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日本人は怒った方がいい(むささびジャーナル)

2011-04-10 23:09:43

日本でも有数の「英語読み」である春海二郎さんが、勝手気ままに書いている「むささびジャーナル」から転載します。英Economistの記事の紹介と巧みな分析です。 3月24日付のThe Economistに掲載されてJapan’s disaster(日本の災害)という記事は、次のようなイントロで始まっています。
The many-headed catastrophe points to deeper-seated problems in governing Japan (地震・津波・原発事故という)多重大災害が明らかにしたのは、日本の統治におけるより深刻な問題であった。
この記事によると、1995年の神戸大震災の際の当時の日本政府(自民党)の対応に比較すれば、菅首相は福島原発の危機的状況にもかかわらず冷静さを保っているし、現在の日本政府は神戸の震災のころの政府に比べれば透明度は高いとしながらも、あのころの政府と比較するのは、比較の尺度が余りにも低すぎる(that is setting the bar very low indeed)としています。「神戸」のときには韓国の援助活動の方が早かったし、最初に被災者に暖かい味噌汁を配布したのはヤクザだったというわけです。それくらいお粗末であったということです。 そして神戸の大震災によって新しい市民の力(civic-minded energies)が台頭したし、菅首相はもともと市民運動家であった。その意味で「神戸」は自民党の長期政権をも揺さぶることになった。しかしながら
Yet, this month’s disasters underscore how much more the system still needs to change–along with the politicians guiding it. とはいえ、今回の大災害は、日本の統治制度や統治者としての政治家には、まだ変革が必要であることを示している。
として、福島原発事故によって明らかになったのは、原子力産業と政府の癒着構造(cosy ties between the nuclear industry and government)であり、それによって原発の安全性についての議論が封じ込められ、東電によるへまが隠ぺいされ、リスク評価もあまりにも楽観的なものになっていたと言います。東電における危機管理上のリーダーシップの欠如は驚くべきものであり、菅首相は「いったいどうなっているのか」(What the hell’s going on?)と詰め寄る場面もあった、とThe Economistは伝えています。 さらに地震・津波の被災者救済よりも原発事故への対応が優先したとして、その例として石油会社による備蓄石油の放出要請が政府によってなされたのは震災発生から10日も経ってからのことだったことを挙げています。菅首相は最初から非常事態宣言を出すべきだった。 The Economistは、未だにこの危機を乗り切るための明確な指揮系統が確立されていない(Even now, clear lines of authority for handling the many-headed crisis have not been properly established)として、これまでの日本では、首相が入れ替わり立ち替わり現れては消えていき、あまりにも長きにわたって効果的なリーダーシップなしに過ごされてきたとして、今回の危機がその失態を容赦なく浮き彫りにしたと批判しています。そして次のように結論しています。
Mr Kan, who has promised political change, now needs to bring it about. Japan’s people can help, adopting a different attitude to their government. Stoicism — however good for coping with adversity –is bad for bringing on change. Time for the Japanese to unleash some righteous anger on a system that has let them down. 菅首相は政治改革を約束していた。いまこそそれを実現する必要がある。そして日本人は、政府に対するこれまでの態度を改めることで政治改革を助けることができる。ストイシズムは、災難に対処するためには結構であるとしても、変革をもたらすには役に立たないのだ。いまこそ日本人は、自分たちを打ちのめしたシステムに対して正当な怒りを向けるべきなのだ。
 
▼righteous anger(正当な怒り)であるかどうか分かりませんが、私は災害・原発事故の報道に接しながら、第二次大戦中の「大本営発表」のことを想っていました。敗戦が濃厚になっても「日本軍は連戦連勝である」という趣旨の報道がなされていたという、あれです。敗戦当時、私は4才だったから「大本営発表」のことは直接には知らないけれど、私の両親の世代の人々が接したもので、私が知っているのは戦争が終わってから多くの人々が「軍部にだまされた」と怒っていたことだけです。福島原発事故に関連してテレビに出る学者さんたちはほぼ例外なく「ダイジョウブです」を繰り返すのですが、きっと「大本営発表」というのはこのようなものであったのだろう、と私は推察するわけです。▼日本人のストイシズム(規律と礼儀の正しさ、勤勉、優しさ等々)は悪いことではないけれど、原発作業員を劣悪な労働環境や放射能測定器の不足にもかかわらず働かせたりする東電とそれを放置しておく保安院のアタマはどうなっているのか?これこそThe Economistのいう東電と政府(保安院)の癒着ということなのでしょうが、作業員の「ストイシズム」を食い物にしているだけに本当に許し難い。 ▼The Economistは、これまでの日本が「長きにわたってリーダーシップなしに過ごしてきた」(Japan has gone without effective leadership for so long)と言っています。「ダメな首相」が出ては消え、出ては消えの数十年であったというわけで、菅首相についてもリーダーシップが問われたりしている。が、「むささび」が繰り返し思うのは、民主的な選挙を通じて選ばれた政府を信用するべきだということです。民主的に選ばれた政治家をダメ呼ばわりすることだけでメシを食ってきた政治メディアの言うことは信用しない方がいいということであります。