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環境NGOのWWF、新型コロナウイルス感染症等の「動物由来感染症」増大への緊急対応を求める報告書。人と動物を隔てる森林等のこれ以上の破壊や、野生動物取引の停止等を提言(RIEF)

2020-06-17 22:42:29

WWF001キャプチャ

 

 環境NGOのWWFは17日、新型コロナウイルス感染症のグローバルな拡大を踏まえて、同感染症が過去のSARS(重症急性呼吸器症候群)等と同じく、動物と人が共通で感染する「動物由来感染症」と位置付け、グローバルな緊急対応行動を、各国政府、企業、市民が、それぞれで協調して実施することを求める報告書を公表した。

 

  報告書は『COVID 19: urgent call to protect people and nature (COVID 19:人と自然を守るための緊急の呼びかけ)』。新型コロナウイルスの正確な起源については、今もまだ十分には確かなことはわかっていない。だが、報告書は、これまでのSARSやMERS(中東呼吸器症候群)などと同様の「動物由来感染症」の可能性としている。

 

 動物由来感染症は、もともと自然界に広がっているものだ。これまでは人間社会に影響を及ぼすことは稀だった。それが近年になって人間社会に影響を及ぼすようになった理由として、①高いリスクを伴う野生生物の取引と消費②森林破壊を引き起こす土地の転換と利用の変化③非持続可能な形での農業と畜産の拡大、等をあげている。

 

森林は人間のためだけの「資源」ではない。多くの動植物にとっての「資源」であり、「リスク」の場でもある
森林は人間のためだけの「資源」ではない。多くの動植物にとっての生息・生活の場だ

 

 要するに、人間社会と動物の社会を隔てる役割をしていた森林等の自然環境が、人間の手によって過剰に改変、開拓、消失させられてきたため、人間と動物の物理的距離が急接近、隔てていた垣根が低くなったことで感染症も人間に広がった可能性があるとしている。

 

 報告書によると、農地や牧草地の開発によって、20世紀以降に失われた森林面積は、約178万㎢という。日本列島の4.7個分だ。また1945年から2005年の間の世界で起きた土地利用の改変が、これまでの動物由来感染症のほぼ半分に関係しているとの指摘もある。その影響度合いは年を経るに従って増加ピッチを増している。過去30年間では、人間社会で発生した新たな疾患のうち60~70%が、これらの感染症由来とみられる。

 

 人間社会のグローバル化の影響で、病原体を持つ動物の移動や利用といった「自然」を売買する取引や消費も、国境を越えて広がっており、動物由来感染症を広げる大きな要因になっている。本来は各国間での検疫などでチェックされるはずだ。だが、ビジネス主導の違法取引(密輸)が横行、実際に世界中でどのような動植物が、どれくらいの規模で取引されているかもわからないまま、今も続いているとされる。

 

年を追って増大する人間に影響するウイルス
年を追って増大する人間に影響するウイルスの発見と媒介する動物

 

 報告書は、こうした森林破壊や、野生生物取引の問題は増大することはあっても縮小せずに今も続いていると指摘する。その結果、今後も、今回の新型コロナウイルスのような感染症や新たな未知の病気が、世界中で大規模に発生する危険性があると警告している。そのうえで、各国政府、企業・業界、市民組織、市民社会それぞれに対して、自らを律する緊急の対応をとることを求める提言をしている。

 

 まず、各国政府に対しては、①リスクの高い野生生物取引を停止し、違法な取引をなくすための取締り強化②森林破壊を食い止め、紙や木材、パーム油などの農産物生産が、土地利用の転換につながらないようにする法整備と政策の実行③生物多様性保全の新たな目標に合意し、必要資金を提供④野生生物と土地利用の転換の際には、ワンヘルス・アプローチ(同じ環境を共有する、人間と動物の健康を、一つのものとする考え)を組み込む⑤人と自然の新たな関係を結び直すため、次の3つの2030年目標に国際合意する。

▼自然生態系を保護し回復させる目標

▼生物種と生物多様性を緊急保護する目標

▼生産と消費のフットプリント(環境負荷)を半減する目標

 ⑥新型コロナウイルスの影響からの経済回復計画の設計では環境に配慮した移行を確実に行い、持続可能で回復力のあるビジネスモデルへの投資を促進する⑦脆弱な地域共同体(コミュニティ)が、持続可能かつ柔軟な方法で、先住民の土地や水利用の権利を認め、食料安全保障と生計を保護できるように支援する。

 

上図は動物由来感染症による累計死者数。下図は同感染症による費用
上図は動物由来感染症による1998~2020年間の累計死者数。下図は同感染症による同期間の推計総費用

 

 企業・業界に対しては、①現状および新型コロナウイルスによる危機の収束後、あらゆる自主的な環境対策を実施、強化②持続可能な生産を促進。製品や原料の供給元まで遡るトレーサビリティを確保し、消費者に持続可能な食生活の選択を促す。食品サプライチェーンでの環境フットプリントを削減する信頼のあるサービスの提供③すべての農産物の生産と消費が、森林と生態系の破壊を引き起こさないよう保証する企業方針とルールを順守する④すべてのビジネスおよび資金調達の決定に際し、ワンヘルス・アプローチを組み入れる⑤環境と社会に良い未来をもたらす、革新的な金融メカニズムとソリューションを開発し、実装する。

 

森林は人間の為だけの「資源」ではない。多くの動植物の生息・生活の場だ
森林は人間の為だけの「資源」ではない。多くの動植物の生息・生活の場だ

 

 このほか、市民社会組織、市民にも、それぞれの変革を求めている。報告書は、「このすべてが実施されたとしても、あらゆる病気を予測し、予防することはできない。しかし今、自然と人との関係を見直し、改めることは、将来の大規模な感染症の拡大(パンデミック)のリスクを減らす行動となる」と指摘している。

 

 地球温暖化問題も、廃プラスチックの海洋汚染も同様だが、人間社会の行動半径が、「母なる地球」の豊かな自然の許容範囲を、すでに超えてしまっている。これを正すのは人間自身の行動の適正化、制御を抜きには困難な状況に至っているともいえる。

 

 

https://www.wwf.or.jp/activities/data/20200616covid1902.pdf