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<金融CSR点検:2>三井住友フィナンシャルグループ。新中期経営計画での財務・非財務統合の視点あいまい。ESG実績伴わず(RIEF)

2017-09-16 16:45:08

SMBCキャプチャ

 

  三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)の統合報告書は2回目だ。基本の枠組みは国際統合報告評議会(IIRC)を踏まえているので、構成は前年度とほぼ同じ。ポイントは今年度から始まった新中期経営計画での財務・非財務の統合戦略の位置づけである。

 

 「SMFG Next Stage」とうたった中期経営計画は、グループの企業価値向上のため、①Discipline(ディシプリンを重視した事業展開)②Focus(強みにフォーカスした成長戦略)③Integration(持続的成長を支えるグループ・グローバルベースの運営高度化)――の3つを基本方針とする。これらはいずれも、統合視点が重要なカギとなる。ESGを踏まえたディシプリンが効いているかどうか、財務的フォーカスの一方で非財務面への影響はどうか、3つ目はまさに財務・非財務の統合が大きなポイントである。

 

  ただ、残念なことに、冒頭のCEOメッセージの説明からは、財務・非財務の統合視点は十分には伝わってこない。事業ポートフォリオの転換、リスクアセットの質の転換などの説明はある。だが、それらの転換において、ESGはどう位置づけられるのか、という説明は全くない。

 

SMFG2キャプチャ

 

 CEOメッセージでは3つの基本方針のうち、最後のIntegrationの説明の最後で、ESGに言及してはいる。Integration なので非財務面を取り上げないわけにはいかないので付け加えた、といった感じでもある。前年の報告では「ステークホルダーへの価値提供」として、グループのCSR活動の重点課題として「環境」「次世代」「コミュニティ」の特定と、グリーンボンドの発行、東日本大震災や熊本地震等への復興支援などの具体策に触れている。メッセージ内での分量も今年より倍以上あった。

 

國部毅CEO
國部毅CEO

 

 現下のパリ協定に基づく温暖化対策、国連の持続可能な開発目標(SDGs)などはビジネスチャンスでもあり、リスクでもあるとのとらえ方は、欧米主要金融機関では定着しつつある。SMBCの報告書でも、ESGについての姿勢や実績は、後段の企業の社会的責任(CSR)の項で説明はされている。だが、財務と統合するCSRの位置づけにはなっていない。結果的に、財務と非財務の統合視点への「転換」がまだできていないことを示している。

 

 ESG・CSRへの経営トップの言及が減った背景には、手応えの問題もあるのかもしれない。前年はメガバンクとして先鞭をつけたグリーンボンドの発行や、他行に比べて多様に展開しているESG関連格付融資制度などのアピールできる実績があった。今年は追加のグリーンボンド発行もなく、格付融資の新たな展開や量的拡大が見えて来ない。要するに実績が十分にあがっていないのかもしれない。

 

 ステークホルダーの評価はどうか。前年はトップメッセージ自体が「ステークホルダーの皆さまへ」と題していた。今回はCEOメッセージでは、最後の締めくくりの表現に一回出てくるだけ。中期計画によるビジネス重視の方向感を強調する反動の形で、ステークホルダー意識に後退感があるとすれば、財務・非財務の統合感の薄さとともに、気がかりな点ではある。

 

SMFG1キャプチャ

 

 想定ステークホルダーは、「株主」「顧客(お客様)」「社会」「従業員」という点には変わりはないようだ。國部毅CEOは、「『Customer First』という軸をぶらすことな く、『現場力』『進取の精神』『スピード』というSMFGのDNAを遺憾なく発揮し、進化させ、 お客さまに選ばれる金融機関を目指す」と結んでいる。

 

 この「変わりなきDNA」を強みとアピールするのは、みずほフィナンシャルグループの報告書にも共通する。みずほも「常に時代の先頭に立ち歴史を切り拓いてきた<みずほ>のDNA」とうたっている。ともに、グループの結束を強化するために共通の「DNA」の継承を強調しているのだろうが、変革・転換の時代を切り拓き、支持を得、勝ち抜くためには、従来のDNAに拘るよりも、組織内外の多様なDNAを糾合・融合する柔軟な経営構造が求められるのではなにか。

 

 その糾合・融合度を測る一つの尺度が、財務・非財務の統合報告書なのである。三井住友フィナンシャルグループには、来年の3回目の報告書での脱皮に期待したい。        (藤井良広)

 

http://www.smfg.co.jp/investor/financial/disclosure/h2907_c_disc01_pdf/h2907c01_00.pdf