東芝の不適切会計問題 第三者委員会報告で、同社内部の監査体制の不備を批判。監査委員会には二人の元外務官僚と元日経社員(RIEF)
2015-07-16 22:58:11
各紙の報道によると、東芝の不適切会計を調査している第三者委員会は公表する報告書の中で、巨額の利益の過大計上を見抜けなかった内部の監査体制の不備を批判していることが分かった。
過大計上が意図的に行われ、歴代社長が関与していたことも指摘しているとされる。報告書は20日に提出される。東芝は、報告書を受け取ったうえで、田中社長をはじめ経営陣の責任を最終的に判断する。
東芝は委員会設置会社で、内部監査については、監査委員会が最高責任権限を持つ形となっている。監査委員会の委員長は、副社長も務めた久保誠氏、また法務・監査経験の長い島岡聖也氏が軸となり、それ以外に3人の社外取締役が就任している。社外取締役は、いずれも東京証券取引所有価証券上場規程などに定める独立役員である。
監査委員会所属の社外取締役は、元中国、インド大使を歴任した元外務官僚の谷野作太郎氏、同じく 元スペイン、ブラジル大使を歴任した元外務官僚の島内憲氏、もう一人は、元日本経済新聞社員で、現在は東短インフォメーションテクノロジー社長などを務める斎藤聖美氏である。このうち、谷野氏は指名委員会の委員長を務め、斎藤氏は、報酬委員会の委員も兼務している。
監査委員会は独自の監査委員会室を設け、その室所属社員の人事は、監査委員会の独立性を確保するため、委員会との事前協議のうえで決める仕組みもある。
内部監査部門である経営監査部は、毎年度の監査方針および監査計画の策定にあたって監査委員会と事前に協議するとともに、毎月2回開催する監査委員会との連絡会を通じて被監査部門についての監査前協議や監査情報を共有している。
こうした体制に基づいて、監査委員会は内部の各部門への調査を原則として経営監査部の実地調査に委ねているが、経営監査部の監査結果は、監査委員会に逐次報告されており、委員会が必要と判断した場合は、監査委員会自ら実地調査を行う。
このように、監査委員会は経営監査部への指導権限、自らの実地調査権限の両面で、今回の不適切会計を監視する直接の責任を負っていたわけだ。加えて、外部から東芝の会計書類などをチェックする外部監査機関との間での調整機能も担う。
こうした重い立場を担う監査委員会のメンバー構成をみると、内部の財務、監査の専門家が実質的に業務を担い、社外の3人は「名ばかり委員」だった可能性が強い。うち2人が他の委員会の委員を兼務している点も、「責任ある監査」に徹していたか、との疑問が生じる。
さらに議論を呼びそうな点が、監査委員会の2人の内部委員は事態を掌握していながら、社外の委員には伝えていなかった可能性がある点だ。もしそうだとすると、監査委員会自体が、機能していなかっただけではなく、内部の不祥事の隠れ蓑に使われていたことにもなる。
金融庁や東京証券取引所は会社法改正を踏まえて社外取締役の増員を企業に求めているが、果たしてその実効性があるのか、という疑問はこれまでも少なくなかった。今回の事件で、外部の人間が一人二人増えたところで、大企業のガバナンス全体に目を光らせるのは不可能ということが改めてわかったともいえる。
今回の事件で露呈した「監査委員会機能不全」「社外取締役も機能不全」という実例を、日本の企業はどう教訓とするのか。あくまでも東芝という企業の独自の問題なのか。官民挙げて喧伝してきた「コーポレートガバナンスの向上」という旗印が、次第に幻想から幻滅に転じつつあるが、官がしつらえた「形」を真似るだけでなく、「責任ある経営」をどう築くかが、個々の企業に等しく問われている。
不適切会計問題では、同社を担当する監査法人の新日本有限責任監査法人の責任問題も指摘されてきたが、東芝が意図的に不正操作していた場合は監査法人も騙された立場となる。しかし、その場合は、内部の責任機関としての監査委員会の責任の重さがさらに強まることになる。