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「バロンズ」が選んだ世界で最も優秀なCEO30人(WSJ)日本人は御手洗落選、柳井選出

2012-03-27 16:53:17

ファーストリテイリング会長の柳井正氏
ウォーレン・バフェット氏いわく、優秀な経営者は常に事業所有者のような思考をする。バフェット氏が言わんとするところは、偉大なリーダーとは情熱、達成意欲、創造性、起業家精神を併せ持った人物ということだ。これらの資質を兼ね備えた人物を見つけるのは、そう簡単ではない。だが、バフェット氏には間違いなく当てがあるようだ。

ファーストリテイリング会長の柳井正氏




そこでバロンズでは今回、毎年恒例の世界の優秀な最高経営責任者(CEO)30人の選定にあたって、事業所有者精神に特に注目してみた。

 事業所有者精神を間違いなく持っていると言えるのが、バフェット氏だ。投資会社バークシャー・ハザウェイの生みの親であり、1965年に苦境にあえぐ企業を買収し、市場価値2000億ドル(約16兆5000億円)の企業へと育て上げた。バフェット氏が今も働いているのは、仕事を愛しているからにほかならない。

 それは米インターネット通販最大手アマゾン・ドット・コムのジェフ・ベソス氏や米コーヒーチェーン大手スターバックスのハワード・シュルツ氏、米小荷物輸送大手フェデックスのフレッド・スミス氏らその他の裕福な創業者兼CEOも同じだ。彼らは、米ソフトウエア大手マイクロソフトの前CEO、ビル・ゲイツ氏に倣い、慈善活動に完全に従事しようと思えばすぐにでもできたはずだ。

 30人には米銀JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン氏や米企業向けソフトウエア大手オラクルのラリー・エリソン氏といったおなじみの面々に加え、米インターネット旅行会社プライスライン・ドット・コムのジェフリー・ボイド氏や米医薬品会社ペリゴのジョセフ・パパ氏、急成長著しいシンガポールの水処理大手ハイフラックスのオリビア・ラム氏ら優秀ではあるが、世界的にはあまり名の知れていない経営者も含まれている。

 さらに今年はリストの内容が例年よりも大きく入れ替わり、12人が新たにリスト入りを果たしている。それには先述のボイド氏やパパ氏、ラム氏のほか、米高級皮革製品・アクセサリー大手コーチのルー・フランクフォート氏や米クラウドコンピューティング大手セールス・フォース・ドット・コムのマーク・ベニオフ氏、米銀TDバンクのエド・クラーク氏、米半導体大手インテルのポール・オッテリーニ氏が含まれる。

退任したためにリストから外れたCEOもいる。ディーゼルエンジンの設計・製造を手掛ける米カミンズのティム・ソルソ氏や米コンピューター大手IBMのサミュエル・パルミサーノ氏だ。また、米電子機器大手アップルのスティーブ・ジョブズ氏は昨年10月に亡くなった。

 米インターネットDVDレンタル大手ネットフリックスのリード・ヘイスティングス氏は、急成長するビジネスを多額の利益に結び付けることに苦戦していることから、今年はリストから外れることになった。米カジノ運営大手ウィン・リゾーツのスティーブ・ウィン氏は過去数十年、投資家から勝ち組経営者とみられているが、日本のビジネスパートナー、ユニバーサルエンターテインメントの岡田和生会長との泥沼の争いを受け、リストから外れた。

 リストから外すのが非常にためらわれる面々もいた。カナダ大手銀ロイヤル・バンク・オブ・カナダ(RBC)のゴードン・ニクソン氏や独自動車大手ダイムラーのディーター・ツェッチェ氏などだ。

 RBCのニクソン氏については、低迷する米銀行業務部門を昨年ライバル行のTDバンクに売却したことを受け、TDバンクのエド・クラーク氏の方がニクソン氏よりもリスト入りするのにふさわしいと判断したためだ。TDバンクは顧客志向のビジネスで、米国・カナダ双方の支店合わせて業界最高水準の利益を計上し続けている。

 ダイムラーのツェッチェ氏に代わってリスト入りしたのが、独自動車大手BMWのノルベルト・ライトホッファ氏だ。BMWは景気低迷期にも利益を出し続け、高級車市場で首位を維持しつつ、業界屈指の利益率を誇っている。

 リストは全世界をカバーしており、米国から18人、欧州から7人、アジアから3人、オーストラリアとカナダからそれぞれ1人が選ばれている。

 選定には特に決まった方程式はなく、投資家やアナリスト、企業経営者らの意見を参考にバロンズのスタッフが独自の見解で選んでいる。投資情報誌として、当然ながら株価パフォーマンスにも密接に注目している。

 優秀なCEOとは、顧客、従業員、投資家を含むあらゆる「ステークホルダー(利害関係者)」に利益をもたらしているものだ。その好例が、スターバックスのシュルツ氏だ。待遇が良いとは決して言えない小売業界では珍しく、同社はパートタイムの従業員にまで健康保険や退職金を支給している。株価は過去1年で50%上昇し、株主からの文句も聞かれない。

 CEO職に少なくとも3年(できれば5年)就いていることも条件の1つとしている。大きな組織の場合、影響力を発揮するまでには、それくらいの年数がかかるからだ。また通常、会社の市場価値が50億ドル以上であることも条件の1つだ。

 大きな会社を経営するには、グローバルな視点も必要であり、最も成功しているCEOは往々にして、優れた国際戦略を有している。

ケンタッキーフライドチキン(KFC)の親会社、米ヤム・ブランズのデビッド・ノバク氏は、米ケンタッキー州ではなくアジアをベースにしていると言ってもいいかもしれない。同社は利益のほぼ半分と成長の多くを中国で得ている。ライバルの米マクドナルドは中国ではヤムほど成功していないものの、その利益の50%以上を米国外で得ている。

 全米のあらゆる場所で目にするスターバックスでさえも、その売上高の4分の1近くを国外で稼いでいる。プライスラインは欧州のホテル予約サイト市場で首位に立ち、ひそかにオンライン旅行業界をリードするとともに、その市場価値を350億ドルにまで上げている。

 注目すべきイノベーター(改革者)の1人が、セールス・フォース・ドット・コムの大胆不敵な創業者、マーク・ベニオフ氏だ。同社は、インターネットを介してソフトウエアを提供する「クラウドコンピューティング」の先駆的企業で、今や市場価値は200億ドルに上る。

 ジョセフ・パパ氏はペリゴをジェネリック医薬品や一般薬市販薬を供給する大手企業にまで育て上げ、同社は過去5年S&P500種構成銘柄企業の中で最も株主還元率の高い企業の1つとなっている。米ジョンソン・エンド・ジョンソンなどのようなブランド医薬品メーカーが製造上の問題で苦しむのを尻目に、ペリゴはその品質管理に対する執拗(しつよう)なまでのこだわりによって好調を維持している。

 ルー・フランクフォート氏はコーチで30年にわたって勤務し、2000年にサラ・リーから分離・独立し上場した際にCEOに就任した。世界屈指の高級ブランドを築き上げ、投資家に新規株式公開(IPO)以来40倍の利益をもたらしている。金融危機のさなかにあった09年、われわれはリストからフランクフォート氏を外したが、それは間違いだった。同氏は今回見事返り咲きを果たしている。

 ファーストリテイリングの柳井正氏は、世界的にはほとんど無名だが、カジュアル衣料チェーン「ユニクロ」の展開で日本の膠着(こうちゃく)化した小売業界に風穴を開け、推定100億ドルの資産を有する日本で最も裕福な人物となった。ユニクロは、おしゃれで手頃な価格の衣料品を提供する、アジア版ギャップとも言うべき企業だ。ユニクロは今やニューヨーク5番街の大型店を含め全米の一部大都市にも進出し、米国消費者をも取り込もうとしている

 オッテリーニ氏は、さまざまな取り組みによって半導体のパイオニア企業、インテルを再び成長企業へと押し上げ、パソコンに依存した事業体質を転換させた。データ量の急増に伴うサーバー需要の増加で大量のサーバー用プロセッサーを製造するインテルはクラウド業界でひそかな躍進を果たしている。また、長年弱点とされてきた携帯端末市場でも勢いをつけつつある。十分な配当と株式買い戻しを組み合わせ、キャッシュを株主に還元している同社は、IT(情報技術)企業のあるべき見本ともいえる。

 米投資運用会社ブラックロックのラリー・フィンク氏については、このリストが初めて作成された05年、ウォール街以外ではほとんど無名だったにもかかわらず、われわれは同氏を優秀な経営者の1人に選出した。以来、同氏は業界を代表する経営者となることでその地位に報いている。また、政治家にとっては、ビジネスや金融に関する率直な見解を必要とする際に意見を求める相手ともなっている。

 フィンク氏は自らの考えを忌憚(きたん)なく述べる。ブラックロックは世界最大の債券運用会社の1つかもしれないが、だからといって、「2%はリターンではない。退却の合図だ」と米国債のリスクを警告する広告を新聞掲載することもためらわない。

 

http://jp.wsj.com/Business-Companies/node_414584/?nid=NLM20120327