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「2016年サステナブルファイナンス大賞」受賞企業インタビュー⑥ 地域金融賞の秋田県信用組合。「消滅可能都市の信用組合が挑む地方創生」(RIEF)

2017-02-24 14:45:46

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  秋田県信用組合は、サステナブルファイナンス大賞に新たに設けられた地域金融賞を受賞した。秋田県は、日本創生会議が2014年にまとめた人口減少の影響報告で、「2040年には、大潟村を除く県内の全自治体が消滅する危機にある」と指摘された。同信用組合は、そうした危機感を踏まえ、「消滅可能性都市の信用組合が挑む地方創生」と題して、積極的に環境金融事業を展開している。理事長の北林貞男氏に聞いた。

 

 (写真は、左から秋田県信用組合・北林貞男理事長、環境金融研究機構・藤井良広代表理事、全国信用協同組合連合会・内藤純一理事長)

 

――「消滅可能性都市による挑戦」ということですが、人口減少に負けていられないということですか。

 

北林:「増田レポート(日本創生会議)」も人口問題研究所の報告もそうですが、地元にいるとなかなか気づかなかった部分です。今、振り返ると正しい指摘だと私も思う。「2040年問題」にならないようにするにはどうすればいいかと、今、秋田県民の多くが気付こうとしています。気が付いたら、あとは行動を起こすことだと思っています。

 

 わたしどもが取り組めるものは、考えてみるといろいろあります。その中で、「環境」についてはこれまでも意識してやってきました。2009年ころから、職員教育の一環として古新聞、古雑誌、段ボールを、職員だけでなく顧客からも回収し、資源として換金、そのお金を貯めて、県内の緑の再生事業(植樹)に回してきました。また、それとは別に、「森林再生支援定期積金」という預金商品を作り、信組が提供する定期積金のうちの利息の一部を森林保全に回す活動もしてきました。植樹は昨年5月中旬ころ、北秋田市に、約1haの市民の森を作りました。

 

――長年の活動の中から、再生可能エネルギー事業への環境金融活動が生まれたのですね。

 

北林:そうです。秋田には、水資源と森林資源という有望な地域資源があります。これらの資源を地域の活性化のために、または産業振興のために使うことに、わたしどものエネルギーを注ごうとして始まったのが、「東北小水力発電株式会社」への支援です。同社は、米宇宙航空局(NASA)で流体解析を研究してきた秋田の3人の若者がメンバーの中心になって立ち上げた会社です。低コストの高効率の優れた技術を持っています。

 

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 彼らの技術は並大抵のものではありません。しかし、技術はあるが、技術の素晴らしさと事業の方向付けとは一致しない。いろんな銀行とも取引をしたのですが、銀行は同社の面倒を見きれなかったのです。わたしどものところにも相談に来られたので、事業を評価したところ、世に売り出す価値があると思いました。融資をしましたが、なかなかうまくいきませんでした。そこで、上部団体の全国信用協同組合連合会の協力を得て、リスクマネーを入れたファンドを作りました。その結果、同社の技術レベルも向上し、今や県外の仕事も受注するほどです。県外から秋田におカネを運ぶ企業に育ちつつあるのです。

 

――最初の融資はうまくいかなかったのですか。

 

北林:融資だと、どこの金融機関でも、毎月の元利金の返済が必要となります。利益が十分に出ないのに運転資金で返すことになり、また運転資金が足りなくなる、という悪循環が起きるのです。企業を育てるには、すぐに資金返済をしなくてもいいファンドのようなリスクマネーが必要なのです。今、ファンドは、小水力専用のターゲットファンドとなっています。次はバイオマス発電のファンドを考えています。

 

――地域金融は、ただお金を貸すだけではなく、いかに事業者の立場を考慮するかということですね。

 

北林:秋田県の製造出荷額は47都道府県中、40番くらいの下位グループですので、域内の製造出荷額を引き上げない限り、秋田県全体の所得は上がらない。そういう意味から産業振興が必要だと考えました。小水力発電は24時間発電が可能。土地改良区とか個人事業主などが、水の落差のあるところ、もしくは水のいっぱいあるところを見つけてきて、自分が発電事業主になってやれるのです。秋田県にはそうした適地がいっぱいあるのです。

 

――手応えはどうですか。

 

北林:最初の小水力発電は、にかほ市の土地改良区で実施、昨年6月に稼働しました。最大出力42.7kW、年間700万円の収入見込み計画でスタートしましたが、先ごろ試算したところ、年間で1000万円は超える見通しです。低コスト高効率の技術力の真価発揮です。今では、現地に多くの人が視察に訪れるほどです。

 

――秋田に限らずほかの地域でも、発電できそうですね。

 

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北林:そうなんです。県外にはもっと水資源が豊富なところがあります。飛騨、北陸方面、富士山の麓などから、ネットを通じて、ずいぶん問い合わせが来ています。県外の発電事業に参画することによって、県内におカネを運んでくる展望が開けてきます。

 

 秋田県以外では関西地方で2カ所、東北地方で1カ所の受注が決定しており、近く発電開始となる発電所もあります。

 

 ――信組としては県外の活動も構わないのですか。

 

 北林:わたしども信用組合は全国に153の組合があります。秋田からの情報発信に対して、大分県の信用組合が全面的に協力してくれて、大分の土地改良区での仕事が8,9割方固まりました。発電規模は980kWで、工事受注金額は約13億円です。秋田と同じように、土地の所有者や、水の権利者(土地改良区)が事業主になる形です。そこに信組のネットワークを活用して、わたしどもが資金を供給します。地球温暖化問題への対応を考える人は、全国各地にいます。考えられる人は考えているのです。

 

――次のバイオマス発電も秋田の資源の活用ですね。

 

北林:ボルタ―・ジャパンという木質バイオマス発電の東京本社企業を昨年4月、秋田に誘致しました。元はフィンランドのボルター社が発明した超小型バイオマス発電機ですが、日本のベンチャー経営者が、日本での独占販売権と輸入組立販売の契約締結により、日本で事業展開を目指しています。

 

 秋田の森林チップを本家のフィンランドに持って行ってテストをしました。その結果、秋田杉でも大丈夫という公的機関の認定を得ています。すでに発電機は稼働し、今、北秋田市の道の駅で設置工事と建築確認申請の手続きが進行中です。早ければ3月末か4月に稼働する予定です。固定価格買い取り制度(FIT)を利用して全量を東北電力に売電し、20年間収入を得て、事業主の小規模事業者が本業の支援に活用するというのが、わたしどもの考えです。

 

――今まで森林経営をやっていない事業者でも事業を興せるわけですね。

 

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北林:私は秋田県に製造メーカー、販売メーカーを育てたいと思っています。このバイオマス発電の機械を買って、里地里山の、あまり運搬費がかからないところで木材をチップ化して、売電事業をする事業者を育てたいのです。大手企業がバイオマス発電事業をやる場合は、大規模化しますが、秋田だけでなく全国の地方には、小規模の本業の経営に苦しんでいる過疎の地域がたくさんあります。そういう地域での地方創生をやるには、「街・人・賑わい」を作らないといけません。先立つものはやはり所得なのです。

 

 FITによる売電価格は、東京で発電を行う場合も、秋田の山奥で発電を行う場合も法律で同一価格になっています。同一価格なので、田舎にいてもやりようによってはビジネスチャンスがあるということです。全体のコストは東京よりずっと安いし。これこそアベノミクスの一番やりたいところではないか、と私が思うくらいです。

 

 小規模事業家や個人事業主が元気でないと、この国はよくなりません。大手企業は史上空前の内部留保が積み上がっていると言われるが、大手はグローバル市場での競争があるので、内部留保もせざるを得ないのでしょう。なので、わたしどもは、地元にいるやる気のある人を、わたしどもがリスクをとってでもファイナンスを供給して支援しようと思っているのです。

 

――大手のメガバンクなどは、地域に密着して、リスクマネーを付け、かつ経営者を誘致してまで、といったことはなかなかできないと思います。

 

北林:大手は、こういうスモールビジネスをやっている場合ではなくて、世界と戦い勝ってほしい。大手の地方銀行も、東京でどうやって勝つのか、仙台でどうやって勝つのか、福岡で、といった戦いがあるので、こういう小さなビジネスにかける時間がもったいないのではないか。

 

――まさに信組の存在価値の発揮ですね。

 

北林:わたしどもがやらなくて、だれがやるか、という気持ちです。小さな事業家が元気になることによって、この国全てが元気になると思う。上場企業だけが元気良くてもね。

 

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――今後はどう展開しますか。

 

北林:とりあえずは、地に足を着けてやりたいと思います。秋田にある25市町村のうち、特に厳しいという地域に特化して、元気にするビジネスモデルをつくろうと思っています。そのモデルができれば、他の25市町村に展開したいです。里地里山は荒れ放題ですので、これを環境整備しながら、資源をお金に換えるという事業を広げたい。秋田県人はもう少し稼ぐということ、稼げば儲かるということを理解して欲しい、わかり易くやっていくことが、当面の仕事と思っております。

 

――秋田には大型の風力発電等もありますよね。ああいうのはどうですか。

 

北林:あります。わたしどもも銀行の協調融資団の仲間に入れてもらっています。ただ、ああいう大きな事業をやるのは東京等の大手企業が多いですね。銀行はそういうところにはファイナンスをつけます。ああいう200億とか300億円の事業ではなくて、こちらは4000万円の事業です。

 

 洋上風力事業には大きなリスクがあるので、大きな資本力のあるところでないと、やってはいけないと思いますし、わたしどもではできないと思います。これは役割分担だと思います。失礼ながら、「殿様のマネ」をしてはいけないと思います。わたしどもは。

 

――大きければいいわけではなく、地域に立脚していないと、発展していかないということですね。

 

北林:各地の市町村と連携しようとしています。昨年、成功事例で話題になっている北海道の先進地の3つの市町村と商工団体に呼びかけ、総勢19名で視察研修を行いました。わたしどもが県境を越えて自治体同士を仲立ちして地域連携をし、お互いの持ち味を生かして刺激し合おうということです。北海道だけでなく、大分の日田林や、吉野杉の産地、東京の奥多摩などとも、これからつながりを持ちたいと思っています。

 

――実績があがっていくと、行政も地域の雇用につながるので力を入れそうですね。

 

北林:地域でエネルギーを持てると、たとえば市営住宅を作る時に、熱を地域の融雪に使ったり、お風呂に使ったり、ハウス栽培にも生かせます。秋田は農業に活路を求めていかなければいけないので、雪対策としてハウスに展開したい。農業と福祉のモデルもできています。農業法人と、介護福祉や社会福祉法人と連携し、バイオマス発電も加えて「農福連携」も進めています。バイオマス発電の熱でハウス栽培をします。障害のある人の、将来の社会復帰の作業もできます。

 

 ボルタージャパン㈱のバイオマス発電機「ボルター40」は秋田県内の他、宮城県、宮崎県、熊本県、岡山県の事業者との売買契約も完了し、ここでも県外のお金を県内に運ぶ役割を果たしています。

                                               (聞き手は藤井良広)