再就職をしている。住民13万人以上が避難したままで、「原発関連死」は千人を超えた。彼らは今、何を思うのか。(新井六貴)

 

「応答できませんので、お帰りください」。今月8日土曜日の午前。神奈川県内の松永和夫・元経産省次官宅を訪ね、インターホンで事故から3年の心境を尋ねると、その言葉だけが返ってきた。

清水正孝元東電社長
清水正孝元東電社長


当時、経産省の事務方トップだった松永氏は2011年8月、後手に回った事故対応や、やらせシンポジウム問題の責任を問われる形で、就任から、わずか1年で更迭された。退任会見では、被害者に「大変、申し訳ない気持ちでいっぱいだ」と語った。

その7か月後、松永氏は、大手損害保険会社「損保ジャパン」の顧問に就任するなど、計4社の顧問と社外取締役に就いた。社外取締役として迎え入れた「住友商事」は「誠実な人格と高い見識があり、適任と判断した」と説明する。

11年8月、松永氏とともに資源エネルギー庁の細野哲弘・元長官と、旧保安院の寺坂信昭・元院長の二人も更迭されている。松永、細野、寺坂の3氏は、勧奨退職の扱いとなり、自己都合退職より退職金は1000万円以上も上乗せされ、6000万~8000万円程度が支払われたとみられる。

細野氏は、みずほ銀行の顧問と、みずほ銀行が約4%を保有する興銀リースの社外取締役に納まっている。細野氏は取材に「現地の人はお気の毒と思いますが、申し上げることはありません」と話し、事故の責任については「組織に聞いてください」とだけ答えた。

松永和夫元経産省次官
松永和夫元経産省次官


細野氏は、東電の損害賠償支援スキームを作成した中心人物だ。債権者の大手銀行や株主を免責し、国と電力会社などの出資で設立した原子力損害賠償支援機構が、必要に応じて東電に資金を注入するというもの。東電の経営破たんを回避し、事実上、国民の電気料金や税金で支えるという仕組みだ。

東電の有価証券報告書によれば、みずほ銀行は約5300億円を東電に長期で貸し付けている。持ち株比率第8位の大手株主でもある。東電が経営破たんすれば、債権や株を失う恐れが出る。

東京ガス子会社の東京エルエヌジータンカーなど3社の顧問に就任した寺坂氏にも取材したが、「申し訳ございませんが、取材には答えていません」と言葉少なだった。

緊急迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)の情報の公表が遅れた問題について、寺坂氏は国会事故調で「公開されていれば、住民の避難方向などの参考になったかもしれない」と無用な被ばくが拡大した可能性を認めている。

細野哲弘元資源エネ庁長官
細野哲弘元資源エネ庁長官


原発事故直後、旧保安院のスポークスマンを務めた西山英彦・元審議官。女性問題が報じられ、停職1か月の処分を受けた。その後、環境省の福島除染推進チーム次長を務め、13年6月に退職した。その3か月後、自動車部品メーカー「矢崎総業」に入社し、企画室主査に就いている。

一方の東京電力。社内で絶対的な権力を握っていた勝俣恒久・元会長は12年6月に「経営責任をとる」として退任。その後も、東海原発などを運営する日本原子力発電(原電)の社外取締役を務めていたが、13年6月にここも退いた。

自宅に伺うと、勝俣氏の妻は「取材は受けないことになっている。今は(仕事は)しておりません。(東電に)行ってもおりません」と話した。

勝俣氏は11年3月30日の記者会見で「社会に心配、迷惑をかけた」としたが、対応の手際を問われると、「まずさを感じていない。電気、通信が途絶える厳しい環境のため、作業が遅れた」と反論した。

寺坂信昭元原子力安全・保安院院長
寺坂信昭元原子力安全・保安院院長


事故直後の陣頭指揮を執った清水正孝・元社長は、3月29日に体調不良を理由に入院。4月7日に復帰した。事故から1か月以上すぎてから、福島を訪れ、避難住民に直接、謝罪。「皆さんが、早く故郷に戻れるように全力を尽くしたい」と土下座した。「重い十字架を背負う覚悟」と発言していた。

清水氏は11月6日、「広く社会に迷惑をかけたことを鑑み、私がまず、けじめをつけるのが筋と判断した」と辞任。1年後に、東電が筆頭株主の富士石油の社外取締役に就任している。清水氏の自宅を訪れたり、会社を通じ取材を求めたが、締め切りまでにコメントを得ることはできなかった。

<「能力本位なら否定しないが」>

元経産官僚の古賀茂明氏は「経産省の3人は原発政策を推し進め、事故対応や汚染水対策でも初動でミスを重ねた責任がある。退職金を割り増しにされた上に、天下りもして、逃げ切ったという感じだ。結局、経産省は誰も責任をとっていない」と指弾する。

「細野氏がみずほ銀行に天下りしたのも驚きだ。みずほ銀行は利害関係者そのもの。細野氏らが東電の破たん回避のスキームをつくり、みずほグループの債権を守った」と指摘する。みずほ銀行の広報担当者は「(スキームとは)関係ない。経営全般の助言をお願いするために招いた」とする。古賀氏は「福島復興に協力する国民の善意を悪用し、銀行を助け、国民にツケが回された形だ」と解説する。

天下りの問題に詳しい兵庫県立大大学院の中野雅至教授は「能力本位の天下りならば、否定はしないが、能力以外の力学が働いているように見える。しがらみのある天下りは、公正な行政をゆがめることになる」と危惧する。「生活に困窮している避難住民の思いを重視していないということだろう」と話す。

政策研究大学院大学の福井秀夫教授(行政法)は「東電幹部の再就職も問題だ。東電は国から事業の独占を許され、国のテコ入れで成り立つ会社だ。『民間』から『民間』に移るのだから、かまわないというわけにはいかない」と批判する。

松永、寺坂、勝俣、清水の4氏らは、避難住民らでつくる福島原発告訴団に12年6月、安全対策を取らずに原発政策を進めて事故を起こしたなどとして、業務上過失致死傷で告訴された。検察は不起訴にしたが、検察審査会で処分の妥当性を審議している。

告訴団事務局の地脇美和さん(43)は憤る。「避難住民は、補償の問題でいがみ合ったり、経済的に苦しかったり、傷ついている。天下りする人は、自分はたまたま運が悪かった程度にしか思っていないのだろう。事故の責任が問われないのは、許せない。退職金や報酬を差し出してもらいたいぐらいだ」

 

<デスクメモ>

経産省と東電の幹部の「その後」を追いかけたが、彼らだけに責任を負わせたいと考えているわけではない。広い意味では、メディアも含め国民一人一人に原発災害を招いた責任があると思う。なのに、風化のスピードが速まっているように感じる。何度でも、あの時の反省と悔恨の気持ちを思い出したい。(国)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/