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「2017年サステナブルファイナンス大賞」受賞企業インタビュー④ 地域金融特別賞の宿毛商銀信用組合(高知県・宿毛市)。「日本初のCLT工法による銀行店舗の建設」(RIEF)

2018-03-01 17:33:31

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   「2017年サステナブルファイナンス大賞」で地域金融特別賞を受賞したのが、高知県の宿毛商銀信用組合。全役職員24人という小さな金融機関ですが、2017年に日本の金融機関で初めてのCLT木材工法による「木造づくり」の店舗をオープンし、全国的に話題を集めました。まさにサステナブルな店舗を導入した宿毛商銀信組の井上龍也理事長にお話を聞きました。

 

――そもそも、どういうきっかけでCLT(Cross Laminated Timber)工法の木質材料で店舗を建てることになったのですか。

 

 井上理事長:うちの信組は、本店と支店の2店舗があります。支店のほうは借り店舗で、耐震性に問題があって、退出しなければならないということになりました。その対策を考えていた時に、高知県のほうからCLT工法で建設すると県の補助金を利用できるとの話を聞いたのです。県は高知県産の木材流通を促進するため、欧州等で取り入れられているCLT工法による建設の普及を図っています。特に、東京オリンピックに先駆けて、木材の普及と、CLT木材工法を全国に広めたいとの考えで、地元での建設に手厚い補助金を支給していたのです。

 

  そこで別々にあった本店と支店をこの際、同じ建物にまとめるブランチインブランチ方式による合同店舗を建てることにしました。2016年です。新店舗は人材と場所を集約でき、効率化につながるメリットがあると判断しました。

 

CLT工法により木の廂(ひさし)が、優しい影を作る
CLT工法により木の廂(ひさし)が、優しい影を作る

 

――「木質材料」という点に不安等はありませんでしたか。

 

 井上理事長:特段、ありませんでした。これまでの借家の支店は鉄筋コンクリートでしたが、アスベストの問題があったり、古いので鉄板のビスが外れるなどの問題もありました。建築は業者の腕によって質も違うと思います。CLTは県のお墨付きの業者による工法なので、その点でも信頼できました。木質といっても、最新で耐震性も高いのです。特に、CLTは10階建てでも建設できるのですが、われわれの店舗は3階建ての高さで2階建てとしており、その点でも強度に問題はありません。

 

――建設費は他の工法に比べて高くはなかったのですか。

 

 井上理事長:県の補助率はCLTを利用した部分について全体の5割以上出ました。工期も設計の入札が16年の10月で、完工が去年の6月と、非常に早く完成しました。高知県ではわれわれの建設の前にすでに6件の県の補助事業の実績がありました。このため、設計士も建築業者の方も、すでにいろいろ学んでおられ、また同じ強度で不要なところをカットしたら、補助金を合わせると従来の建物とコスト的にはほとんど変わらないレベルでした。単価は当初から、かなり下がったようです。

 

 CLT工法は、木でありながらコンクリート並みの強度があります。また、耐震性、耐火性、遮音性、それから塩害にも強いという利点があります。いろんな意味でわが社にマッチした建設素材でした。設計士の方に注文をつけた点は、耐震性と防犯性の2点でした。それ以外は、お任せしました。

 

窓口のカウンターにも木の温もり
窓口のカウンターにも木の温もり

 

――CLTは防犯性能もアップするのですか?

 

 井上理事長:耐震性は県の補助を受けるうえで当然、重視されるので、事前の調査もしっかりやってもらいました。防犯という点では、CLTの床天井と鉄筋が一帯となった『張弦梁(ちょうげんばり)構造』を採用しているので、店内に柱がありません。このため、外の駐車場からも店内が良く見える感じで、見通しが非常にいい。ですので泥棒も入りにくいと思います。もちろん警備もしっかりやっています。

 

――顧客の反応はどうですか

 

 井上理事長:店内のロビーから、二階の窓が見え、その先に山と空が見えるという風に、非常に見通しがいい。お客さまは景観を楽しむとともに、冬場はロビーで日向ぼっこをしながら、待ち時間を過ごすことができます。また、お客さまは異口同音に、「木の香りが強い」といわれます。材質は、杉やヒノキを使っているので、木の温もりと、木の優しさを感じる、と言われる方も多いですね。

 

 高知県木の文化賞、高知県建築文化賞、ウッドデザイン賞など、いろいろな表彰を受けましたので、今や、地域の象徴の形になっています。金融機関には珍しい木の店舗ということで、新潟や金沢など各地から見学の方が訪れます。設計関係者や、学校、大学などのほか、他の金融機関も来られます。昨年12月に視察に来られたある信用金庫さんは、設計士も御一緒に来られました。

 

――金融業務への効果はありましたか。

 

全国信用組合連合会の内藤純一理事長(左)、環境金融研究機構の藤井良広代表理事(右)
全国信用組合連合会の内藤純一理事長(左)、環境金融研究機構の藤井良広代表理事(右)

 

 井上理事長:当然のことですが、顧客が増えたことが大きいです。PR効果ですね。いろんな賞ももらい、新聞、テレビの取材も多くなっています。窓口の女性職員一人では、対応しきれなくて、急遽一人増やし、外回りをしていた女性職員を説明担当に追加したほどです。

 

 CLT工法というわけではないですが、地元企業応援ということで、地元の建設業者とわれわれが連携してリフォームローンを提供しています。地元の住民が地元業者を使って、地元の素材でリフォームする場合は、当組合で安く資金を提供します。

 

 地域の従来の大工さんは仕事がどんどん減っています。宿毛にも大手のハウスメーカー等がどんどん進出してくるので、大工さんによる新築工事が少なくなっているのです。地元でも新築建設を応援するのはもちろんですが、地元の大工さんの仕事を少しでも増やすためリフォーム工事に力添えするため、地元の大工さん、工務店など40社ほどと提携して資金供給をしています。

 

――預金、貸金は増えましたか

 

 井上理事長:うちは過去16年間、預金、貸金とも、微増ですが残高は伸び続けています。今年もCLTのPR効果もあるので預金も順調に集まり、知名度があがったので融資も増えると思っています。今、宿毛市の隣の市の四万十市での事業展開に力を入れています。四万十市のほうが人口が多いので、そちらにも将来、進出しようと考えています。

 

――地域の金融機関として地元の企業家をどう育てるかが問われると思います。宿毛ではどうでしょうか。

 

 井上理事長:今、後方支援活動のような形で、東京の第一信用勧業組合と提携しています。全役職員で24人しかいないので、絶対的に人員が足りない。そこで、第一勧信さんと連携して、高知地元の産品を「地産外消」の形を東京で販路を拡大するお手伝いをしてもらっています。両信組と、宿毛市も絡めた3社協定結び、宿毛の地元企業の販売力をあげることを目指しています。信用組合業界は顧客の利便性を図るネットワークができています。これからもそうしたネットワークを利用して、地元企業を応援していきたい。

 

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――職員の人の反応は

 

 井上理事長:店舗も新しくなり、顧客が増えているので、モチベーションが非常にあがっています。職場環境も向上したので、いい相乗効果が起きていると思います。

 

――宿毛市の金融環境はどうですか。

 

 井上理事長:競合する金融機関はたくさんあります。地銀では、四国銀行、高知銀行のほか、10分ほど車で行くと、愛媛県との県境なので、愛媛銀行、さらに伊予銀行もすぐ近くにあります。四万十市には幡多信用金庫もあり、漁協、農協もそろっているので、人口の少ない中での金融激戦区です。

 

―――環境金融的な活動はありますか

 

 井上理事長:再生可能エネルギービジネスはいろいろあります。木材資源を利用したバイオマス発電もあります。ただ、バイオマスは規模が大きいので主に地銀が資金面をやっています。山間部での小水力発電もありますが、市町村の認可や河川利用の認可取得等の問題があるようです。

 

 当組合では、太陽光発電事業は日照時間が長いので、かなり普及しています。また2017年から力を入れているのが、小型風力発電事業です。それに関連した融資も増えています。宿毛市周辺ではいい風が吹くのです。宿毛市の隣に幡多郡大月町辺りが中心です。これまでに太陽光発電、小型風力発電事業に合計26件、融資金額にして650百万円ぐらいの資金が出ています。

 

                                                                                                      (聞き手は 藤井良広)