HOME10.電力・エネルギー |福島の天然水 苦境 理由言わず注文途絶え…売り上げ激減(河北新報) |

福島の天然水 苦境 理由言わず注文途絶え…売り上げ激減(河北新報)

2011-06-26 11:22:53

あぶくま洞の売店で売られている「あぶくまの天然水」。原発事故後、売り上げの低迷が続いている=田村市滝根町
あぶくま洞の売店で売られている「あぶくまの天然水」。原発事故後、売り上げの低迷が続いている=田村市滝根町


豊かな森林や雪深い山地の特性を生かし、幾つものブランドを生んできた福島県のミネラルウオーター業界が、販売不振に苦しんでいる。福島第1原発事故によるイメージ低下が理由。水は全国に競合商品があり、産地の印象に左右されやすい。商品自体には何の問題もなく、関係者は地道に安全性を訴えて回復を図っている。


 鍾乳洞や石灰岩由来のカルスト台地で知られる福島県田村市滝根町。ミネラルウオーター「あぶくまの天然水」は、合併前の旧滝根町が1985年に発売し、年間28万本を出荷する人気商品だったが、原発事故後は売り上げが約3割も減少した。
 製造元の田村市滝根観光振興公社の佐藤京一あぶくま洞管理事務所管理課長は「理由を言わずに注文が途絶えてしまうケースが多く、対処しようがない。同じ東北の卸業者からも返品依頼があり、悲しい気持ちになった」とため息交じりに語る。
 地震で大きな被害はなかった。ガソリン不足で従業員が出勤できず、震災後、半月ほど休業したものの、再開直後は水不足で東北や関東から注文が殺到。しかし5月中旬に入ると一転して、返品の申し入れが目立ち、その後の注文が途絶えるようになった。
 採水地は原発から約35キロ離れ、深さ30メートルから採る水に放射性物質は含まれていないことは、4月の検査で確認済み。公社が運営する鍾乳洞「あぶくま洞」も観光客が例年の10分の1に激減し、土産用の需要も厳しい。佐藤課長は「このままでは経営が成り立たない。水も鍾乳洞も安全を確認済みで、従来通りに利用してほしい」と訴える。
 製造業の「ハーベス」(さいたま市)が昨春発売した天然炭酸水「aQaizu(アクアイズ)」の採水地は、原発から150キロも離れた会津地方の金山町だが、顧客から「大丈夫なのか」と問い合わせがある。
 同社の宮地正久天然水事業部長は「安全性に問題はないし、出荷のたびに自主検査しているが、検査の費用もばかにならない」と嘆く。
 裏磐梯高原で取水され、1リットル当たり2940円もするゲルマニウム天然水「五色水」も、売り上げが事故前より約3割落ち込んだ。製造・販売する五色フーズ(北塩原村)の中村久夫社長は「何十年もかけて、地下深くに浸透した水に影響が出ることはあり得ない。検査で安全は確認したが、それでも心配するお客さんが多い」と言う。
 福島県県産品振興戦略課の黒田俊久課長は「自然豊かな福島の印象をブランド化してきたのに、一瞬で台無しになってしまった。安全性を丁寧に訴え、時間を掛けて産地の評価を取り戻すしかない」と話している。(浦響子)

http://www.kahoku.co.jp/news/2011/06/20110626t63001.htm