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米国の核廃棄物処分問題-財源のめど立たず(WSJ)

2011-08-11 21:36:03

原子力発電所の使用済み核燃料プール(2007年、ニューヨーク州ブキャナン)
国で数十の核施設に保管されている使用済み核燃料は6万5000トンに上る。フットボール場1面分の土地に積み上げると20フィート(約6メートル)の高さになると言えばどれくらいの量なのか想像がつくだろう。

日本の原発事故が示すとおり、高レベル放射性廃棄物は国民の健康に被害をもたらす可能性があるだけでなく、既に悪化している米国政府の財政に大きな負担を強いるものだ。

 

連邦政府は何十年も前に高レベル放射性核廃棄物の処分を約束しているが、財源問題がいまだに解決されていない。公共料金を通じて集められた250億ドルの資金は法改正の影響で利用できない状態にある。また、廃棄物の保管費用を求めて訴訟を起こしている電力会社への賠償は推計で少なくとも160億ドルに上る。ネバダ州ユッカ・マウンテンに処分場を建設する計画が撤回された後、代替案は検討されておらず、最終処分計画の費用が増大するのは確実だ。

 

大統領の諮問機関、ブルーリボン委員会は先月29日に公表した中間報告の中で、核廃棄物処分計画の資金繰りについて(毎年の予算策定に左右されない)独立採算制の確立を求めた。しかし、この提案は短期的には財政赤字の増大につながるもので、現在の財政状況ではうまくいきそうにない。政府高官によると、オバマ政権は2012会計年度で核廃棄物処分計画向けの予算を要求していない。

 

核廃棄物を担当していた複数の元政府高官は、廃棄物処分の資金計画に長期的な財源が確保されていないことは重大な欠陥だと指摘した。また、ユッカ・マウンテンの処分場計画はこれまで何年にもわたって、政治による干渉や予算削減の的となっており、その結果、遅延が生じて撤回されるに至った。

 

ジョージ・W・ブッシュ前大統領の政権後期にエネルギー省で民生放射性廃棄物管理を担当したウォード・スプラウト氏は、資金計画の仕組みは「根本的に破綻している」と述べ、計画の改革は「絶対的に欠かせない」と指摘している。

 

エネルギー省の報道官ダミアン・ラベラ氏は高レベル放射性廃棄物について、長期的な処分のための契約上の義務を果たすつもりだと述べた。ラベラ氏はブルーリボン委員会の最終報告書が来年1月に公表されることを指摘、「使用済み核燃料や核廃棄物を安全かつ確実に長期的に処分するための持続可能な方法を見出すよう全力を尽くしている」と語った。

 

連邦政府が30年前に核廃棄物処分の責任を引き受けたとき、国民負担は想定されていなかった。汚染者負担原則の下、1982年に成立した法律では電力会社が核廃棄物処分費用を負担し、年に1度、政府に収めるよう義務付けられた。電力会社の支払いはエネルギー省が核廃棄物の保管に活用できるように新たに設置された「核廃棄物基金」に置かれた。

 

電力会社による支払いは、電力料金に1キロワット時当たり0.1セントを上乗せされ、原子力発電の消費者が負担している。支払い額は年間で7億5000万ドルに上る。過去の支払い分と利息を勘案すると、核廃棄物基金にはおよそ250億ドルの資金があることになる。

 

しかし、それだけの現金は実際には存在しない。1985年に財政均衡・緊急財政赤字規制法が成立して以来、連邦議会と政権が計画を変更した結果、電力会社による支払いは基本的に税金として扱われ、連邦政府の懐に入っている。

 

ニューヨーク大学法学部教授で核廃棄物の処分政策に関する共著もあるリチャード・スチュワート氏はその資金を議会が他の目的に使ってしまったと述べた。スチュワート氏らは連邦政府がこの250億ドルを返済する必要があると指摘している。

 

また、核廃棄物処分計画は他のプロジェクトと競って議会から予算を獲得することが義務付けられた。つまり、処分計画は1982年の法律で意図された独立採算の仕組みが85年の法律で事実上変えられ、他の予算と同じ扱いになったために、処分のための費用が財政収支をさらに悪化させる図式が出来上がってしまった。

 

政府は1998年に使用済み核燃料の引き取りを開始するとしていたが、実現しなかったため、電力会社は政府に対し、追加保管コストの支払いを求める訴訟を起こした。政府の推計によると、2020年までに引き取りを開始するという前提で、政府が司法判断に基づいて支払う金額は162億ドルに上る。それ以降は、1年ごとに5億ドルが必要になる。

 

州政府の規制当局者のグループと業界団体の原子力エネルギー研究所(NEI)は、電力会社からの支払いの徴収を中断するよう求め、エネルギー省に対して訴訟を起こしている。

 

3月11日に日本で大震災が発生、原子力発電所で事故が起きたことを受けて、米国では核施設に保管されている核廃棄物の安全な処分が喫緊の課題となっている。

 

ブルーリボン委員会の中間報告は、米国の核廃棄物処分計画は「ほぼ破綻している」と指摘、「機能不全の」核廃棄物基金の見直しなどの対応策を提示した。

 

ブルーリボン委員会は、オバマ政権がユッカ・マウンテン計画の撤回を決定したことを受け、大統領によって昨年設置された。

 

委員会は、電力会社からの徴収金について、国庫への繰り入れを必要な歳出分に限定し、残りを電力会社が運営する基金に拠出して、必要に応じて処分計画向けに活用する案を提示している。

 

委員会によると、これにより処分計画の財政状況は健全化できるが、電力会社による支払いの一部が歳入としてみなされなくなるため、短期的には赤字を増やすことになる。しかし、政府は

原子力発電所の使用済み核燃料プール(2007年、ニューヨーク州ブキャナン)


契約で使用済み核燃料を引き取らなければならないため、いつかは費用を負担しなければならないと委員会は指摘している。

 

ユッカ・マウンテンの最終処分計画を取りやめた判断をめぐっても訴訟が提起されている。エネルギー省は2008年に、ユッカ・マウンテンでの計画のためにすでに135億ドルが費やされ、そのほかにおおむね60年で830億ドル(2007年価格)が必要になるとの推計をまとめた。ユッカ・マウンテンの計画が廃止され、政府が新たな処分場を見つけなければならないとすれば、最終的な費用は確実に増える。

 

処分費用とは別に、原発事故が発生した場合、国民が受ける被害は税金で賄わなければならない可能性がある。これには、商業用の原子力発電所で保管されている使用済み核燃料による被害も含まれる。1950年代に成立した法律に基づき、原発の運営会社は現在、原子炉1基につき、3億7500万ドルの損害賠償保険に加入しなければならない。これ以降は業界の保険が最大で120億ドルまで補償する。この金額を超える人身傷害や物的損害は連邦政府の負担となる。

http://jp.wsj.com/US/Politics/node_287466/?nid=NLM20110811