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「2016年サステナブルファイナンス大賞」受賞企業インタビュー③ 優秀賞の三菱UFJフィナンシャル・グループ。「グリーンTLACボンドの発行」(RIEF)

2017-02-16 17:50:56

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 三菱UFJフィナンシャルグループ(MUFG)は、金融安定理事会(FSB)がグローバルな金融システム上重要な銀行(G-SIBs)に対してシステミックリスク対応の総損失吸収力(TLAC)の確保を求めたTLACシニア債発行計画に、グリーンボンド発行を組み込んだ。「グリーンTLACボンド」の発行は世界で初めて。リスク対応とESG対応を組み合わせた知恵と工夫でサステナブルファイナンス優秀賞を受賞した。MUFGの財務企画部CFO室長の藤田徹氏、三菱東京UFJ銀行(BTMU)のストラクチャードファイナンス部プロジェクト環境室長の山﨑周氏、主幹事証券モルガン・スタンレーMUFG証券資本市場統括本部ヴァイス・プレジデントの舘健史氏らに話を聞いた。

 

――最初にTLAC規制の概略とグリーンボンド発行に至った経緯を教えてください。

 

藤田:TLAC規制はFSBで最終合意された規制で、リーマンショックのような金融危機への反省を踏まえ、G-SIBsが守るべき基準として導入されました。万一G-SIBsが経営危機に陥った場合に、株主・社債権者に損失を負担して頂くことにより、G-SIBsが有する重要な機能を維持しつつ、納税者負担によらずに金融システムへの影響を回避する秩序ある破綻処理を行なう枠組みです。このTLAC規制資本の調達比率として、2019年3月末までにリスクアセットの16%を、2022年3月末までに18%を確保しなければなりません。裏を返すと、われわれが調達・確保しなければならない資本やTLAC適格シニア債、資本性証券などの残高によって、われわれが持ちうる資産規模、リスクアセットが決まってくるのです。

 

こうした資本・社債を調達・確保できないと、われわれのビジネスのほうを縮小せざるを得なくなります。したがって、多様な投資家にアプローチして、安定的にTLAC適格シニア債を発行していくことが非常に重要になっています。そこで、まず投資家基盤、調達手段を多様化する観点から、今回、新たなグリーン投資家、ESG投資家にもTLAC適格シニア債を買っていただくことを想定し、グリーンTLACボンドも発行したわけです。今後、TLACシニア債は全体として年間1兆円弱くらいを発行していく方針で、その中にグリーンボンドも一定量、継続的に含めていくことを検討しています。

 

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   またグリーンボンドを発行することで、MUFGを取り巻く各ステークホルダーにアピールする意味もあります。加えて今回、サステナブルファイナンス大賞優秀賞をいただき、MUFGグループが環境金融の普及・拡大を後押ししていることを世の中に広く知らせることにつながりました。整理すると3点ですね。投資家基盤の拡充、ESG観点での各ステークホルダーへのアピール、それからPR効果によるグループ各社の環境金融ビジネス拡大の後押し、ということです。

 

――TLAC適格シニア債を発行しようとした当初から、グリーンボンドを想定していたのですか。

 

藤田:MUFGによる最初のTLAC適格シニア債発行は去年3月でした。その時は、市場環境も現在と比べれば悪く、またわれわれにとって初めてのTLAC適格シニア債だったこともあり、正直、どれくらい投資家が購入してくださるか、見当がつかなかった面もありました。最初なので「市場を開拓することに意義がある」という部分も強かったのです。二回目から、調達スプレッドをタイト化しつつ、調達手段を多様化するという「高度化」へのチャレンジを模索する中で、グリーンボンドが浮上したのです。グリーンボンドに詳しい専門家もチームにいたという好都合もありました。

 

藤田徹MUFG財務企画部CFO室長
藤田徹MUFG財務企画部CFO室長

 

:ESG投資家という新たな投資家層が拡大基調にある時期でしたので、そうした投資家向けにグリーンボンドを組み込むことで、より投資家基盤を強固にし、より安定的なTLACシニア債の調達に資するのではという点が、取り組みの一つの要因になったと思います。

 

――昨年9月にグリーンTLACボンドを発行しましたが、投資家の反応はどうでしたか。

 

藤田:TLAC適格シニア債を全部で40億㌦分発行し、そのうち5億㌦がグリーンボンドでした。グリーン専門の投資家のほか、大手でもグリーン専用の運用資産を持つ投資家、大手の資産運用会社、年金基金、保険会社なども入っています。TLACシニア債は全部で5年債、7年債、10年債を発行し、そのうち7年債をグリーンボンドとしました。今回、グリーンボンドは5億㌦発行でしたが、投資家からの購入希望でみると8倍強と買い需要が強く、非常に需要が旺盛でした。

 

――一般のTLAC債の場合の倍率はどれくらいですか。

 

:市場環境次第ですが、直近一年間で見ると、SEC市場における週間平均ベースでの需要倍率は2~5倍くらいですね。今回のTLACシニア債発行全体で見てもグリーンボンドである7年債が、一番強い需要を集めました。

 

――それだけ買い需要があったのなら、もっと発行数を増やせばよかったのでは。

 

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山﨑:資金使途となる再生可能エネルギー向けプロジェクトファイナンスは十分な残高がありますが、今後、継続的なグリーンボンド発行を想定すると、ボンド残高が積み上がることが予想されます。一方、ボンドが満期一括返済であるのに対し、発行の裏づけとなる対象融資は約定返済により長期的に漸減していきます。今後の継続的な取り組みも展望しつつ、当初予定通りに5億㌦の発行となりました。

 

――グリーンTLACボンドの発行は年一回ですか。発行額も5億㌦くらいで推移しますか。

 

 藤田:グリーンボンドをどのような頻度で発行していくかは、状況を見つつ柔軟に考えていきたいと思います。TLAC適格シニア債は発行可能な時期が限られています。限られた発行可能時期の中でどれくらいグリーンボンドを含めるかは、その時のマーケットの状況次第ですね。投資家の需要や調達資金の充当先である環境関連融資サイドの需要も総合的に考え、今後も継続的に発行していきたいと思っています。

 

――グリーンボンド発行の基本的枠組みを教えてください。

 

藤田:国際基準であるグリーンボンド原則(GBP)の4つの柱に基づいています。資金使途は、適格グリーンプロジェクトとして、太陽光・太陽熱・風力発電を選びました。またプロジェクトファイナンスのESG基準である「赤道原則」に則っています。これらの基準を満たすグリーンプロジェクトを、グリーンボンドの資金使途、運用先にしています。

 

――GBPに沿って,再エネに絞り込んだ理由は。

 

山﨑:わかりやすさという点が大きかったですね。グループの三菱東京UFJ銀行(BTMU)が融資するプロジェクトファイナンスを対象としていますが、セクターとしては再エネに限らず、例えば省エネに繋がる鉄道や、あるいは高効率の火力発電なども選択肢として考えられます。今回がわれわれにとり初めての発行であったため、投資家との対話の中で、太陽光・太陽熱・風力に限定すれば、わかりやすさという視点から投資家に受け入れられやすいと考えました。また、弊行は再エネ向けプロジェクトファイナンス組成についてグローバルに随一の実績がありますので、これらに対象を限定した発行が可能となりました。

 

――将来の発行では対象の資金使途先を拡大する方向になりますか。場合によって省エネを入れるとか。

 

山﨑:その点は、今後の検討課題として柔軟に考えられると思います。

 

――GBPの4つの原則は最小基準として理解されているのか、それとも4つのうちどれかを満たせばいいということですか。

 

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藤田:われわれは4つの原則を基本的に満たすことを考えています。資金使途とプロジェクトの評価、および選定プロセスは、これまで説明した通りです。残りは調達資金の管理と、レポーティングです。レポーティングもいわゆるインパクトレポーティングを実施しています。環境の改善にどれだけ貢献するかが定量的にわかるようにしています。

 

 この際、融資対象事業からのCO2削減効果を自前で算定したうえで、客観性を担保し、透明性を確保するため、第三者の認証機関によるレビューを導入しています。実際に取り組む際にも、われわれの枠組みが適切であるかどうかも第三者に見てもらったし、期中管理とか、対外的な開示も、監査ではありませんが、第三者レビューで、一定の意見をいただくことで、客観性を担保しています。

 

:GBPでは、調達資金の管理に関して、確実にグリーンプロジェクトに充当し、追跡管理を行うことと定めていますが、GBPには推奨項目として実際の資金充当状況について外部からのレビューや監査があると、より望ましいとされています。MUFGとしては要請以上の推奨項目も広くカバーするようにしています。実際、レポーティングに関しても、要請としては定性的な報告のみが求められていますが、MUFGは要請項目だけではなく、それ以上の定量的なインパクトレポーティングを実施することにしています。

 

――そうするとコストがかかるという議論もあります。

 

藤田:確かに、追加的なコストや負荷がかかります。しかし、そのコストと引き換えに投資家の多様化などの利点が得られます。仮に社債市場の状況が悪化して、発行が難しくなるような場合でも、グリーンな投資家の支持を含めた多様な投資家基盤があるかどうかで、かなり調達コストは違ってくると考えます。この効果はおそらく管理コストよりもはるかに大きいと思います。最初の話に戻って、われわれの資産規模、われわれのビジネスは、TLAC調達残高によって決まってくるということなので、ここはわれわれの生命線です。単にコストの多寡、比較だけでは決められないのです。

 

――資金使途に日本国内の太陽光等は含まれていますか。

 

山﨑:今回のボンドの発行通貨は米ドル建てですが、為替レートで換算したうえで、日本国内の対象プロジェクトも資金使途の対象としています。

 

――ただ、日本市場は欧米に比べて大規模なものが少ないですね。

 

山﨑:日本では2012年の固定価格買取制度(FIT)導入以来、太陽光発電市場が大きく拡大しました。足元ではFITの減額もあり落ち着いていますが、環境アセスメントを終えた風力発電や、最近ではバイオマス発電や地熱発電など、新しいタイプの再生可能エネルギー発電案件も期待され、引き続きこうした国内のプロジェクトもファイナンス面からサポートして参りたいと考えています。

 

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――国内の投資家の対応はどうですか。

 

山﨑:今回、生命保険会社など日本の投資家にも一部購入いただいています。一般に年金基金や保険会社は長期運用が求められますので、こうした長期債はニーズに合致しやすいのではないかと思います。

 

―-政策への期待はありますか。

 

山﨑:政府はパリ協定の合意もあり、2030年に向けて総発電量に占める再エネの比率を22~24%に高めていく方針を示しています。2014年度の実績は12%程度(含む水力)でしたので、これを倍近い水準に高める目標と言えます。FIT価格は、当初高めの設定であった太陽光発電が下落していますが、その他の再エネも含め、更なる普及・拡大に向けて制度面での後押しが期待されます。

 

――中国の風力や太陽光を資金使途に加えるといったことも考えられます。

 

山﨑:引き続き検討して参りますが、一般に中国国内ではプロジェクトファイナンスを利用して国際金融機関から資金調達するというケースは少ないように見受けられます。

 

――TLAC適格シニア債を日本市場で販売することは考えていますか。

 

藤田:実は、TLACについては、国内における詳細な規制はまだ固まっていませんので、日本ではまだ積極的な販売は控えておりますが、今後、規制が日本においてもはっきりしてくると、広く販売できるようになるのではないかと思います。その中に、グリーンボンドも織り交ぜていければいいと考えます。

 

今回は、初めてのグリーンボンド発行であり、枠組みを作るという意味で、数か月かけて準備しましたが、できてよかったと思っています。他行も追随し得ると思いますが、われわれは邦銀で最初にTLAC適格シニア債を発行していますし、常に一歩先をいくつもりです。

 

                                        (聞き手は藤井良広)