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CSRへの信頼性と第三者意見の役割――東京電力の場合(FGW)

2011-06-08 17:24:04

東京電力は環境報告書発行企業として、15年以上の歴史を持つCSR(企業の社会的責任)のパイオニア企業としても知られてきた。現在発行されている最新の「サステナビリティレポート2010」はウェブ版だけだが、PDFで80 ページの分量で「持続可能な社会の実現に向けて行動していく」という点を強調している。

 事故を起こした福島第一原発周辺地域、あるいは今後の推移によっては首都圏も、持続可能性が損なわれるリスクが高いことを思うと、何とも皮肉な報告と言わざるを得ない。今回の事故でCSR関係者の間で議論が起きているのが、「はたして東電のCSRは機能したのかどうか」という点である。

 最新版の報告書を開くと、まず報告原則としてAA1000に準拠していることを強調している。AA1000はCSRをグローバルに推進してきた英国のNPOのAccountAbility社が公表している自主的な国際規格だ。同原則は包括性の根本原則、重要性の原則、対応性の原則の3つを柱とし、AA1000保証基準によって外部審査機関が担保する仕組みをとっている。

 ただ、東電の報告書では監査法人などによる第三者審査の記述がない。代わりに「東京電力環境顧問会」という複数の識者の意見が第三者意見として掲載されている。つまり、報告書への信頼はこの顧問会が担っていることになる。

 顧問会のメンバーは以下の顔ぶれだ。井川陽次郎(読売新聞東京本社論説委員)、長見萬理野(日本消費者協会参与)、織朱實(関東大学大学院法学部教授)、木場弘子(キャスター、千葉大特命教授)、後藤敏彦(環境監査研究会代表幹事)、西岡秀三(国立環境研究所特別客員研究員)、山地憲治(東大大学院工学系研究科電気工学専攻教授)の7人。

 通常、報告書の第三者意見は一人の場合や、座談会形式では数人という場合が多いが、さすがに東電、7人も識者をそろえている。

 同報告書を分析した英国のコンサルタントSusie Keaneは「本来、CSR報告書はステークホルダーに関係する領域を指摘し、会社が集中すべきことを明確にすべきものだが、この顧問会はそのミッションを欠落しているか、(会の意見が)東電によって編集されたかのどちらかだ」「示された顧問会の意見も、マイルドでチャレンジングではない。会社が用意した割り振りを果たしているだけのようだ」とばっさり切っている。

http://www.ethicalcorp.com/content.asp?ContentID=7421&utm_source=http%3a%2f%2fcommunicator.ethicalcorp.com%2flz%2f&utm_medium=email&utm_campaign=EC+News+25+05+11+1&utm_term=Wednesday+Update&utm_content=153636

 実は、前年2009年の報告書で紹介されている顧問会の意見の中には、今回の事故を想定したかのような指摘がある。新潟の中越沖地震で機能マヒした東電の柏崎原発対策に言及し、次のようなコメントが載っている。

もっと一般市民が知りたいことは、新潟県中越沖地震からどういう教訓を学んで、それに対して東京電力としては今後原子力発電所に対してこういうような考えでこう運転していく、次に地震が起こった時にはこうなるというところがもうちょっと見えやすい形で整理されるとよろしいのではないかと思います

 この問いかけに対する東電側の回答も報告書に掲載されているが、それが効力を発揮しなかったことは自明なので、ここでは紹介しない。気になるのは、2009年の顧問会メンバーと2010年のメンバーがガラッと入れ替わっている点である。両年続けて顧問をしているのは、井川氏と後藤氏だけ。まさか、耳の痛い発言をされた顧問を排し、耳触りのいいメンバーに切り替えたというわけでもあるまいが、この時の忠告を、真摯に受け止めて対応をとっておれば、事故自体は防げなかったとしても、これほどの拡大と混乱を引き起こさなくてもすんだのではないかと、思う。

 CSR報告書の第三者意見は、しょせん法的根拠のない第三者意見ではあるが、されど、内部では気付かないことを指摘し、耳の痛いことをあえて忠告する役割を持っている。形ばかりのCSR報告書を作成し、CSR専門家と称する“業者”の当たり障りのないコメントを並べるだけでは、社会的責任を果たせないどころか、東電のように、国を、国民を危うくしてしまう。CSRの意味を、心して噛みしめてもらいたい。(FGW)

東電サステナビリティレポート2010:http://www.tepco.co.jp/csr/tools/download-j.html

同2009:http://www.tepco.co.jp/csr/report/2010/pdf/2009J.pdf