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<CSR点検>三井住友フィナンシャルグループ(SMFG) の2016年統合報告書。環境配慮融資等で実績。企業価値創造プロセスは説得力弱い(RIEF)

2016-09-28 22:58:41

SMBCキャプチャ

 

 三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)は今年から、ディスクロージャー誌を統合報告書として開示している。報告書は基本的に国際統合報告評議会(IIRC)を参照した、としている。

 

 その冒頭で「財務・非財務ハイライト」を一体的に掲載している。統合報告を意識した主要指標の紹介である。ここで非財務情報については、環境・社会・ガバナンス(ESG)として、以下の4つの指標を紹介している。

 

 ①環境配慮等評価型融資/私募債取り組み実績(約1兆6000億円:三井住友銀行)②金融経済教育の受講者数(約17万名:延べ数)③役職員によるボランティア参加者数(約61200名:延べ数)④取締役および社外取締役数(取締役14名、うち社外取締役5名)、である。

 

 このうち、環境配慮型融資/私募債は、メガバンクの中でも、SMFG傘下の三井住友銀行が力を入れてきた分野で、1兆6000億円の実績は大きい。環境金融研究機構が昨年実施したサステナブルファイナンス大賞の優秀賞も得ている。http://rief-jp.org/award

 

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 「事業戦略」のホールセール部門での紹介の中では、別途、環境配慮融資/私募債の詳細な情報を掲載している。ただ、これらの実績が、財務面での貸出金残高や、当期純利益にどう貢献しているかといった「統合評価」にまでは至っていない。来年は是非、この点を改善してもらいたい。

 

 SMFG社長の宮田孝一氏と三井住友銀行国部毅氏による合同のトップメッセージでの非財務情報の扱いでは、まず「次世代を成長を支える経営インフラの高度化」として、コーポレートガバナンス体制の説明と、ダイバーシティの推進を説明している。

 

 次いで、CSR活動での重点課題を「環境」「次世代」「コミュニティ」の3つに特定したことのほか、昨年中に、三井住友銀行がグリーンボンドを発行したことや、東日本大震災や熊本地震の復興支援などの社会貢献活動を推進していることを伝えている。

 

 SMFG1キャプチャ

 

 トップメッセージに盛り込まれたこれらのESG情報としては、他の金融グループに比べて多いといえよう。ただ、グリーンボンド発行やISO14001取得などの実績については、CSR活動としての位置づけにとどまっている。「本業としてのCSR」が統合報告の一つの視点とすれば、この点も来年の課題といえる。

 

 SMFGの企業価値創造のプロセスでは、「経営理念」「価値創造の源泉」「価値創造のプロセス」「創造する価値」との流れを示している。他のメガバンクの説明では、価値創造を担う体制と、誰に向けての価値創造かというステークホルダー視点等が盛り込まれている。比較すると、SMFGの示す「企業価値」プロセスは、定性的表現が中心で、説得力が弱いように映る。

 

 ステークホルダーの評価はどうか。トップメッセージ自体が「ステークホルダーの皆さまへ」と題しているように、ステークホルダー意識は高いといえよう。報告書の中でSMFGが想定するステークホルダーは、「株主」「顧客(お客様)」「社会」「従業員」ということのようだ。

 

 一方、非財務要因の「環境」は、上述のように、報告書において「次世代」「コミュニティ」とともに、CSRの中長期的なマテリアリティ(重点課題)として扱われている。しかし、統合報告の視点では、これら3つも、いずれもSMFGのステークホルダーとして位置づけるべきだろう。

 

 環境リスクに本業として向き合い、現在世代だけでなく、次世代につながる投融資を開発し、コミュニティの基盤を支える――。そこから金融自体が環境を軸とした新しいビジネスオポチュニティをつかみ、次世代、コミュニティの支持を得ることで、金融自らの持続可能性を高める可能性が開かれる、と考えれば、まさに、「環境」「次世代」「コミュニティ」は、財務と非財務を統合するステークホルダーなのである。

 

 SMFGは経営理念の中で、役職員が共有すべき価値観として5つのキーワードを掲げ、その最初に「Customer First」を置いている。この点は金融業も他の産業・企業と同様に、顧客に支持されてこそ、本業の向上につながるわけで、明快だ。

 

 しかし、その顧客は、環境に左右され、人権や差別問題に心を痛め、次世代に思いを巡らせ、コミュニティの安心・安全に支えられ、その一方で、株主であったり、従業員であったりする場面もある。顧客の持つステークホルダーとしての「多様な素顔」に、どう向き合うか。この点はSMFGだけでなく、金融界全体の課題である。

     (藤井良広)

http://rief-jp.org/ct1/64364?ctid=67

http://rief-jp.org/ct1/63937?ctid=67

 

http://www.smfg.co.jp/investor/financial/disclosure/h2807_c_disc01_pdf/h2807c01_00.pdf