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大震災半年:「病床減れば医師減る」 宮城・石巻市立病院、26人から6人に(毎日)

2011-09-06 13:01:59

津波被害に遭い使用できなくなった石巻市立病院。医師流出に歯止めがかからない=宮城県石巻市で2日午後、丸山博撮影
東日本大震災の影響で、2000を超える病床が機能停止に陥った被災地。仮設診療所が各地に相次いで作られるなど、環境改善は一定のスピードで進んでいるが、長くても2~3年の間、急場をしのぐための仮施設にすぎない。次のステップに向けて、医師確保や病院の再建方法など議論を急がなければならない課題が山積している。【川名壮志、加藤隆寛】

津波で市立病院が入院患者を受け入れられなくなった宮城県石巻市。他の病院も機能を失い、被害を免れた石巻赤十字病院に負担が集中する。この半年で事態は改善せず、医師不足による「医療過疎化」に拍車がかかる恐れも出ている。

 「ベッドがなければ手術ができない。それでは勤務医の流出が止められないんですよ」。市立病院の伊勢秀雄院長が、閑散とした仮設の診療所で深いため息をついた。海沿いにあった病院は、津波で206床全てが使用不能に。4月、旧市役所の2階に仮設診療所をオープンしたが、入院には対応できず、もちろん手術もできない。震災前にいた医師26人のうち16人は大学病院からの派遣だった。臨床で腕を磨く機会が失われたことで、このうち11人が病院を去り、さらに2人が月内に辞める。他にも7人が辞めており、残る医師は6人になってしまう。

 同市の人口10万人当たりの医師数(06年)は115・3人。全国平均の217・5人を大きく下回る。病床を復活できず、医師の確保もままならない状況が続けば、医療の質低下への懸念も強まる。

 伊勢院長は「ベッドが減れば医師も減る。医師が減れば、患者は入院したくてもできず、遠くの病院に行かなければならない。これでは地域医療が立ち行かなくなる」と嘆く。

 一方、入院患者や救急搬送が集中した石巻赤十字病院(402床)では、ギリギリの病院運営が続いた。震災から2カ月間は、検査や手術を予約した上で入院する「予定入院」の患者を断り、緊急入院のみを受け付けていた。「それでも限界寸前だった」と同病院呼吸器内科の矢内勝部長は言う。同科の被災後2カ月間の緊急入院患者は、前年同期比で約3倍の316人に急増。うち肺炎、ぜんそくは計215人と約4倍に膨れ上がった。同科だけでは対応できず、ヘリコプターによる搬送なども駆使し、2カ月で100人以上を別の病院に移したという。

 同病院の8月末時点の病床稼働率は、約97%に達する。今後は予定入院の患者が増えることも想定される。被災地ではこれまで、がんなどの定期検診をほとんど実施しておらず、「平常化するにつれ、検診でがんなどの疾患が見つかって入院する患者が増えていくのは確実」(市内医療関係者)だからだ。矢内部長は「今でも入院すべきなのに通院してもらっている患者もおり、医師もベッドも絶対的に足りない」と訴える。

 ◇病院統合・再編急務 医師確保難航、「在宅」に特化も


 

 被災地の医療をどう立て直していくのか。まず課題として挙げられるのは医師確保だ。他県から派遣された医師らは既に、ほとんどが引き揚げた。宮城県医療整備課は「もともと医師不足だった地域で、(派遣によって)近年まれに見るほど医療が充実していたという一面もある。いかに『通常モード』に戻していくかが課題だ」と話す。

 派遣医師がいなくなった穴は、地元の医師で埋める必要がある。だが、同県が6月に調査したところ、石巻市を中心とした3市町の医療圏で28・3%、気仙沼市を中心とした2市町の医療圏で34・1%の医療機関(病院と診療所)が休廃止状態にあった。その後について同課は「仙台など他の場所で再開するケースは散見されるが、両医療圏の状況は大きく変わっていない」と見る。医師は戻っていないのが現状で、確保は難航している。

 病院の統合・再編も課題になってくる。

 石巻市立病院は入院機能を備えた仮施設建設を検討している。その後については、元の病院を修繕するか別の場所に新築して、急性期医療を担う施設として存続する道を探っている。一方、石巻赤十字病院も来年2月までに50床の仮施設を作る予定。数年後にそれを取り壊し、新館(80床)を建設する計画も練っている。

 県医療整備課は「両方の仮施設を作るのは難しい。限られた人材と資源の中では、互いに協力して役割分担せざるを得ない」と指摘する。医療機関や自治体などでつくる県地域医療復興検討会議でも両病院について、「医療資源と機能を共同化して最大限に活用すべきだ」との方向性を示したが、双方が主張を譲らない中、実現への道筋は見えない。

 同会議は気仙沼市についても、被災した市立本吉病院を在宅医療中心の診療所とすることや、それに合わせて入院機能を担う同市立病院を強化することを検討課題に挙げている。

 別の道を歩み始めた医療機関もある。女川町立病院(98床)は、有床診療所(19床)に規模を縮小し、在宅医療を充実させることを決めた。同時に併設の老人保健施設を50床から100床に増やす。高齢化が進む町の実情に合わせた対応。震災前に来年4月からの診療所移行を計画していたが、10月から前倒しで実施する。

 地域医療に詳しい岡山大大学院医歯薬学総合研究科の佐藤勝教授は「求められる医療は地域によって異なる。自治体が現場の医師らから聞き取って地域のニーズを吸い上げ、国や県が対策を早期にまとめていく必要がある」と指摘する。

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 ◇各病院の受け入れ可能な病床数の推移


 

県名 病院名(所在地)      病床数      現状・見通し

岩手 県立山田(山田町)       0 (60) 7/4から仮設診療所

   県立大槌(大槌町)       0 (60) 6/27から仮設診療所

   県立高田(陸前高田市)     0 (70) 7/25から仮設診療所

   県立釜石(釜石市)     231(272) 8/17に179床復活

   県立大東(一関市)       0 (81) 耐震診断の結果待ち

宮城 気仙沼市立本吉(気仙沼市)   0 (38) 他県の応援医師で対応

   公立志津川(南三陸町)    39(126) 隣の登米市に病床確保

   女川町立(女川町)      19 (98) 10月から診療所化予定

   石巻市立雄勝(石巻市)     0 (40) 仮設診療所の設置準備中

   石巻市立(石巻市)       0(206) 旧市役所を間借りし診療

   恵愛(石巻市)         0(120) 外来のみ系列病院へ移行

   南浜中央(岩沼市)       0(242) 市内に診療所を開設

福島 南相馬市立総合(南相馬市)  70(178) 緊急時避難準備区域

   大町(南相馬市)       50(188) 同

   小野田(南相馬市)      30(181) 同

   渡辺(南相馬市)        0(175) 同

   雲雀ケ丘(南相馬市)      0(254) 同

   池田記念(須賀川市)     ※0 (92) 市内系列病院を60増床

   菅波(いわき市)        0 (84) 6/1に外来のみ再開

 (毎日新聞まとめ。病床数は8月末現在、カッコ内は震災前に受け入れ可能だった数で、県の

津波被害に遭い使用できなくなった石巻市立病院。医師流出に歯止めがかからない=宮城県石巻市で2日午後、丸山博撮影


許可病床数とは異なる場合もある。※は系列病院で60床増やしたため32床機能停止として集計)

http://mainichi.jp/select/weathernews/20110311/halfyear/news/20110905ddm003040112000c.html