HOME1. 銀行・証券 |「2017年サステナブルファイナンス大賞」受賞企業インタビュー⑦地域金融賞の「いわき信用組合」。「新たな『食の安心・安全』のブランディングを地域ベンチャーと協働」(RIEF) |

「2017年サステナブルファイナンス大賞」受賞企業インタビュー⑦地域金融賞の「いわき信用組合」。「新たな『食の安心・安全』のブランディングを地域ベンチャーと協働」(RIEF)

2018-03-27 21:29:37

iwaki4キャプチャ

 

 いわき信用組合(福島県いわき市)は2017年サステナブルファイナンス大賞で、地域金融賞を受賞しました。受賞理由は東日本大震災後の地域復興のため100%民間資金の「地域商社」を立ち上げて地域の起業を後押ししている活動への評価です。企業に融資だけでなく、リスクマネーを出資し、起業家を二人三脚で支援し、復興から、成長、展開へと道を切り拓いています。いわき信組理事長の江尻次郎氏に聞きました。

 

――まず、「地域商社」というのはどういうことですか。

 

 江尻理事長:東日本大震災で、被災地全体の食のブランドが極めて厳しく打撃を受け、特に福島県では原発事故の影響もあって壊滅的になってしまいました。福島県の中でも、いわき市は、事故があった東電の福島第一原発に隣接している地域なのです。それまでは、豊かな漁業資源を得て、水産加工業が発達し、これが地域での一番のブランドでした。

 

 それが放射線の問題で漁ができなくなり、水産加工業を中心とする食のほか、農産物も厳しい状況がずっと続いています。しかも観光客は事故以前に比べて、極めて少なくなっています。人が入ってこないのです。そういう中で復興するには、「いわきの物産は安心・安全」だということをはっきり発信して、日本全国の方に食べていただける新しい信頼のブランドを作る必要があるのです。しかし、それがなかなかうまく進まない中で、東京からIターンでいわきに来られた方が、いわきの物産を全国に紹介する地域商社をやりたいと動き出したのです。

 

 そこで私ども信組のファンドが資金を出し、それに私どもが主催する経営者交流会のビジネスマッチングの中で、地元の担い手も出て来ました。こうした面々の目的が一致して、昨年の夏ごろ(299月の確認)、地域商社「いわきユナイト」に投資を行ったのです。出資額はすべて地元の民間資本で、公的なお金は一切入っていません。

 

 iwaki6キャプチャ

 

――市や県からの出資はないのですか。

 

 江尻理事長:ありません。助成金などももらっていません。公的な資金は、短い期間で成果を求められます。しかし、生産・加工・販売を一貫させた商社的展開は、12年ではなかなかうまくいかない。私どもとしては35年の間になんとか自力でできるような方向にもっていってもらいたいと考えて支援しています。

 

――地域商社はどんな活動をしているのですか。

 

 江尻理事長:地元のきのことか、トマトなどを使って、地域の特産を使った和風ピクルスを作っています。(それをいわきのブランドにしようとしています。ピクルスで使うキノコはナメコとしいたけ。トマトは「フラガール」という地元産を使用しています。これが結構評判良くて、おいしい。これと地元の製造業者が販売していた商品をリブランドしたプリンの2つを、スーパーや道の駅、サービスリアなどに、地域商社を通じて卸しています。

 

 商社活動によって販売ネットワークが広がることで、ピクルス用の野菜やキノコ作り、プリンの乳牛生育などが、いわき市内で広がり、好循環していくのです。ピクルス用のナメコを生産する地元の農業法人は、私どもの取引先でもあります。地元の物産を使うことが目的でもありますので、地元の有名イタリア料理店とも提携して、そこにも野菜等を出していく計画です。

 

 iwaki3キャプチャ

 

――地域商社へのファイナンスは、どうなっていますか。

 

 江尻理事長:私どもがファンドから資金をいれ、それに加えて、短期で200万~300万円を運転資金として貸しています。いわきユナイトは、全国のスーパー等での物産展に商品を出しています。まだ大きな商取引にまでは至っていませんが、今の営業体制には限界があるので、これから営業体制の強化に向けた検討として、人材の確保が課題にのぼっています。新たな資本制資金の出し手を探すことも、私どもの役割だと思っています。

 

――地域商社以外の起業支援の状況はどうですか。

 

 江尻理事長:もう一つファンドから出資している農業法人があります。エコエネルギーシステムズというところです。太陽熱を利用したハウスで土耕栽培の野菜を作っているのですが、土中50cmくらいのところにチューブを張り巡らします。冬場は、太陽熱からとった温水をそのチューブに流すことで、温度を調整しています。反対に夏場は、チューブに水を入れて土中の温度を下げてやります。これらの管理はすべてクラウド上のシステムで行っており、適温、適湿の状態を年中、作り出すことができます。システムとしてほぼ完成しています。

  

 これからこの会社で開発したシステムを使って葉物野菜の生産を別法人で行う予定です。その後、何が起きるかというと、復興事業に取り組んできた地元の土木建設業者は一時までは大変、忙しかったようですが、今は一段落しています。むしろ、土木建設業の仕事は次第に少なくなってきているようです。地元の土建御者は経営基盤も中小のところが多い。だんだん経営環境が悪化しています。私どもの取引先にも中小の建設業者が多い。そこで、そうした企業に対して、このシステムを活用して「第二創業」として農業を事業にできないかと思って、声をかけています。

  

 建設業は重機を持っているので、土をならすのはお手の物です。ところが野菜や果物づくりの生産となると、素人経営ではなかなかうまくいかない。それが太陽熱とクラウドを使った自動制御の仕組みだと、最適解の生産体制ができるのです。私どもはこの起業家にもファンドから1800万円を出資し、同時に200万円の融資を実行しました。

  

――リスクマネーを供給するには、資金規模が必要です。

 

 江尻理事長:実は今度、9つの信用組合が集まって、日本政策金融公庫とともに農業ファンドを作りました。この中心になったのは東京の第一勧業信組です。新田理事長のアイデアから広く信組に声掛けがあって、私どもも手をあげて、農業ファンドを立ち上げました。このファンドからも、上述の会社が別に設立した農業法人に投資への投資についても39日に決定をし、4月中に投資実行する予定です。

 

 iwaki7キャプチャ

 

――そうしたシステムがあれば、どこでも野菜を作れそうですね。日本だけでなく海外にもシステム輸出ができるのでは。

 

 江尻理事長:そういうことも検討課題だと思います。福島にも金融機関はいろいろありますが、私どものように、自前の地域振興ファンドを持っている金融機関は、地銀2行と信金にひとつしかありません。いわき市に本店がある金融機関のかなでは当組合だけ、なのです。

 

――東邦銀行など地元の地銀はどうですか。

 

  江尻理事長:東邦銀行などの地銀は再生ファンドはやりました。私どもも一緒に、再生に取り組みました。ところが事業再生ファンドはなかなかうまくいかないのです。東邦銀行など地元の地銀トップが取り組む案件は金額的にも大きいところが中心なので、われわれのような協同組織金融機関の規模からすると大きすぎるのです。そうなると、私どもは金を出すだけで、投資先の起業家に対しても実質的な影響力を持てないのです。しかも、この種の事業再生ファンドは実は、どこもあまりうまくいっていないのです。山形ではファンド自体を解散しました。

 

  銀行の場合、投資ファンドを作っても、IPOまで考えてやらないとうまみがないようです。銀行と私どもの協同組織金融機関との違いは、われわれもIPOを考えている案件が現在2件ありますが、ほとんどはそうした対象ではありません。地元の中で創業して、われわれが提供するファンド資金のリスクマネーは、融資と違って対象期間の途中で弁済を気にしなくてもいいという利点があります。銀行がそうした資金を出さないのに、私どもが出せるというのは、地域の中で、地域の将来を担うような、いろんな会社を育てていこうという地域密着の信組でなければ動けない環境があると思います。

 

 iwaki8キャプチャ

 

 もちろん、地銀などの地元の銀行も、大きく言えば、福島県のことを考えているでしょうが、私どものように、地域の浮沈を考えて取り組むかとなると、銀行と私どもでは温度差が違うと思います。

  

――逆に言うと、地域が沈むといわき信組も沈んでしまう・・。

 

 江尻理事長:そうです。銀行は、いわきがだめでも、郡山とか、福島市とか、あるいは東京、仙台の都市でも営業ができます。しかし、私どもはそうした展開はできないので、当然、スタンスは違ってきます。当然といえば当然ですし、銀行は株式会社だから最終的には収益をださないわけにはいきません。私ども協同組織金融機関は、どこまでも地域とともに活動し、地域のリスクをとり、地域とともに歩むことが使命なのです。

 

――信組が育てた企業が生長したら、銀行にとられるようなことになりませんか。

 

 江尻理事長:当然、将来は、「卒業」ということもあり得ます。ただ、本当に卒業(戻ってこない)するというのはめったにありません。私どもが支援・育成したところは、IPOでもしない限り、卒業にはならないのです。なので、いずれもその後も取引をしています。ただそれらの企業の活動が順調に拡大し、何十億円という設備投資などが出てくると、銀行の力が必要になります。その場合でも、創業期に世話になったことに対しては、当該経営者はその恩は感じてくれているので、お付き合いはずっと続くケースがほとんどです。成長して、銀行とも付き合うようになるのは、ある意味で我々にとってもうれしいことです。

 

――ピクルスやプリンのブランド名は。

 

 江尻理事長:プリンは「月色プリン」、和風ピクルスは「おここさん」という名前です。

 

「月色プリン」
「月色プリン」
「おここさん」
「おここさん」

 

――ブランドに、いわきの、福島の復興の思いが重なるようですね。

 

 江尻理事長:やはり風評被害が一番ひどいのは、いわきです。福島市や会津を比べるとわれわれのほうが厳しい。あちらには原発地域からかなりの人が避難しています。避難期間が長くなったので、そちらに家を建てたりしています。いわきにも避難している相当数の人が、結果的には家を建てています。原発被害地に一部帰還している高齢者もいます。ただ、そうした方たちが亡くなると、帰還する人が途絶えるので、地方自治体自体がなくなっていくリスクがあります。

 

――クラウドファンディングへの取り組みはどうですか。

 

 江尻理事長:今、13案件やっています。信用協同組合連合会(全信組連)で取り組んでいるものと、別途、私どもは購入型のクラウドファンドのFAAVO(ファーボ)を運営しています。こちらのほうでは、福島の浜通り全域を私どもが担当しています。なので、相双五城信用組合の営業地域である相馬市の「田んぼアート」の案件は両信組が一緒になって支援をしました。

 

 今年に入ってからも、重度障碍者を持つお母さんたちのNPOが運営する介護施設が、子供の送迎のための車を買うために、クラウドファンディングで100万円の資金調達を目標に呼びかけたところ、結果的に116万円と超過達成するなどの事例があります。

 

――地域のお金を動かすということに加えて、地域の心も動かすと。

 

 江尻理事長:その施設を設備する資金については、私どもが融資を提供しています。クラウドファンディングだけでは足りませんので。私どもの融資もビジネスというよりも、社会貢献の意味があります。 

 

 今、クラウドファンディングは、いわき市ではいわき信組に頼もう、という感じになっています。RIEFからのサステナブルファイナンス大賞の地域金融賞の受賞も、地域では評判になりました。全国的に認められたと。私自身も、お客さんからメールで祝福を受けました。ありがとうございました。 

 

――福島でも環境関連の事業が広がっているようですね。

 

江尻理事長:震災後、2012年に環境関連専用融資商品(商品名「エール(YELL)」の取り扱いを始めました。主に太陽光発電設備に融資をしています。今年の2月時点で、累積の融資実績は、126件41億3500万円に達しました。この中には、風力発電設備資金も1件、5000万円と、環境関連の農業設備資金が3件、1億5300万円も含まれています。この分野は地元密着型なので、これからも成長すると期待しています。

 

                                         (聞き手は 藤井良広)