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アフリカ沖モーリシャスでの商船三井チャーター貨物船の座礁・重油流出事故。日本政府の「無策」への不満・批判、海外で高まる。日本政府・環境省は「民間企業の話」(RIEF)

2020-08-28 17:28:52

もrぃしおうs001キャプチャ

 

 アフリカ東部モーリシャス沖で商船三井がチャーターした貨物船の座礁・重油流出事故で日本政府の「無策」への批判が高まっている。フランス政府等が流出重油の回収支援で活躍しているのに対して、「当事者」でもある日本政府は調査団は派遣したが、肝心の重油回収活動等にはほとんどかかわっていない。政府・環境省は、「(事故は)民間企業の話」とのスタンス。小泉進次郎環境相も石炭火力発電対策でみせた積極性は示していない。

 

 重油流出事故が発生したのは座礁から2週間以上が経った今月6日。世界にその様子が伝わった2日後の8日には、マクロン仏大統領がツイッターで「生態系が危機に直面したら、緊急行動が必要だ。フランスはそのために行動し、モーリシャスの人々とともに行動する」と発信した。

 

 フランスは旧宗主国でもあり、近隣にはレユニオン島を領有しているという関係もある。しかし、同国は、過去の汚染事故の教訓を踏まえて、国内や海外領土に油を吸着する資材など必要な物資を常に備蓄する「ポルマール計画」と呼ぶ海洋汚染事故の発生時の緊急マニュアルを持つ。1978年にフランス国沖で座礁したタンカー「アモコ・カディス号」から大量の重油が流出した事件を教訓として、政策に生かしている。

 

手作業で重油を回収するボランティアや作業員たち
手作業で重油を回収するボランティアや作業員たち

 

 一方、日本でも1997年に、島根県隠岐島沖の日本海で起きたロシア船籍タンカー「ナホトカ号」からの重油流出事故で広範囲に沿岸部分や生態系が汚染された。この時、日本政府は延べ約30万人のボランティアに頼る形で、何とか乗り切った。だが、フランスとは対照的にその時の経験を生かした「日本版ポルマール計画」を立案する知恵は生まれなかった。

 

 フランスでは先週末、海外領土担当の閣僚、Sebastien Lecornu氏がマクロン大統領の代理としてモーリシャスを訪問し、重油回収問題を中心にモーリシャス側と協議した。日本も国土交通省が海上保安庁の国際緊急援助隊を現地に派遣したほか、当初、環境省も小泉環境相が調査団派遣に加えて、現地に政務三役が訪問する方針を公表した。

 

 だが、環境政務三役については、新型コロナウイルスの感染拡大で入国審査が厳しいとの理由等から、現時点では、派遣するかどうかは不明。このままでは、環境相の「空手形」になりそうという。しかし、すでにフランスの閣僚が現地入りしていることを考えると、コロナが理由で日本の政治家が同国に入れないという理由がわからない。

 

住民やボランティアが総出で油を回収する
住民やボランティアが総出で油を回収する

 

 重油回収でモーリシャスに協力しているのは、フランスだけではない。インドも石油吸収資材を含めて30㌧以上に及ぶ技術資材を、空軍が特別機を飛ばして輸送した。インドの沿岸警備隊で構成する流出石油回収専門の緊急技術部隊10人もモーリシャス入りし、回収作業に従事しているという。

 

 日本の自衛隊も、こうした際に緊急出動すれば、国際貢献とともに日本の存在感を示す役割を果たせるはずだ。だが、河野太郎防衛相もこの問題では声を出していない。

 

 ひょっとすると、小泉環境相も河野防衛相も、退陣を示した安倍首相の後継を目指して、「モーリシャスどころではない」と考えているのかもしれない。小泉環境相は25日の会見で、現地入りした調査チームの活動を紹介し、「モーリシャス側に助言している」ことを強調したが、それ以上の言及はなかった。

 

海岸に付着した流出重油
海岸に付着した流出重油

 

 現地メディアでは「日本とモーリシャス政府の対応の遅さには厳しい批判がある」と指摘されているという。穏健な報道で知られる日本経済新聞でも、積極的な事故処理を進めている仏政府内で、日本の対応の鈍さに「日本政府は今回の事故を受けてちゃんとやっているのか」といった、苛立ちの声が出ていると明かしている。

 

 日本政府はアジアでの石炭火力発電推進では、国際協力銀行(JBIC)等の政府ファイナンスを押し立てて、官民一体の体制でインフラ輸出を展開している。しかし、今回のように事故が起きると「民間企業の話」と距離を置く。

 

 もちろん、インフラ輸出と、貨物船の運航では事業に対する政府の関与度は異なる。国際的に問われるのは、そうしたビジネスへの関与度ではない。国際的に重要な環境や社会的な課題に関わる問題や事件・事故に、当該国の企業、国民が関わった場合の始末について、その国の政府が可能な範囲で対応をするというのが暗黙の国際ルールである。

 

 日本政府が得意な「自己責任論」で済ますわけにはいかないのだ。「企業の責任」については、事態の解決・改善を図った後、政府が当該企業に問いただせばいい。

                     (藤井良広)

 

http://www.env.go.jp/annai/kaiken/r2/0825.html

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200828&ng=DGKKZO63136020X20C20A8EA1000