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トルコでの日本の官民共同の原発輸出計画から、伊藤忠が離脱。安全対策費用増大で採算性に疑念。東電福島事故の教訓を無視した事業計画が露呈。三菱重工の対応が迫られる(各紙)

2018-04-25 12:13:51

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 各紙の報道によると、三菱重工業など日本の官民がトルコで進めていた原子力発電所の建設計画から伊藤忠商事が離脱することになった。事業化調査(FS)の過程で安全対策費用が日本の東電福島事故の影響で大幅に膨らみ、総事業費が当初の2倍強の5兆円超となる見込みとなり、採算がとれない可能性が高まったため。三菱重工は引き続き計画を進める方向だが、その進退が問われる。同事業は安倍首相と、トルコのエルドアン首相(現大統領)がトップ合意した案件だった。

 

写真は、2013年5月、安倍晋三首相(左)とトルコのエルドアン首相(現大統領)が原発プロジェクト推進で合意した)

 

 トルコへの原発輸出計画は、日本、トルコ政府が2013年5月に安倍首相とトルコのエルドアン首相(現大統領)が首脳会談で合意した案件だ。トルコ北部の黒海沿岸シノップに、三菱重工と仏フラマトム(旧社名アレバ)の共同出資会社「アトメア」が開発した新型軽水炉「アトメア1」(出力110万kW)4基を建設し、2023年に稼働する計画だ。

 

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 三菱重工が主体となって、2018年3月末までFS調査を実施することになっていた。しかし、FSの過程で、総事業費が計画合意の当初の4基合計で2.1兆円程度から、2倍以上に増大することがわかった。東電福島原発事故を考慮した安全対策を盛り込むことが大きな費用増の要因となっている。三菱重工はFS調査期間を今夏まで延長している。

 

 総事業費は当初、参加する企業連合が3割を出資、さらに国際協力銀行(JBIC)などの融資で残りの7割をカバーする。企業連合出資分のうち51%は三菱重工、伊藤忠、仏電力大手GDFスエズ(現エンジー)で分担する予定だった。

 

 元々、シノップは東芝が東京電力と組んで受注を目指していた案件だった。それが、福島原発事故の影響で東電が計画から離脱したことで、東芝・東電組が撤退、代わりに三菱重工がフラマトムと連携して受託した。プロジェクトが実現すれば、アトメア1にとって初の受注になる。

 

 しかし、東電事故の影響で、海外でも原発の安全対策費用全体が増大するという構造的課題は、建設主体を変更しても変わらない。このまま事業化する場合、参画企業が膨らんだ建設費を負担し、稼働後の売電による利益で回収することになる。だが、それだと売電価格が上昇するほか、建設費の上昇で当初想定した利益が得られない可能性が高まっている。

 

 日本政府は事業費の増加を受けてトルコ政府に資金面での負担を求めている。しかし、交渉は平行線をたどっているという。

 

 事業からの脱退を決めた伊藤忠関係者は「もともと3月末まで調査に協力することになっていた。その役割を終え、(事業化に対して)商社として果たせる役割が小さいと判断した」と説明しているという。伊藤忠が事業から離脱すれば、事業費を負担する企業が減ることになり、事業の実現性はより厳しくなる。

 

 これまで、アトメア1の原発建設は、トルコ以外のベトナムやヨルダンでも構想された。だが、いずれも頓挫している。トルコでの事業化が見送られると、初の第一号どころか、アトメア1自体の開発構想も見直される可能性も指摘されている。

 

 日本政府の主導による原発輸出計画は、日立製作所も英国中部で建設計画を進めている。同計画でもJBICが主導して3メガバンクなどが融資団を組成、大型の軽水炉2基(計270万kW)を建設する計画。しかし、英国でもコストアップが課題となっており、3メガバンクも引くに引けない状況になっている。

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