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国連の生物多様性条約(CBD)事務局長(代理)が、新型コロナウイルス感染を教訓に、野生動物売買をグローバルに禁止する必要性を提言。CBD・COP15での最大論点に(RIEF)

2020-04-07 16:43:50

Mtrma1キャプチャ

 

 国連の生物多様性条約(CBD)事務局長(代理)のElizabeth Maruma Mrema氏は、新型コロナウイルス発生の原因とされる野生動物売買を世界的に禁止する必要性を要請した。CBDは今秋に中国での第15回締約国会議(COP15)で、現行の「愛知目標」を改定する「Post 2020」策定を目指しているが、会議は延期される見込みで、新たに野生動物売買への対処が最大課題として浮上した形だ。

 

 Mrema氏は、昨年11月にルーマニア前環境相のクリスティアナ・パスカ・パルマー(Cristiana Pasça Palmer)氏が事務局長を任期半ばで退任後、代理で事務局長を務めている。タンザニア出身。https://rief-jp.org/ct12/95683?ctid=0

 

 今回の新型コロナウイルス感染は、中国での動物売買市場から発症したとみられている。発生源と目されているのは、アジア地域に生息するセンザンコウ。絶滅の危機に瀕する動物として、国際商業取引が禁じられているが、全身を覆うウロコが中国で伝統薬として利用されているほか、肉も中国やベトナム等で食べられているという。

 

売買されるセンザンコウ
売買されるセンザンコウ(National Geographicから)

 

 Mrema氏は欧州メディアを通じ、今回の新型コロナウイルスの教訓を踏まえて、将来の「未知の感染症」を事前に防ぐためには、野生動物の売買をグローバルに禁止する必要があるとの考えを示した。中国では各地で、生きたセンザンコウのほか、ジャコウネコ、ネズミ等を小さなゲージに入れて売買する市場が伝統的にある。

 

 世界保健機構(WHO)によると、新型コロナウイルスの宿主はコウモリとみられるが、センザンコウも同ウイルスを保有していることが知られている。コロナウイルスはこれらの動物の体液、排泄物、肉等を介し、人間に感染したとみられる。中国政府は1月末に、すべての動物市場の閉鎖を命じた。ただ、現在の閉鎖は一時的なもので、恒久的なものではない。

 

 こうした実情から、Mrema氏はグローバル基準での売買禁止ルールを設けるよう求めた。一方で、アフリカ等では野生動物を伝統的な狩猟によって食す生活が続いており、狩猟を禁じると先住民の社会や生活に大きな打撃を及ぼす恐れもある。このため、そうした地域への配慮の必要性にも言及している。

 

ワニが人を食べる数より、人間がワニを食べる数の方がはるかに多い(Guardianより)
ワニが人を食べる数より、人間がワニを食べる数の方がはるかに多い(Guardianより)

 

 これまでもアフリカで発生したエボラ出血熱や、マレーシア等で起きたニパウイルス等の感染源は、野生のオオコウモリとされている。こうした事例を指摘し、Mrema氏は「自然破壊と人間の感染症との間には明確なつながりがある。新型コロナウイルス感染の広がりが我々に与えるメッセージは、人類が自然を無視して収奪を重ねる限り、我々自身が報いを受けるということだ」と述べている。

 

 Mrema氏は今回、中国が野生動物取引市場を禁じたことや、その他いくつかの国々も同様に禁止措置をとったことを歓迎する一方で、アフリカ等の途上国では、野生動物への依存を続けているコミュニティが少なくないことへの対応の必要性を強調した。これらのコミュニティの多くは低所得層で、市場での肉類等の購入は容易ではない現実がある。

 

 このため単純に野生動物売買を禁じるだけだと、違法取引が蔓延するリスクがある。すでに地球上の多くの動植物は人類による違法取引によって生物多様性の危機も加速している。100万以上の生物種が絶滅に瀕し、今後10年間にその多くが実際に地球上から消え去るとみられている。

 

 こうした生物多様性危機の克服のために、2010年に日本で開いたCBD・COP10で採択した名古屋議定書に基づき、2011年~2020年までの戦略目標を定めた「愛知目標」が定められてきた。その目標の改定・強化を決める「Post 2020」の場として、中国・昆明市でCOP15が開かれる予定だった。そうした節目の年に、今回のパンデミック騒動がグローバルに拡大したわけだ。

 

 中国の生物多様性・グリーン発展機関の事務局長のJinfeng Zhou氏も、野生動物取引をグローバルに禁止すべきと提言している。「野生動物取引を禁じることで、生物多様性の保全につながるだけでなく、我々自身の健康維持につながる。人類の病気の7割以上は野生動物等の接触やその食肉等で発症している」と警告している。

 

 COP15は延期の見通しだが、Mrema氏は、新型コロナウイルス感染の影響で、「愛知目標」に代わる新たなCBDの戦略目標でのグローバルな合意形成が進むとの見方をしている。コロナ感染の発生源となった中国が、生物多様性の確保と自然保全のために、リーダーシップをとれば、将来の感染症拡大の可能性を減少させ、自然と共生できる経済社会の構築につなげる期待が出てくる。

https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/20/032900203/?P=2

https://www.cbd.int/secretariat/executive-secretary/