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日本弁護士連合会、ESGリスクの金融的対応で「ガイダンス」公表。投資先企業の不祥事、人権課題での投資引き揚げに言及。気候変動は含めず。銀行向けに「コビナンツ」のモデル条項(RIEF)

2018-08-27 07:30:35

bebgoshikai1キャプチャ

 

 日本弁護士連合会は、ESG課題のリスク面に対応するため、企業、機関投資家、金融機関、さらに法的助言を行う弁護 士を対象とした「ESG関連リスク対応におけるガ イダンス(手引)」を公表した。機関投資家にはESG投資のエンゲージメントを企業不祥事の「有事」と「平時」に分けて示し、最終的な保有株売却から損害賠償請求までの手順を定めた。金融機関には融資先のESG対応の促進と、高リスク融資先への融資の禁止・制限の両面を求める手順を示したうえで、ESGリスク対応を融資契約に盛り込む「コビナンツ・モデル条項」を提示した。

 

 日弁連は、今回のESGガイダンスのとりまとめについて、「企業活動を通じて、ESG課題のリスク面として人権侵害・環境破壊などの負の 影響が生じている」と判断し、ESG課題のリスク面に焦点を当てて、それらのリスクへ対応する協働・対話のためのガイダンスをまとめた、としている。

 

 ガイダンスは、①企業向けのガイダンス(第1章)、②機関投資家向けのガイダンス (第2章)、③金融機関向けのガイダンス(第3章)で構成。ESG 関連リスクへの対応には、企業、投資家、金融機関の協働やエンゲージメント(対 話)が不可欠であり、各ガイダンスは相互に密接に関連すると位置付けている。

 

相次ぐ企業不祥事。金融機関は不祥事発覚後にどう対応するか
相次ぐ企業不祥事。金融機関は不祥事発覚後にどう対応するか

 

 第1章の「 企業の非財務情報開示 」では、開示する非財務情報について、他の企業との比較可能性のある情報の提供が重要と指摘。内外の主要なガイドラインの参照を推奨した。

 

 開示項目は、①企業のビジネスモデル ② 非財務分野に関する方針及び採用するリスク評価の手続・基準 ③ 方針及びリスク評価の実施結果 ④ 重要なリスクに対する対処状況 ⑤ 採用している重要成果評価指標(KPI)、の5項目とし、企業が自らの重要課題に基づき記載する、としている。開示分野は①人権擁護 ②労働問題③環境問題④腐敗防止⑤サプライチェーン⑥コーポレート・ガバナンス強化、とした。

 

 このうち環境問題では①温室効果ガス排出量の削減等、気候変動対策 ② 省エネルギー、エネルギー効率向上、クリーンエネルギー、再生可能エネル ギーの開発、活用③ 循環型社会形成に向けた環境配慮設計、3Rの促進、廃棄物の適切な処理④事業による環境汚染防止⑤自然環境(水資源、森林資源等)の持続可能な利用、自然環境及び生物多様 性の保全、の各取り組みを記載対象にあげている。

 

再エネ事業への投融資は増加する
再エネ事業への投融資は増加する


   第2章の「機関投資家のESG投資におけるエンゲージメント(対話)」では、投資先企業が不祥事を引き起こした場合(有事)のエンゲージメント活動として、① 原因解明・再発防止の要求②不祥事対応に関する情報開示の働きかけ③議決権の行使④集団的エンゲージメントの有効性の実施ーーの手順を求めている。

 

 そうしたエンゲージメント活動に関わらず、投資先企業に改善がみられない場合は、株式の売却を検討すべきとした。また投資先企業に、有価証券報告書虚偽記載が認められる場合には損害賠償請求訴訟を、投資先企業の取締役に、ESG関連リスクの善管注意義務違反が認められる場合には、株主代表訴訟の検討を奨励している。

 

 将来のESGリスクの顕在化による保有株式の売却(Divestment)については、 ① 企業不祥事が発生する危険性が著しく高い場合 ② 新たに又は追加の投資を行うことで人権侵害を助長する危険性が著しく高い場合 、の2点を指摘した。ただ、Eの領域の気候変動リスク対策については言及していない。

 

金融機関が抱える石炭関連投融資をどう評価するのか
金融機関が抱える石炭関連投融資をどう評価するのか

 

 第3章の「金融融機関のESG融資における審査」では、金融機関にESG融資の方針・基準の策定、追加、公表を求めている。具体的な公表内容は、ESG課題のポジティブな影響を促進する基準と、ネガティブな影響を防止する基準の双方をあげている。

 

 リスクの高いと思われる融資先には表明確約をさせるほか、コビナンツ(契約条項)での手当、リスベースアプローチでのリスク評価などを求めている。コビナンツでは、ESG条項を加味したモデル条項を公表した。融資先が表明確約やコビナンツに反した場合 、融資取引の期限の利益を喪失させる条項を、銀行取引約定書や金銭消費貸 借契約書に盛り込むべき、としている。

 

 また金融機関にとってのESG融資の目的を、金融機関と融資先企業との共同によるESG課題に対応する取り組み、と位置付けたうえで、金融機関には、融資先企業との間でESG課題への取り組みに関する双方向のコミュニケーションとエンゲージメントを重視することを求めている。金融機関にはESG人材の少ない中小企業への支援も推奨している。

https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2018/180823.html