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「電力全面自由化」のウソ すでに自由化された企業向け市場で一向に競争が起きない背景 電力の“歪んだ構造”(古賀ブログ)

2014-06-13 20:46:15

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●すでに自由化されている大口向けで競争が起きない謎 kogashigeakiimages


 


611日、電力小売を2016年に全面自由化する電気事業法改正案が成立した。この動きに関連して、このところ、新聞各紙に「東電:10月から全国で電力販売」「自由化にらみ初の『越境』」「乱戦 電力小売」など、派手な見出しが躍っている。政府が進める電力システム改革をにらんで、電力会社間の激しい競争がすでに始まったというのである。


 


しかし、本当にそうなのだろうか、と考えてみると、いくつか素朴な疑問にぶつかる。


 


今国会で成立した電気事業法の改正案では、確かに「消費者向けの電力販売」の自由化が柱となっている。ここで出てくる最初の疑問は、「では、消費者向け以外はどうなのか」ということである。


 


実は、消費者向け(契約電力50キロワット未満の小口利用者)以外の大口需要家向けの電力販売はとっくの昔に自由化されている。その割合は、電力需要の6割である。政府が「すでに電力市場の6割は自由化されている」と言うのは


そのことである。


 


自由であるなら、その分野では電力会社同士で激しい競争になっていそうなものだが、現実にはそうではない。特に大手電力会社間の競争はほぼゼロである。


中国地方にあるスーパーが中国電力ではなく、九州電力から買っている例があるが、これが全国で唯一の例であった。これは、本当に奇妙な状況だ。


 


2011年の東日本大震災後、原発依存度が異常に高かった関西電力は、原発が止まって、供給力に不安が生じた。火力発電の燃料費によるコスト増もあって、電力料金も値上げした。今年も、同社によれば、供給はギリギリの綱渡りだと


いう。そういう状況下であれば、電力を大量に使用する事業者などは不安で仕方ないだろう。普通に考えると、そういう事業者向けに、供給力に余裕のある北陸電力や中部電力などが、電力販売の営業攻勢をかけてもよさそうだが、そ


ういうことは起きない。これらの電力会社は、関電に電力を融通するにとどめ、関電の顧客を奪うことはないのである。どう考えてもどこかで談合しているとしか思えない。


 


 


●家庭向けで本格的な競争は起きないという予想


 


 


この状況が続く限り、消費者向けの小売販売が自由化されても同じことになるのではないか、つまり、大手電力会社が自分の独占地域以外に越境して消費者向けの供給で競争することはないのではないかという素朴な疑問が湧いてくる。


消費者が自由に電力会社を選べると言っても、それは、その地域の大手電力と小規模な新規参入したいわゆる新電力との間の選択に過ぎない可能性が高いのである。


 


他方、関電や中部電が東電管内で発電や小売に参入するという動きが報じられたり、東電も全国で小売を始めるという。これは少なくとも大手電力会社間の競争だから、やはり、今回は今までと違うのかとも思えてくる。


 


しかし、ここでも疑問が湧いてくる。東電以外の大手電力会社と東電の競争は起きるのに、何故、東電以外の電力会社の間では競争は起きないのだろうか。このままでは、2016年以降も今とたいして状況は変わらないのではないか。


 


疑問は他にもある。東電は、福島第一原発の事故処理を自分ではできず、国民の税金が投入されている。それなのに、どうして発電所を作ったり、他の地域に出て行く余裕があるのだろうか。


 


 


●電事連の秘密の会議録に迫った国会事故調


 


 


これらの疑問に答えるカギが、「電気事業連合会」と「経済産業省」の微妙な関係である。大手電力会社の集まりである電事連はあらゆる問題について、メンバー間で意見交換を行い、自分たちの利権を守ろうとする団体である。巨大


な政治力があるのだが、任意団体だということで、経理内容などは秘密のベールに包まれている。もちろん、そこの会議で何を話しているかも秘密である。


 


その実態に始めて公に迫ったのが国会事故調査委員会だ。その報告書の510ージ以降を読むと、福島事故以前に電事連が談合して、いかに耐震設計審査指針を骨抜きにしようとしていたかがわかる。さらに、日経新聞によれば、原子


力規制委員会が、各電力会社に対して、個別の原発ごとに地震想定を大幅に引き上げる方向での見直しを指示したのに、電力会社は「談合」して、見直しに応じないという態度を続けていたという。九州電力が、この談合を破って最初


に見直しに応じたために、規制委から、川内原発(鹿児島県)だけを優先審査するというご褒美をもらったというのだ。つまり、国会事故調が指摘した電事連の談合組織としての機能は今日も続いているということになる。


 


 


●国有化東電は談合の邪魔?


 


 


実は、最近、大手電力会社が東電抜きの会議を行っているという。何故だろうか。


 


東電は、国の出資を受け、事実上経産省の子会社になった。役員に経産省の役人もいる。仮に電事連の会議で、政府に聞かれては困る談合の打ち合わせをやっていたら、東電から経産省に筒抜けになる。そこで、危ない話をするときは


東電を外さざるを得ないのである。つまり、東電抜きの談合組織が必要になったのだ。これは正式な電事連の会議


とは言えないかもしれないが、実態としては、電事連が東電抜きの談合組織になったとも言える。


 


そう考えれば今起きていることは非常にわかりやすい。東電は、談合に加わらないから他の電力会社にとってはもはや仲間ではない。そこで、中電や関電は東電管内で競争を仕掛ける。しかし、元々競争には慣れていないから、恐る恐


るという感じだった。一方経産省は、自分の子会社である東電がやられっぱなしというわけには行かず、思い切り税金を投入して他の電力管内でビジネスを拡大しようとしているわけだ。


 


もちろん、この構図では、東電以外の電力会社間の競争は進まない。また、経産省は他の電力会社に天下りを送っているから、東電のためとは言っても、そんなに激しい競争は仕掛けないだろう。


 


 


 


4.新電力活躍のカギ握る送電網の運用機関


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●規制はしないで推進するだけ?しかも天下り機関?


 


一方、発電や小売などで異業種からの参入が続々発表されているので、これで競争が激化するのではないかという期待はある。しかし、その勢力が大きく伸びるためには、送電線を自由に使えなければならない。これから進められる改


革は、この点で極めて不十分だ。発送電分離を実施するのが、2018年から20年の間で、しかも、分離の仕方は、各大手電力会社が持ち株会社となって、その下に発電と送電の会社を子会社としてぶら下げるだけということだ。これでは、全く分離したことにならない。グループ会社の発電所を他の発電会社よりも優先するのは目に見えている。


 


その批判に答えるために、前国会でも電事法の改正を行なっている。各社の送電線を全国的に統一して公正に運用するための機関を作るとしているが、その名称を見て笑ってしまった。普通に考えれば、送配電業務を公正に行なってい


るかどうかをチェックすることが最も重要な仕事のはずだから、「原子力規制委員会」のように規制機関であることを示す名前がつけられるのかと思ったら、「広域的運営推進機関」となっている。大手電力会社を規制するというと怒ら


れるので、広域的運営を「推進する」だけですよというのだ。「名は体をあらわす」と言うが、あまりにも露骨に電力会社に気を遣った名前ではないか。もちろん、「推進機関」を作ると言うことは、決して厳しい規制はしませんよ、


という意思表示だ。


 


しかも、この機関は、電気事業者が集まって作るという。もちろん、大手電力会社が中心メンバーになるわけだ。これでは、まともな運営は最初から期待できない。今、電力会社が集まって、この機関をどのようなものにするか議論が


進んでいる。例えば、意思決定するためには最後は多数決で決めなければならないが、全ての事業者を平等に扱うことにはなりそうもない。当たり前だ。大手電力会社は、絶対に自分たちが主導権を握ろうと考えているからだ。この検


討の事務局は事実上電事連が仕切っているのもおかしな話だ。


 


例えば、議決権をどう配分するかだが、小売事業者グループの総議決権数=送配電事業者グループの総議決権数= 発電事業者グループの総議決権数にしようなどという提案がされているようだが、大手電力会社は発電と送電両方に


入れるから、これは極めておかしな話だ。


 


もう一つ懸念されるのは、この機関に経産省からの天下りが派遣されるのではないかということだ。本来は、こうした中立的な機関には、大手電力会社と癒着した経産省の関係者が入ることは避けなければならない。この機関の運用如


何によって、消費者の利益が著しく損なわれることになるからだ。そもそも、電気事業法の規制権限を経産省に与えてきたから、今日の非効率な電力システムができたのだ。経産省から権限を剥奪して、独立した第三者機関に規制して


もらうのが一番良い。あるいは、競争政策のプロである公正取引委員会に規制させたらどうだろうか。


 


もちろん、自民党は電力会社や経産省の意向を受けて、そんなことには反対するだろう。世論の動きがそれを変えることができればよいのだが、これらの動きは、マスコミでは全く報道されてない。


 


実は、すでに、この組織のトップが内定した。政策研究大学院大学の金本良嗣(かねもと・よしつぐ)教授だ。交通経済学などの専門のようで、競争促進派のように見えるが、こんなに大事な人事が経産省の一存で決まるのであれば、


極めて危険だ。


 


もう少しマスコミも関心を持って報道して欲しい。


 


 


●発送電分離は決まっていないという恐ろしい事実


 


 


送電分野で厳しい規制が導入できないのは、電力会社の反対があるからだが、その反対のせいで、そもそも発送電分離が実施されるかどうかもまだわからないということはあまり知られていない。当然実施されるというような報道もあ


るが、それは正確ではない。


 


今国会の改正で決まった、「16年からの電力小売の全面自由化」のために今国会に電事法改正案を出すということは、昨年42日に決まった政府の「電力システムに関する改革方針」に明確に書いてあった。しかし、発送電分離につい


ては、この改革方針では、単に「2018年から2020年までを目途に実施する」「2015年通常国会に法案提出することを目指すものとする」としか書いていない。


これを霞ヶ関文学として読み解くと、発送電分離を20年ごろまでに実施するために、来年法律改正することを「目指せばよい」ということだ。つまり、目指した結果、できなくても良いということになる。明らかに小売全面自由化とは


扱いが違うのだ。


 


現に、八木誠電事連会長は、「問題が生じれば分離の是非も含めて見直して欲しい」と述べたそうだ。これは、すごいことで、発送電分離をやめろと言うぞという意味になる。彼らの頭の中では、まだ発送電分離は「未定」ということ


のようだ。


 


そして、仮に実施されたとしても、保険として、分離はあくまでも持ち株会社形式で、発電会社と送電会社を子会社として並べる方式をとり、送電部門の運用についても、「推進」機関が作られるだけで、決して厳しい規制は行わない


という理解になっていると思われる。どう転んでも、経産省と大手電力の利権確保のために運営されると考えたほうがよいだろう。


 


これまでも、郵政民営化、政策金融機関の民営化など、一度決まったかのように見えたことが、後に骨抜きされた例は枚挙に暇がない。


 


マスコミがこのような視点で厳しくチェックする能力がないように見えるのが一番心配だ。


 


 


●あらためて問われる一般担保付社債制度温存の意味


 


 


経産省には新電力を支援して競争を促進しようという気はさらさらないということは他の例からもわかる。昨年さんざん問題にされた一般担保付社債の制度を今後も大手電力会社だけに認めることになってしまったのだ。


 


この制度は、大手電力会社が倒産した場合、いわゆる「電力債」と呼ばれる大手電力が出した社債だけは、他の債権より優先して守られるというものだ。この制度があると、銀行や保険会社や一般の投資家は安心して投資できる。その


ため、社債の金利は低くても売れる。その結果、大手電力会社は低金利で資金調達できるから、新電力に比べて非常に有利な立場に立っている。


 


また、東電を破綻処理すると被災者の損害賠償債権はカットされるのに、電力債の保有者は守られてしまうというおかしなことが起きるという事態になってしまったのも、この制度のせいだ。今後も事故が起きれば、被災者の損害賠償


債権は、福島のときと同様に、また社債権者よりも劣後する。


 


こんな理不尽な制度を堂々と残すほど経産省と電力会社の癒着は深いということなのだ。


東電以外の大手電力は、談合で事実上地域独占を温存して利益を保証され、不公正な送電網の運用で競争者を排除する。東電は何兆円もの税金を投入してもらって経産省と二人三脚で暴れる。これら9電力大手との競争を余儀なくされ


る新電力は圧倒的に不利だ。これが、「競争促進」と言っている経産省の本音なのだろう。


 


消費者が、安くてサービスのよい電力会社を自由に選べる時代が本当に来るのか。今のままでは、それはまさに画餅に終わる可能性の方が高いと言った方がよさそうだ。