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オリンピックの「サステナビリティ度」、東京オリンピックは「開催された場合」は、過去30年でビリから3番目の低レベル。米欧研究グループが評価(RIEF)

2021-04-26 20:53:25

Olympic001キャプチャ

 

  開催が注目されている東京オリンピックを含め、1992年から今年まで16回開催された夏冬のオリンピックの「サステナビリティ度」の評価が公表された。欧米の研究グループが環境、社会、経済の3分野の指標に基づきスコア化した。その結果、もっともサステナブルなオリンピックと評価されたのは2002年開催の米ソルトレークシティの冬季オリンピック。東京オリンピックはまだ開催されていないが、「開催された場合」との条件付きでの評価では、最下位から3番目の低さだった。

 

 (上図は、評価対象となった16のオリンピックの評価ランキング)

 

 評価・分析をしたのはスイス・ローザンヌ大学のMartin Müller教授や米ニューヨーク大学のSven Daniel Wolfe教授らのグループ。「An evaluation of the sustainability of the Olympic Games」との論文を、学術誌「nature Sustainablity」に公表した。

 

 研究グループは、オリンピックは社会のサステナビリティのモデルであり、世界中のサステナブルな未来を高める役割があるとして、そのサステナビリティ度の計測を目指した。これまでの夏のオリンピックは120億㌦~280億㌦という巨額の資金が投じられるメガエベントで、世界でもっとも高額な人類活動の一つとされる。同時に、高い政治的優先度、グローバルな関心が集中する点も重要と位置付けた。

 

3分野の評価要素
3分野の評価要素

 

 サステナビリティ度の評価は、環境(Ecology)、社会(Social)、経済(Economic)の3分野で、それぞれ3つの要素をスコア化した。▼環境では①新規施設等の建設②訪問者のフットプリント③イベントサイズ。▼社会では④公的承認(イベントへの公的支援)⑤社会的な安全性(人々の移転等)⑥法規制(法の改変)▼経済では⑦予算バランス(イベントのコスト超過度)⑧資金規模(ファンディングの公的割合)⑨長期的な実行可能性(イベント後の施設の利用)。

 

 各要素について、もっともサステナブルでない場合は「0」、もっともサステナブルな場合は「100」としてスコアを付けた。総平均したところ、評価対象の16のオリンピックの平均スコアは44、環境(44)、経済(47)、社会(51)だった。各要素では、予算バランスの平均コストが26と最も低い。これは歴史的にオリンピックが予算オーバーの傾向があることを示している。

 

 環境分野の「新規施設等の建設」と社会分野の「社会的な安全性(人々の移転等)」の両要素も、ともに35で低コストだった。逆に、競技施設や関連設備のイベント後の再利用による「長期的な実行可能性」は76と最も高かった。

 

1990年以降に開催された夏冬のオリンピックの分野ごとのスコア推移
1992年以降に開催された夏冬のオリンピックの分野ごとのスコア推移

 

 各オリンピックの採点では、2002年の米ソルトレークシティの冬季オリンピックが71点でトップ。第二位は仏アルベールビルの冬季オリンピック。夏季オリンピックで最もスコアが高かったのは、1992年のスペイン・バルセロナオリンピックの56点だった。 ただ、論文は一位のソルトレークシティも汚職疑惑が影を落とし、前年9月11日の米国同時多発事件からの観光復興を目指した点などから「サステナビリティとは縁遠い」と指摘している。アルベールビルも新たな競技施設の建設で環境破壊問題を引き起こしている。

 

 最もスコアが低かったのは2014年のロシア・ソチでの冬季オリンピックと、2016年のブラジル・リオデジャネイロでの夏季オリンピック。その次が「まだ始まっていない」東京オリンピックだ。東京の減点要因では、公的資金による資金拠出が全体の50%を超えている点と、法的に違反はないが、500人以上の人々がオリンピックのために移住を余儀なくされた、と指摘している。新設の競技施設も平均以下の評価しか得られていない。施設の約20%が新設設備である点もマイナス評価だ。

 

 ただ、新型コロナウイルス感染拡大で、観客や関係者の来日・参加が大幅に制限されそうなので、「訪問者のフットプリント」は環境的には減少することが予想される。一方で、仮に協議中にコロナウイルス感染拡大を引き起こすと「社会的な安全性」で大きな減点になる。政府が目指す「コロナ禍克服のオリンピック」としての評価が得られて、サステナビリティ・スコアを高めるかどうかは、現時点では微妙と言わざるを得ない。

https://www.nature.com/articles/s41893-021-00696-5.pdf