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洋上風力発電に環境団体からの逆風 独脱原発で論点に (Bloomberg)

2012-08-22 09:02:15

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原発の代替電源の一つとして洋上風力発電施設の建設を急ぐドイツの電力業者の前に、新たな問題が浮上している。それは海の中からだ。パイル(杭(くい))を打ち込む際に出る騒音が付近に生息するネズミイルカにダメージを与えているとして、環境保護団体から批判を浴びているほか、海底では第二次世界大戦中に残された機雷が見つかり、ケーブルの敷設に支障が生じているのだ。各社は対策のために追加コストの負担を余儀なくされており、国の脱原発の工程にも影響を与える恐れが出ている。

 ◆イルカにダメージ

 「ネズミイルカは聴覚を痛めると死ぬ運命にある。騒音制限に何度も違反した開発業者は処罰すべきだ」。ドイツ自然保護連盟の海洋学者、キム・デトロフ氏は語気を強める。

 ネズミイルカはイルカより一回り小さく丸みを帯びた体形でソナーに似た聴覚器官を持つ。地元の海洋生物学者でコンサルタントでもあるスヴェン・コシンスキ氏によると、北海とバルト海には現在約23万1000頭が生息。バルト海では1994年から2005年の間に個体数が60%激減し1万1000頭になったという。

洋上風力発電施設の建設では、風車の基部となるパイルを海底に打ち込む際に大きな水中音が発生する。独連邦海運水路局はこれに関し、建設現場から750メートルの地点で160デシベルを規制基準として定めているが、ほとんど守られていない。コシンスキ氏は、打ち込みの際に245デシベルもの音が発生する場合があり、イルカの身体に損傷を与え得るレベルだと警告する。

 ドイツ政府は、30年までに2500万キロワット分の洋上風力発電施設の設置目標を掲げており、ブルームバーグの試算では事業費は20年末までの段階で392億ユーロ(約3兆8420億円)に達する。所要面積は米ニューヨーク市の8倍に及ぶ見通しで、在ドイツ世界自然保護基金(WWF)ワッデン海事務所は「自然に深刻な影響を与えるとみられ、軽減措置が必要だ」と指摘する。

 開発業者は既に対策に着手している。独電力大手のエーオンとRWEなどは、バルト海で先月完工した風力発電事業に際し、390万ユーロを投じて騒音軽減措置を実施、効果をあげている。RWEはまた、北海東部で建設中のウインドパーク(風力発電基地)「ノルトゼー・オスト」についても、気泡の幕をつくり出すための穴を開けた大型ホースを48の各風車基部の周囲に設置。これで1万2000回余りのパイル打ち込みの際に発生する音を吸収させたい考えだ。

 「通常、開発業者はできるだけ早く基部を設置したがるが、規制当局や自然保護団体からネズミイルカを保護するよう圧力を受けている。どの業者も環境を破壊しているとは見られたくない」と独ハンブルク工科大学のオットー・フォンエストルフ氏は説明する。

◆コスト増も頭痛の種

 沖合風力発電事業はリターンが低いとされ対策に伴うコスト増は開発業者にとり頭の痛い問題だ。独ヒュドロテクニーク・リューベックによると、開発業者は風力発電施設の建設に当たって投資額の約0.5%を騒音軽減対策に充てている。ブルームバーグのデータによれば、ドイツの風力発電施設の開発コストは現在、1000キロワット当たり約420万~440万ユーロと英国の約370万~400万ユーロよりも割高。その一因がこうした騒音対策コストだ。

 風力開発業者が直面しているもう一つの問題が、海底に眠る不発弾だ。独電力大手EWEなどが建設する北海洋上の風力発電施設「リフガート」では、送電網への接続を担うオランダ系のテネットTSOがケーブル敷設の準備を進めていた際に第二次世界大戦中から残る機雷を複数個発見した。独政府の支援で作成され昨年12月に公表された報告書によると、ドイツ海域の北海・バルト海の海底には機雷やTNT爆弾、化学物質を含む砲弾などの武器が約160万トンあると推定されている。(ブルームバーグ Stefan Nicola)