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「2016年サステナブルファイナンス大賞」受賞企業インタビュー⑤ 優秀賞の三井住友信託銀行。「国際規範・ルールに基づくグローバル・エンゲージメント活動」で2年連続受賞(RIEF)

2017-02-22 17:17:45

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  三井住友信託銀行は2015年に続いて、16年も「国際規範・ルールに基づくグローバル・エンゲージメント活動」で、2年連続してサステナブルファイナンス大賞の優秀賞を受賞した。ESG活動を掲げる企業は多いが、実際に海外市場を視野に入れたエンゲージメント(対話)活動を実践する姿勢が評価された。スチュワードシップ推進部の川添誠司氏に聞いた。

 

――グローバルな視点でのエンゲージメント活動に取り組むきっかけは何だったのですか。

 

川添:三井住友信託銀行は、ESG活動の3本柱として、投資先に対するエンゲージメント、ESGインテグレーション、議決権行使を位置づけています。このうち、国内企業に対するエンゲージメントは、スチュワードシップコードを踏まえて実施していますが、海外企業に対しても、他社に先駆けて、今回の「国際規範・ルールに基づくグローバル・エンゲージメント活動」に取り組んでいます。

 

 グローバル・エンゲージメント活動に踏み出した一番のポイントは、ビジネスがグローバル化する中で、基本的なリスクとは何かという点日本企業・海外企業問わずビジネス自体がグローバル化しておりサプライチェーンもグローバル化しています。こうした中で一番大事な企業活動は何かと思った時、やはりルールを守るというのが基本と考えました。ルールをちゃんと守っている企業が、リスクが一番少ない会社であるということです。リスクが少ない会社であれば、当然、収益に関するボラティリティも少なくなるはずです。つまり業績のクオリティが一番高くなる。その点を見極めるエンゲージメントをグローバルにやっていこうというのが出発点でした。

 

――国連責任投資原則(PRI)にも署名され、それ以前からもESG活動に取り組んでいますが、そうした経験の中からESGリスクの少ない投資先を選ぼうという視点が出てきたのですか。

 

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川添:PRIは投資家と他のステークホルダーとの連携によって、特に環境とか社会問題に取組む枠組みと思っています。このエンゲージメント活動でもプラットフォームとして有効に活用して参ります。

 

――グローバル活動という点で、参考にあった欧米の金融機関の先例はありましたか。

 

川添:いくつかグローバルにエンゲージメント活動をやっているところはあります。たとえば北欧や欧州系の年金、あるいはソブリンウェルスファンドなどでは、今回取り入れたエンゲージメント活動の考え方は一つの標準型となっています。

 

――日本ではフィールドも、金融環境も欧米とは違います。そこでの日本的な工夫という点はありましたか。

 

川添:考え方はどこも共通ですが、われわれがエンゲージメント活動を伝える対象は日本のお客さまなので、そこにわかりやすく、なじみやすく伝えていく工夫がいります。そこはわれわれの中で伝え方の味付けといったものですね。たとえば、日本の場合、ESGのそもそもの部分を伝える教育的なプロセス面も必要だと思います。それらを含めた形での伝え方という点では、さらなる工夫が今後も必要だと思っています。

 

――具体的なエンゲージメント手法についてお聞きします。主に3つの手法を上げておられますね。

 

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川添:考え方は一つです。国際ルールに違反していないかどうかという点です。それをエンゲージメントとしていくために、どういう風にアクセスしていったらいいか、という意味での手法です。インハウスの活動、PRIの活用、そして外部の専門機関の利用がありますがいずれも手段の違いであり基本は、国際ルールに基づいて活動しているかを見極める点です。企業活動を是正するプロセスとして、相手側が問題や課題を認識し具体的な是正措置を講じ実施していく、というプロセスが大事です。

 

 国際ルールで一番に取り上げられるのは環境・労働・人権そして、汚職です。

 

――エンゲージメント等で活用する手段としてのウエイトはどれが多いですか。

 

川添:今は、まだ始めたばかりですので、ISS-ETHIXと共同でやる場合のウエイトが多いのは間違いないです。しかし、徐々にわれわれにもノウハウや経験が蓄積してきています。アジア、太平洋州地域ではファンダメンタル分析を行うアナリストもいますのでそこでの企業や課題へのエンゲージメント活動インハウスでも取組みんでいけるのではとのイメージを持っています。

 

――具体的な活動対象についてお聞きします。クラスター弾の場合は、全国銀行協会レベルでもやっていますが、それを化学・細菌兵器(核兵器を含む)にも拡大することを検討しているということですが。

 

川添:化学・細菌兵器は、既に国際法上禁止されており投資先としてはまずあり得ない。非人道的兵器のカテゴリーで言えば、核兵器関連は、今後国際ルールの取り決め方如何によっては、検討課題と認識しております。

 

――化学兵器などはそういう段階から脱して、実際に排除しているところは欧米では多いと。

 

川添:そうですね。問題になるのは、化学物質などの材料ではなく、化学兵器そのものとか兵器にとって不可欠な部分あるいは部品かという点です。

 

――これまでのグローバル・エンゲージメントの実績を教えてください。

 

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川添:パーム油などのサプライチェーンなどで直接対応している銘柄は、9社です。これ以外に、2016年度はISS-ETHIXとの協働で、エネルギーや資源・素材、資本財など21社をフォローしています。全部で、年間100社ほどに何らかの形でコンタクトしています。

 

――エンゲージメント活動をしても、相手が問題点を是正しない場合は、投資対象から引き揚げるのですか。

 

川添:基本的に、われわれはパッシブの運用もしていますので、その場合は、少し時間はかかるかもしれないが、基本的には正してもらうようにエンゲージメント活動することが重要なポイントだと思っています。投資先に課題が残っているうちは、フォローしていくべきものだと考えています。

 

――パーム油の製造だけでなく、製品に活用する日本企業などの取引先へのエンゲージメントはどうですか。

 

川添:今はやっていませんが、たとえばRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)の場でもパーム油の買い手の問題については、エンゲージする必要はあると思っていますので、機会があれば情報の提供はしていきたいと思っています。

 

――今後のグローバル・エンゲージメントの課題は。

 

川添:ESGが、米国やEUなど地域間の保護主義の材料に使われることです。グローバルな基準と同時にローカルな視点でも考える必要があるのではないかと思います。

 

 われわれが知らなかったようなこと、あるいは見逃されていたようなことが、意外と結構インパクトがあったりします。ESG課題を理由として、例えば1970年代に起きたような保護主義的な国際摩擦が起きる可能性があるということです。

                                                      (聞き手は藤井良広)